第21話 王城

「基本的に、王家の親殺しの儀は皇妃様達は無関係なんだけど……魔法の国から来た女王様は、王様が死ぬのが嫌だって言うんだ。ハーバードに王位を譲って、老後は二人でゆっくり過ごしたいって」

「それで、ハーバードの親殺しの儀が遅れていたのね……でもそれって、古いしきたりなんでしょう? 通るの?」

「ロベリタ様が親殺しの儀を終えるまでは、通る空気だったよ。二人とも親殺しの儀を免除して、王位に就かせる話が出てた。だけどそんな時に、ロベリタ様が親殺しの儀を成功させちゃったんだよ」

「そんな、どうして……」


 ロベリタは親を殺したくなかったはずなのに、と言いかけたところで、ロベリタの記憶がよみがえる。お父様とお母様の手にかかれたら幸せだったのに。それはハーバードに寝かしつけられる前に見た、ロベリタの親殺しの儀の記憶だった。彼女は、最初から親を殺すつもりなんてなく。きっと自分が手にかけられる為に、親殺しの儀を行ったのだ。

 それなのに、彼女は勝ってしまった。殺してしまった。大好きな両親を。いつの間にか両親を超えていた自分に絶望し、恐らくわざとその手にかかったであろう両親に絶望し、彼女は――。


「お姉ちゃん? 大丈夫?」


 気が付くと、考え込んでしまっていた。アランが心配そうに顔を覗いてくる。


「あ……だ、大丈夫よ。とにかく、ハーバードのところへ行きましょう」


 着いた先は、王城と呼ぶにふさわしい大きなお城だった。屈強な番兵が、もう夜も更けるというのにあちこちに立っている。なんだかんだとお見舞いに持っていく品を見繕っていたら、遅い時間になってしまった。私とアランは馬車から降り、使用人に一礼する。


「ありがとう」


 馬の綱を引いていた初老の使用人に声をかけると、とても驚いた顔をされた。前のロベリタは、お礼など言ったこともなかったのだろうか。変な噂が広まったらどうしよう。ハーバードの状況を知ったのをきっかけに、私の中には貴族としての立ち振る舞いへの意識が生まれていた。


「ろ、ロベリタ様……おい、ロベリタ様がいらしたぞ! ハーバード様のところへ案内しろ!」


 挙句、番兵にまで怯えられて、メイドを呼びつけられる始末だった。

 メイドと言っても、世間一般的に想像する若々しい人ではなく、馬を引いていた使用人と同じくらいの、初老の女性だった。背筋はピンと真っ直ぐ通っており、初老と言っても老いをあまり感じさせない。張り詰めた弦のような眼差しの人だった。


「ご機嫌麗しゅう、ロベリタ様。ハーバード様は今眠っております。恐縮ですが、お静かにお願いいたします」


 メイド長、だろうか。きっちり90度に礼をする彼女に私もつられて礼をすると、アランに小声で叱られた。


「お姉ちゃんは貴族なんだから、礼なんてしなくていいってば」


 言われてみれば確かにそうだ。

 ごめんなさい、と同じく小声で謝る。

 つい最近までお辞儀の国とも呼ばれる世界でOLをしていたのだ、きちんと礼をされるとついつられてしまう。


(礼をしないのがこんなに苦しいなんて……貴族ってのも大変なんだわ)


 始めてくる王城に一抹の不安を覚えながら、私達はメイド長らしき女性の後を追った。

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