第九十一話 竜司、陸上自衛隊に保護される。

「やあ、こんばんは。

 今日も始めていこうか」


「ねえパパ?」


「ん?」


「何かパパのお話聞くのすっごく久しぶりな気がするんだけど……」


 たつがおかしな事を聞いてくる。


「何言ってるの?

 昨日も話しただろ?」


「そうかなぁ……?」


「まあいいじゃないか。今日も始めていこう」



 ###

 ###



「う……

 ん……?」


 僕は目を覚ます。

 また知らない天井だ。


 ここはどこだ?

 僕は自分の状況を分析する事にした。


 確か……


【竜司、悪りぃ。

 躓いた】


 そうだ、僕は高速道路をガレアに乗って走ってたんだ。

 それでガレアが躓いて僕は投げ出され気を失ったんだ。


 そして僕は今どこかの部屋のベッドに寝ている。

 と言う事は……


 ガチャ


 僕がある推測に辿り着いた時、部屋のドアが開き女性が入ってきた。


 紫紺色の女性用スーツを纏い、帽子を被っている。

 メガネをかけ栗色のショートボブヘア。


 その独特な雰囲気に僕の推測は確信に変わった。


(目を覚めましたか?)


 僕はゆっくりと半身を起こす。

 まず女性に聞いてみる事にした。


「あなたは……?」


 そう尋ねるとキリッと姿勢を正し、サッと敬礼する女性。


(自分は四辻文寧よつつじあやね

 二等陸曹よ)


 その女性は静かにそう言う。


 やはり。

 気を失った僕は自衛隊に連れていかれたのだ。


 おそらく十中八九そうなのだろうが僕は確認のために聞いてみた。


「あの……

 ここはどこですか……?」


(ここは陸上自衛隊駒門駐屯地。

 あなたは高速道路で転倒して気を失ったのよ。

 覚えていない?)


 僕は黙っていた。

 いわばここは敵の本拠地の中心だ。


 出来るだけ言動は控えないと。

 そう思ったからだ。


 続いて女性が口を開く。


(まあいいわ。

 ついてきて。

 一佐に目覚めた事を報告するから)


 僕は言われるままにベッドから降りた。

 一佐って言うと兄さんが追っている呼炎灼こえんしゃく一等陸佐だろうか。


 その時重大な事に気づいた。


 ガレアが居ない。

 ガレアはどうしたんだ?


 部屋の外から出て歩く僕ら。


 前の女性……

 文寧あやねさんと言ったか。


 凛とした歩き方。

 僕は後ろから口を開く。


「あの……

 僕の竜はどこでしょうか……?」


 文寧あやねさんは黙っている。


 黙ったまま凛と前を歩く。

 白いドアの前に辿り着いた。


 ガチャ


 ドアを開けた。


(こっちよ。

 ついていらっしゃい)


 入るとまだ通路は続いていた。

 右側はガラス張りになっている。


 その向こう側は広いようだが何やら格子状の模様のある赤い皮の様なものが全面にあり、全容は良く解らない。


 その赤い皮の手前に女性と空色の竜が居る。

 何か作業をしている様子。


 女性は前にある湯気の立っている赤茶焦げた肉片の様なものに手をかざしている。

 肉片は光る蒼い膜に包まれた。


 その様子を眺めていたら文寧あやねさんから声がかかる。


(どうしたの?

 早くいらっしゃい)


 文寧あやねさんはドアをノックする。


 このドアの向こうに呼炎灼こえんしゃくがいるのか。

 確か異名が岩漿自在フリーリーマグマータ


 僕は身震いする。

 しかしガレアの事も気にかかるし、色々な事が起こり過ぎてゲンナリする僕。


 そんな事を考えている内にドアが開く。


 部屋は格式高い絨毯が敷かれ、高そうなソファーが二つ対面で並んでいる。

 一目で偉い人の部屋っていうのが解る。


 少し変わっている所とすれば棚の内の二つにガラスケースが設置されており、中にプラモやフィギュアが並んでいた。


「おう、どうした?

