ロベリタ・リ・ベルマーニⅡ

「そんな……」


 思わず、その場にへたり込んだ。望まれている命のはずなのに、何故彼女は自ら死のうとしたのだろうか。考えてみたが、愛されたことも、必要とされたこともない私には、答えなど出るはずもなかった。このままロベリタとして生き続けて、知る他ないのだろう。


「ま、君は望む身体が手に入ったし、望む環境も手に入れた。今はそれを喜べば良いさ。」

「……」

「本物のロベリタのことなんて忘れて、ね?」


 セシルがさらに瞳を細める。扇の奥の表情は、笑っているのだろうか。それとも今はもういないロベリタを想っているのだろうか。

 どんな気持ちで、彼女の願いを聞き入れたのだろう。止めたのだろうか、それとも、止められない理由がこの人にはあったのだろうか。考えると眩暈がした。身体が、ロベリタ・リ・ベルマーニという人間の感情を覚えているような気がした。この深い悲しみは私のものではない。人当たりのきつかったという彼女の真実は、この身体に刻み込まれている。


「……誰も、弔ってあげないんですか」

「君がしてるじゃないか。見ず知らずの世間知らずのお嬢さん相手に」

「私が?」


 セシルが扇で私の目元を指す。触れると、そこは涙で濡れていた。


「私は彼女を知りません。彼女を知っているのは……」

「誰もいないよ。本当に彼女を知っていた人間なんて、ここには誰もいない」


 冷たく遮られた。ハーバードでさえも知らなかったというのだろうか。彼女の深い悲しみや、感情を。アランは? セシルは? 彼女は皆に必要とされていたわけではないのだろうか。


「その内、君もわかるよ。何せ彼女と同じ立場に立っているんだから。」

「そう、ですね」

「さあ、僕が教えられるのは此処までだ。此処からは傍にいる二人にお聞き。情報ならいつでも売ってあげるから、御用の際はお気軽に。……そろそろお供の二人が痺れを切らしてるだろうからね」

「え? あ……はい」


 背中を押されて促される。お供の二人、という言葉に、ハーバードとアランのことが脳裏に過った。二人は何をしているだろう。ちゃんと待っていてくれているのだろうか。そういえば、キスまでされたのだった。頬がひとりでに熱くなるのを感じながら、私は情報屋を後にした。

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