第九十六話 竜司、竜排会を知る。

「やあ、こんばんは。

 今日は竜排会と対面した所からだね」


「うん」


「じゃあ、始めようか」



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 僕は視線を相手側に向けつつ受動技能パッシブスキルが発動しないよう目線を逸らした。

 相手を見ながら目線を逸らすというのはなかなかにコツがいる。


 お互い様子を伺っている。


 前もって言っておくけどこの戦いは驚かされる事ばかりだったよ。

 口火を切ったのは竜排会だ。


(竜くーん!

 名前教えてー!)


 相手側から大声が響く。

 一瞬何を言っているか解らなかった。


 竜とコミュニケーションが取れるのは竜河岸だけなのに。


【ん?

 俺か?

 ガレアだよ】


「ガレアくーん!

 あなたの好きなもの教えてー!」


【好きなもの?

 アステバンだな】


 何故だ?

 何故ガレアの言ってる事が理解できる?


 疑問を消化する間も無く向こうが慌ただしくなった。


(アステバン……)


 カタカタカタカタ


 向こうの一人がノートPCのキーを叩き出した。

 片手で叩いている。


(出ましたっ!

 日本の特撮です!

 昭和五十九年四月放送開始……)


 向こうの動きに僕はただ唖然と見ていた。


(OP流しますっ!)


 向こうの車両に取り付けられているスピーカーからアステバンのOPが流れる。


 明日へのたーめにー♪


【おっ?

 アステバンのOPじゃん】


 ガレアが食いついた。


(ガレアくーん!

 一緒に作品見ましょーよー!)


【おっ?

 見る見るー】


 瞬く間にガレアは向こうに行ってしまった。


 そそくさと座ったガレアは後部座席に取り付けられたモニターでアステバンを見だした。


 すると向こうの指揮官らしき男がポーズをキメながら高らかに笑う。


(フハハハハ。

 これぞ竜無効陣ドラゴンインバリッドフォームっ!

 お前の竜はこれで無効化されたっ!)


 何だか厨二っぽい名前だなあ。


(フハハハッ!

 さあ、粛正隊よっ!

 前へっ!)


 見た目的にも荒っぽい連中が前に出てきた。

 完全にヤクザ。


 市民団体ではないのか?

 でもこうゆう人ならやりやすい。


 僕も全力で行ける。


(へへへ……

 ごめんなあボーヤ。

 お前をとりあえずぶちのめせって命令なんだよ……)


 中の一人が木刀を手に迫って来る。


魔力注入インジェクト


 ガレアから中ぐらいの魔力の球が僕に向かい体内に入る。


(オラァッ!)


 勢いよく振り下ろされた僕の首筋に木刀が炸裂する。


 ベキッ


 木刀がへし折れる。


(へ……?)


 木刀に気を取られている男の腹に強烈な右裏拳を入れる。

 真横に吹き飛ぶ男の身体。


 相手の囲いに炸裂して数人倒れた。


(ほぅ……

 魔力注入インジェクトが使えるのか……

 中級竜河岸だな。

 よし!

 脱竜隊だったつたい準備せよっ!)


 よく聞き取れなかったが向こうに動きがあった。

 相手側の一人が前に出てきた。


魔力注入インジェクトは有限だ。

 時間を稼げ。

 粛正隊よっ!

 怯むなっ!

 数で押せっっ!)


 ヤクザが群れを成して僕に迫りくる。

 僕はこの段階で少し嫌な予感がしていた。


 相手は竜や竜河岸の事を知り尽くしている様だったから。


(くらえっ!)


 頭を目がけて勢いよく木刀が振り下ろされる。

 僕は両腕に魔力を集中。


 木刀を掴む。

 そして思い切り振り回した。


(うわっ!

 うわわわぁぁ!)


 僕の頭上でグルグル回りながら叫んでいる。

 木刀離せばいいのに。


 そのまま手を放した。

 ヤクザは放物線を描き迫りくるヤクザの群れに激突。


(お前ら馬鹿かぁっ!

 真正面から行ってどうするっ!

 取り囲んで同時に攻めろっ!)