 ん?

 その少年が目覚めたのか」


 ソファーに座って書類を眺めている男が一人。

 ガッチリした体型で骨太といった印象。


 茶色の髪でオールバック。

 キリッとした眉に狭い目から放たれる鋭い眼光。


 一目で伝わる迫力に圧倒される僕。


文寧あやね、ご苦労だったな。

 さあ客人をもてなすとしよう。

 かけたまえ少年」


(では私はお茶を入れてきます)


 サッと踵を返し、文寧あやねさんは部屋を出ていった。

 僕は呼炎灼こえんしゃくの対面に座る。


「フム……」


 呼炎灼こえんしゃくは左手で顎を擦りながら僕を見る。

 推し量っている様だ。


「少年……

 ズバリ年齢は十四歳。

 違うか?」


「はい、そうです……

 老けているってよく言われるのに何で解ったんですか?」


「吾輩の特技の一つでな。

 顔を見れば大体の人間の年齢を当てる事が出来る。

 顔が老けているとかは関係ない。

 確かに少年は年齢の割には大人びて見える。

 それだけの経験を積んでいると言う事か」


 呼炎灼こえんしゃくはニヤリと笑う。

 とにかく僕はガレアの居場所を聞いてみる事にした。


「すいません……

 僕の竜はどこでしょうか……?」


「少年の竜……

 ああ、あの緑の翼竜か……

 暴れるから少々痛めつけた」


「え……?」


 僕は絶句した。

 痛めつけたってあのガレアをか?


「そろそろ治療が完了する頃だろう。

 ついてきたまえ少年」


 すっくと立ちあがる呼炎灼こえんしゃくについていく僕。

 部屋を出てさっきのガラスの前に立つ。


 光る蒼い膜に包まれている肉片が見覚えのある竜に変わっていく様が見えた。


「これは……?」


 僕は生唾を飲み込み聞いてみた。


「彼女は久我真緒里こがまおり医官。

 我が陸竜大隊の回復の要。

 今行っているのはスキルを使用した治療だよ」


 治療。

 確かにいつの間にか湯気も消えていて、どんどんいつものガレアに戻っていく。


 すると急に大きな声が聞こえる。


炎灼えんしゃくよ……】


 余りの大きな声に僕は辺りを見渡す。

 響き方から竜だろうとは思うが竜はガラスの向こうに一人いるだけだ。


 すると隣に居た呼炎灼こえんしゃくが応対する。


「おうボルケ。

 どうした?」


 僕は呼炎灼こえんしゃくの方を一瞬向く。

 そしてまたガラスの方を向いた瞬間、驚いた。


 ガラスの向こうにあったのは眼だ。


 大きな眼。

 赤い大きな眼がこちらを向いている。


「うわぁぁぁっ!」


 僕は余りの大きさにへたり込んでしまう。

 見上げるとと呼炎灼こえんしゃくがニヤリ。


「こらボルケ。

 客人が驚いているではないか」


【フン、そんな事は関係ない……

 それよりも炎灼えんしゃくよ……

 いつになったら我をマンダイホビーセンターへ連れて行くのだ……】


「立てるか少年。

 手を貸そう」


 僕はゴツゴツした手を掴み立ち上がる。


「何ですか……?

 これは……?」


「ん?

 じゃあ紹介しよう。

 ついてきたまえ」


 先程の部屋とは別のドアを開け、僕を招く。


 ドアの向こうは大きな体育館の様になっていた。

 戦車が見えるのでおそらく陸自のハンガーと言った所だろう。


 だが戦車よりも驚いた事がある。


 それはそこのハンガーに座する竜の大きさだ。

 ハンガーの天井は凡そ十五メートルはあるだろうか。


 だがそのハンガーにぎりぎり入るぐらいの大きなサイズ。


 一言で表現するなら山。

 赤い大きな山だ。


 先程見えていた格子状の赤い皮はこの竜の皮膚だったのだ。

 僕は余りの大きさにただただ驚き、黙って見上げるのみ。


「少年、紹介しよう。

 これが吾輩が使役する竜。

 赤の王、ボルケだ」


炎灼えんしゃくよ……

 早く我をマンダイホビーセンターへ連れて行かぬか……】


 大きな声が頭の中に響く。


「これは……

 何を言ってるんですか……?」


 そう聞くと今まで薄くしか笑わなかった呼炎灼こえんしゃくが初めて白い歯を見せて笑った。


「ハッハッハ、いや少年すまんな。

 ボルケは日本のプラモやガレージキットが大好きでな。

 先日からマンダイの工場に見学に行きたいとうるさいのだよ」


「あっ一佐いっさー!」


 見上げていると横から声がかかる。

 横でブンブン手を振る女性が居る。


「治療が終わったようだ。

 行こうか少年」


 呼炎灼こえんしゃくに連れられて女性の側まで行く。


「少年君っ!

 安心して。

 キミの竜はボクが治したからっ」


 女性は腰をかがめウインクしながら敬礼する。


 髪はクリーム色のショートボブ。

 大きな瞳で見るからに活発そう。


 脇を見るとガレアがいつもの姿に戻っている。

 眠っている様だ。


「……何かよくわかりませんが……

 ありがとうございます……」


 僕はガレアが何であんな状態になっているかも理解せずにとりあえず謝辞を述べた。


「そうだねー。

 キミは気を失ってたからねー。

 それじゃあ改めて自己紹介ッ!

 ボクは久我真緒里こがまおり

 医官だよっ。

 陸上自衛隊だからって堅くならずボクの事はマオリンって呼んでもらって良いからねっ」


「はぁ……」


 僕は気のない返事をじてしまう。

 状況がまだうまく呑み込めないからだ。


「少年。

 まだ状況が呑み込めないような顔をしているな。

 さっきの部屋に戻って話の続きをしよう」


「ボクも行くーっ!」


 真緒里まおりさんと呼炎灼こえんしゃく、僕の三人は元居た部屋に戻った。

 ソファーに腰掛ける僕。


 対面に座る呼炎灼こえんしゃく真緒里まおりさん。

 まず僕から口を開く。


「まず何でガレアがあんな事になったかを教えてください」


 初めて部屋に入った時に見かけた赤茶色の肉片がガレアだと言うのなら何故あんな事になったのか知りたかった。


 呼炎灼こえんしゃくが口を開く。


「少年が高速道路で気を失った後、保護するために車に乗せて運ぼうとしたらな……

 後ろから緑の翼竜が追いかけてきたらしい。

 そのまま駒門駐屯地まで追いかけてきて吾輩と対峙したという訳だ」


「それで戦ったんですか……?」


「んー、戦ったというよりは感覚としては取り押さえたと言った所か」


 そう言うと真緒里まおりさんが茶々を入れる。


一佐いっさー?

 取り押さえるのにマグマ使う奴なんて居ませんよー」


「いや、何……

 思った以上にその翼竜が強かったのでな……

 スキルは確かに使った」


「それで……

 あんな肉片に……」


 僕は身震いをした。

 前、赤の王にケンカ売った時にガレアが逃げたというのも頷ける。


 そして僕は続いて聞いてみた。


「それでどうやってあんな肉片から治したんですか?」


 次は真緒里まおりさんが自慢げに話し出す。


「フッフーン。

 それはボクのスキル“時空翻転タイムアフタータイム”のおかげよっ!

 ボクのスキルは対象に流れる時間を巻き戻したり早めたり出来るのっ。

 ホラ、アニメのドラざえもんの秘密道具でもあったでしょ?

 ふろしきに包んだら中身の時間が巻き戻るってやつ」


「タイムふろしきですか?」


「そうそうそれっ!