 前から後ろから五人が迫って来る。


 まずい。

 同時に来られたら。


 時間も多分そろそろ限界だ。

 僕は最後の魔力を両脚に集中し、真横に低く跳んだ。


 弾丸のように跳び、囲いを抜ける。


 着地。

 急いで立ち上がった僕はのん気にアステバンに夢中なガレアに向かって叫ぶ。


魔力注入インジェクトォォォ!」


 ガレアの背中から魔力球が現れる。

 フワフワこっちに向かってくる。


(時間切れか……

 凡そ一分か。

 よし脱竜隊だったつたい行けっ!

 粛正隊はそいつを足止めしろっ!)


 ヤクザ連中が僕の前に立ちはだかる。

 僕がマゴマゴしていると驚く事が起こった。


 向こうの一人がガレアの魔力球に飛び掛かったのだ。


「えっ!?」


 魔力球に突っ込んだ男の胸が大きく波打つ。


(フハハハッ!

 魔力注入インジェクトなどっ。

 魔力球さえ抑えてしまえば、たやすいっ!)


 だが、魔力を取り込んだであろう男はそのまま倒れてしまった。

 動かない。


(なにっ!?

 起きろっD4ッ!

 どうしたっ!

 D4ッ!?)


 これは向こう側にしても計算外だったようだ。

 D4と呼ばれた人は動かない。


(フム……

 中級だがその中でも上位という訳か……)


 というかヤバくないかコレ?

 今僕の身体能力は普通に戻っている。


(粛正隊っ!

 今あいつは通常の身体能力に戻っているっ!

 今なら殲滅出来るっ!)


 顔が汗で濡れているのがわかる。

 僕は酷く焦った。


 はやくガレアの元へ行かないと。

 僕は正面からの攻撃を掻い潜ってガレアの元へ駆け出す……



 はずだった。



 バキィッ!


 正面のヤクザの脇を走り出した瞬間左肩に猛烈な痛みが走る。

 ヤクザの木刀が炸裂したのだ。


「グウッ……!」


 悶絶し、転がり倒れる僕。


 やばい、このままじゃやられる。

 頭を抱えて丸まるのが精一杯だった。


(おーいてて……

 さっきはよくもやってくれたなあ!)


 怖い。

 怖い怖い怖い。


 げんと対峙した時や杏奈あんなと戦っていた時とは違う。

 これからリンチに遭う。


 これは避けられない。

 強張る身体。


 右肩に勢いよく振り下ろされる木刀。

 激しい痛みが走る。


 ああリンチが始まった。

 右肩を皮切りに痛みの濃い波紋が広がる。


 左頬、左肩、背中、右上腕部、腰。

 余りの痛みに意識も遠のく。


「ガレ……

 ア……」


 当のガレアは未だアステバンに夢中だった。


【おっ!?

 ダブルアステクラッシュッ!

 やっぱこの回の二刀流はかっこいいよなー竜司?

 あれ?

 竜司?

 竜司?

 どこ行った?】


 キョロキョロするガレア。


【あっ……

 いたいた。

 竜司何やってんだよ】


 ガレアはドスドスこっちへ来る。


 僕はリンチの真っ最中で周りはヤクザの人だかり。

 今考えるとよく僕のいる場所が解ったなあと思うよ。


 ガレアはヤクザの顔を掴んでポイポイ後ろへ投げる。

 軽々とまるで荷物を投げる様に。


 僕はと言うとリンチの影響で気絶寸前だった。

 竜が急に来たせいかヤクザの攻撃も止んでいた。


「…………魔力注入インジェクト


 消え入りそうな声で魔力注入インジェクト発動。

 取り込んだ魔力を全て身体の治療に充てる。


 見る見るうちに身体から痛みが引いていく。


 ガリッ


 口の中で異物を感じる。


 ペッ


 僕は中の異物を吐き出した。


 地面に落ちたのは僕の歯だった。

 魔力注入インジェクトでは治らないのか。


 僕はゆっくり立ち上がる。

 僕は完全にやる気だった。


 よくもリンチしてくれたなと、もうヤクザの連中には手加減しない。

 僕は大きく息を吸い込んだ。


「ガレアァァァァァッツ!

 流星群ドラゴニッドスゥゥゥゥッ……」


 僕を中心に緑のワイヤーフレーム展開。

 僕はその場で一回転。

 周り全員を視野にいれるためだ。

 ヤクザの身体に次々と蒼い菱形印が付いていく。

 間髪入れず僕は叫ぶ。


「シュゥゥゥゥゥトォォォッ!」


 ガレアが白色光に包まれる。

 刹那ガレアの身体から流星の様に無数の魔力閃光アステショットが射出。


(うげぇっ!)


(おごぅっ!)


(ぶほっ!)


 周りのヤクザの顔面に、肩に、腹に、腰に次々と魔力閃光アステショットが命中。

 悶絶しバタバタとドミノのように倒れるヤクザ達。


 命中部分がばらけているのは僕は蹴散らすのが目的だったためだ。

 この流星群ドラゴニッドスの広範囲殲滅力は使える。


(馬鹿なぁっ!

 戦術が戦略を上回るなどとっ!)


「ガレアっ!

 敵陣に穴を空けるっ!

 暮葉くれはが逃げるための道を作るんだっ!

 行くぞっ!」


 僕とガレアは暮葉くれはのワゴン車前方を目指す。


(くそっ!

 もう一度竜無効陣ドラゴンインバリッドフォームを仕掛けよっ!)


 先程ガレアがアステバンを見ていたワゴン車が移動し、僕らの動線上に来る。

 すぐさま向こうが大声で叫ぶ。


(ガレアくーん!

 また一緒にアステバン見ましょー!)


【おっ!?

 アステバン?】


 やばいっ!

 ガレアがまた向こうに行ってしまう。


「ガレアッ!

 向こうに行くなっ!」


 僕はすぐさまガレアを呼び止める。


【えー……

 でもよう竜司……】


 ガレアは見たそうだ。

 でも歩みは止めた。


 もう一押しだ。


「ガレア……

 ここで僕の側から離れなかったら……

 アステバン全五十三話ッ!

 劇場版三作ッ!

 ノンストップで一緒に見ようっ!」


【何っ!?】


 ガレアがこっちに来る。


【それはつまりあれか……?】


「ああそうだ。

 アステバン祭りだっ!

 もちろんばかうけも食い放題だッ!」


【竜司~……】


 ガレアの眼がキラキラして顔が綻んでいる。

 よしこれで大丈夫だろう。


 向こうの中二病臭い指揮官も悔しがっていた。


(くそっ!

 初めて見た竜の聞き取りリサーチ不足が仇となったかっ……。

 元来竜無効陣ドラゴンインバリッドフォームは初期の聞き取りリサーチを入念に行って効果を発揮するもの……)


「よし!

 ガレア!

 今日の僕の役目は暮……

 アルビノを守り抜く事だ!

 明日は二人でにっこり笑ってアステバン祭りをしよう!」


【よしっ!

 約束だぜ!

 竜司っ!】


(くそっ!

 粛正隊行けっ!)


 眼が血走せ、声を荒げながらヤクザが群れを成して僕らに襲い掛かって来る。

 ふん、お前らなんかガレアが側に居れば雑魚だ。


 僕はガレアの右手を掴んだ。

 大きく息を吸い込む。


「ガレアァァァ!

 魔力注入インジェクトォォォォ!」


 ガレアの右手からどくんどくん魔力が伝わってくるのが解る。

 まるでホースで水を送り込む様だ。


 ドクン

 ドクン


 心臓が大きく二度波打つ。

 ここで僕は手を放す。


 魔力補給二連続は初めてだ。

 さあどうなるか?


 そんな事を考えている間も無く、無数の鈍器が勢いよく振り下ろされる。

 角材、バット、木刀様々その数六つ。


 僕には試してみたいことがあった。


 まず脳に魔力を集中。

 そして両肩から手の先まで魔力を集中。


 来た。

 六つの鈍器がゆっくりに見える。


 ゆっくりゆっくりと。

 鈍器が僕の身体に降りてくる。


 まず、左端の男の手首を捻り、木刀を奪う。

 そして右薙ぎ一閃。


 残り五つの鈍器が宙に舞う。

 成程こんな感じか。


 脳に集中していた魔力を四肢に分散させる。

 世界が通常の速度に戻った。 


 カランガラガラ


 宙に舞った五つの鈍器が重力に逆らわず地面に落ちる。


 ■魔力注入インジェクト


 魔力を体内に入れて身体能力を飛躍的に上げる技術。

 魔力は人間にとって有毒なため多用は厳禁。

 使いすぎると後に後遺症が出る。

 制限時間あり。

 使える時間はガレアから出た魔力球の大きさで決まる。

 使用は魔力を集中する箇所をイメージによって決める。


 体内に取り込んだ魔力を留め、それを身体に振り分けると言う事だ。

 当然振り分けが大きくなると制限時間も長くなる。


 残り残量が具体的に判ればいいんだけどなあ。

 こればかりは感覚に頼るしかない。


(このガキィィィ!)


 獲物を落とされた一人が拳を握り僕の顔面目掛けてパンチを放つ。


 ガン


 鈍い音が響く。


「ふん」


(いってぇぇぇぇ!)


 ヤクザが振り下ろした右拳を押さえながら蹲る。

 僕は全く痛くない。


 魔力を顔前面に集中させていた。


 顔面を狙ってくるのは解ってたから。

 漫画とかでもそうだけどこういう乱暴者キャラって大抵顔面を狙ってくるんだ。


「行くぞっ!

 ガレアッ!」


 魔力は既に四肢に送り込んでいるから準備万端。

 まずはうっとおしい前のヤクザ六人を蹴散らすとしよう。


 まずは左の二人。

 左端のヤクザの腹に思いきり拳を叩きこんだ。


 ベキベキベキベキ


 肋骨の折れる鈍い音が響き、ヤクザの意識を一瞬で断ち切ったのだろう。

 一言も発せず身体をくの字に曲げながら真っすぐ後ろに吹っ飛んだ。


(なぁっ!?)


 余りの光景に疑問の驚嘆を上げるのが精一杯といった様子。

 だがそんなこと僕には関係ない。


 次は隣。


 僕は素早く腰を回転させ左回し蹴りを脇腹に炸裂させる。

 左脛に骨が折れる感触が鈍く伝わる。


 骨ってこんなに簡単に折れるものだったっけ?


 蹴られたヤクザは身体を三日月型に曲げ一瞬で視界から消えていった。

 飛んだ身体は残り四人を巻き込みガードレールに激突した。


「ふう……」


 囲んだ六人が消え、辺りはスッキリした。

 と言うのも竜排会の連中は僕の戦いぶりを見て怖気づいてしまったのだ。


「まだやる?

 おじさん達」


 僕は鋭い眼光を周りに向ける。


 ただ内心は少し、いやかなり嬉しかった。

 こういうヒーローっぽい台詞を一度言って見たかったからだ。


(ぐぐっ……!

 おのれぇぇぇぇ!)


 向こうの指揮官らしき人が悔しがっている。

 僕は気に留めずに僕は暮葉くれはのワゴン車の動線上を指さす。


「そこの人達。

 車と竜が通るからどいて。

 どかなくても力づくでどかせるけど……

 どうする?」


 僕はもう一度鋭い目を向ける。


(ひっ……)


 鋭い目を向けたもののまたヒーローっぽい台詞を言えた事で内心は嬉しかった。

 頭の中で僕を賞賛する黄色い声援が飛んでいた。


 咄嗟に顔を背けたが、顔は緩々に綻んでいただろう。


 そんな僕の様子とは裏腹に進路上のヤクザ達は怖気づき、後退りしながらその場を空ける。


 道が開いたのを確認した僕はワゴン車の助手席に向かい扉を叩く。


 コンコン


 助手席の扉が開く。

 中からマス枝さんの顔が出る。


「マス枝さん、とりあえず進路はOKです。

 出発して下さい。

 あとそれと次は僕も車に乗せて下さい。

 色々聞きたい事があります」


「わかったわ」


「ガレア、僕は少しの間車に乗るからこの車についてきてほしい」


【わかった】


 僕は車に乗り込む。

 直に発進。


 僕の隣には暮葉くれはが座っている。


 チラッと暮葉くれはの顔を見ると少し頬を赤らめチラチラ横目でこちらを覗き見ながら俯いている。


暮葉くれは……?

 どうしたの?」


「えっ……

 いや……

 その……

 ゴニョゴニョ……」


 何かハッキリしない。

 らしくないなあ。


「どうしたんだよ。

 らしくないなあ。

 言いたい事があったら何でも言ってよ」


 僕が話しかけると暮葉くれははおずおずと上目遣いでこちらを見ている。


 流石アイドル。

 可愛いなあ。


「……ホント……?

 何を聞いても怒らない……?」


「うん」


 何か聞きたいことがあるのかな?

 僕は了承した。


 その言葉を聞いた瞬間。

 暮葉くれはの大きな瞳が更に大きくらんらんと輝きだした。


「竜司っ!

 あのねっ!

 さっきのケンカ見てたわっ!

 竜司ってすごく強いのねっ!

 でもでもっ!

 何でガレアが側に居なくなったら急に弱くなったのっ!?

 それでねそれでねっ……!」


 了承した途端、急流のような言葉が僕に雪崩れ込んできた。

 それはダム決壊の濁流のようだ。


「ちょ……

 ちょっと待って待って。

 ストップストップ」


 余りの言葉の量にたまらず制止する僕。


「ハッ……!?

 ごっ……

 ごめんなさいっ!」


 我に返った暮葉くれはは顔を真っ赤にしながら俯いている。

 時々チラチラ上目遣いで見る表情は失敗したって顔だ。


「どうしたの?」


 暮葉くれはは僕の問いかけに表情を下から探る様に伺い、重い口を開く。


「あのね竜司……

 私……

 人間になりたいの」


 急に何を言っているんだ?


「何の話?」


「私がアイドルを目指すキッカケ……

 アイドルのライブ映像を見たの」


「映像?」


 まだ何を言ってるが解らないが、とりあえず話させてみよう。


「うん竜界でね。

 ビックリしたわ。

 皆スッゴクキラキラしてて……

 そこから人間に興味を持ったの……」


「そうか」


「それでマザードラゴンにお願いしたの。

 私は人間になりたいって。

 そろそろちぎりが明けるから地球に行かせてくれって。

 そして私は人間の姿になって地球に来たわ。

 そして歩いていたらマスさんにスカウトされたの」


 僕はちぎりと言うワードが気になったがそこは敢えてスルーして別の話題を振ってみた。


「どれぐらいでスカウトされたの?」


「行ってすぐよ」


 凄い。

 正直そう思った。


 暮葉くれはは話を続ける。


「でね、私はまず“恥”って言うものがあるって知ったわ。

 人間ってすぐ他の人と比べたがるのね。

 最初私には全然解らない感情だったわ。

 それで今は人間の感情を勉強、習得中なの。

 来た時と比べて感情も色々習得したと思うんだけど……」


 そう言いかけた暮葉くれははまた頬を赤らめながら俯きだした。


「だけど……?」


「湧き上がる好奇心には勝てないのよっ!

 しょうがないのよっ!

 興味が向いちゃうと教えて欲しくてしょうがなくなるのよっ!

 ……でね竜司……

 さっき貴方に家出の事、無理に聞き出して怒ったんじゃないかって……」


 何となく色々と回りくどいと思ったが、成程。

 先程の暮葉くれはの態度に色々合点がいった。


 要するに聞きたい事はあるけれど先の一件もあるしどうしようかと悩んでいたって所か。


「いいよいいよ、そんな事気にしなくて」


「えっ……?

 でも人間って発言を濁す時は言いたくない事があるってマスさんが……」


 まあ確かに言ってて気分の良いものではない。

 だけど僕のトラウマ部分は上手く隠せたし問題は無い。


「ホントに大丈夫だよ。

 考えてもごらんよ。

 僕はあのガレアの竜河岸だよ?

 そのくらいのこと慣れっこさ」


「フフフそうね。

 でもまさかガレアを使役する人が出るなんてね」


「向こうのガレアってどんな感じだったの?」


「えっと……

 何かいつも気ままで自由な感じだったわ。

 でもいつもどこか退屈そうな……」


 何か目に浮かぶようだ。


 おっと、このまま暮葉くれはと話していたい所だけど僕も聞きたい事を聞いておかないと。


暮葉くれは、ちょっと待ってね。

 さて、マス枝さん。

 竜排会について詳しく聞かせてくれませんか?」



 ###

 ###



「はい今日はここまで」


「パパー?

 何でママは人間になりたかったのー?

 竜のままなら強くてかっこいいのに」


たつ

 竜ってね魔力があるせいで一人で完全に何でも出来ちゃうんだよ。

 それに比べて人間って不完全で一人じゃ何も出来ないから皆で寄り集まって頑張って歴史を積み重ねてきたんだ。

 それに竜って完全に何でもできるせいで感情の種類が少ないんだ。

 かたや人間は笑ったり怒ったり泣いたりと色んな感情があるじゃない。

 それに憧れたんだよ」


「ふうん」


「前にママが言ってたよ。

 こんなに色々な感情が出せる人間って羨ましいって」


「ふうん、よくわかんないや」


「そのうちきっとわかるようになるよ。

 じゃあおやすみ……」

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