 ボクのスキルはあんな感じなんだよー」


 なるほど。


 それを使って無事な頃の時間までガレアの身体を戻したって事か。

 しかしいつかは出ると思っていたがついに出てきたか時間系スキル。


 そんな事を考えていると呼炎灼こえんしゃくが話しかけてくる。


「ところで少年、君は何だ?」


「は……?」


 僕は突然のざっくりした質問に驚いた。


「いや、我々としても聞きたいことがある。

 まずは名前だ。

 そしてあんな所で何をしていたのかだ」


「あ……

 名前は……

 皇竜司すめらぎりゅうじです……」


「そうか。

 吾輩は呼炎灼こえんしゃく

 一等陸佐だ。

 陸自の陸竜大隊の隊長をしている。

 よろしくな少年」


 自己紹介したのにも関わらず僕の事は少年と呼んでいる。

 自己紹介の意味って。


「それよりも本題はあんな所で何をしていたのか……

 だ」


 来た。

 おそらく僕を保護しガレアを治療したのもその情報が欲しいからだろう。


 さあどうしたのものか?


「何をしていたとは……?

 僕はただ高速道路を走っていただけですが……」


 僕はまずすっとぼけてみた。

 この返答を聞き呼炎灼こえんしゃくの目が鋭くなる。


「フン、とぼけなくてもいい。

 我々が追っていた男を少年らが確保したことまでは解っている。

 さて……

 少年、それを踏まえた上でもう一度聞こう。

 君は何をしていた?」


 どうしよう。


 正直固まったよ。

 その時の呼炎灼こえんしゃくの目は凄く怖かったからね。


 喉に刃物を突き付けられている様な感じだったのを覚えているよ。

 僕はこちらの情報を全く出さないのは無理だと観念した。


「……僕の身内に警察が居てその手伝いで走ってました……」


「警察か……

 ん……?

 すめらぎ……?

 少年、君はあのすめらぎ警視正の家族か?」


 おそらく兄さんの事だろう。

 自衛隊にも知れ渡るなんてやはり兄さんは凄い。


「はい……

 その仰られているすめらぎさんが竜河岸なら多分兄さんです……」


 そう聞いた呼炎灼こえんしゃくは少し考える。


「フム……

 大体解った。

 少年、もう帰っていいぞ」


 予想だにしていない一言に声も出ない僕。


「ん?

 何か驚いている様子だな。

 説明しよう。

 まず我々より先んじて迅速に本間一等陸士の場所を知り得たのは少年のスキルのよるものだろう。

 おそらく高精度の索敵系スキルだ。

 違うか?」


 僕は図星をつかれ黙っていた。

 呼炎灼こえんしゃくは話を続ける。


「そしてすめらぎ警視正が吾輩の情報を知りたがっているのは解っていた。

 まあ本間一等陸士の持っている情報で吾輩の偉業は揺るがんがな。

 もともと本間を追っていたのも除隊に対する制裁のため。

 従って身元も解った少年をここに留めておく理由も無くなったという訳だ」


 僕はここまで黙って聞いていたがここで核心について聞いてみた。


「偉業って…………

 革命ですか……?」


 それを聞いた呼炎灼こえんしゃくの目が一層鋭くなる。

 見た中での一番の鋭さだ。


「フム、兄からそんな事まで聞いていたのか。

 時に少年よ。

 富国強兵という言葉を知っているかね?」


「明治時代の言葉ですか……?

 列強国に対応するための軍備力増強の……」


「そう。

 明治に起こした政策だ。

 もともと何故そういう政策が起こったか知っているか少年?」


「いえ……」


「色々な経緯は要約するが本格的に説かれるようになったのは安政の不平等条約が原因とされている」


「……それがあなたの革命とどう関係するんですか……?」


「まあそう慌てるな。

 最初の富国強兵は成り、日本は日清や日露。

 太平洋戦争と何とか戦ってこれた。

 その上に今の平和な日本がある。

 だが太平洋戦争中に異界から竜がやってきた。

 今まで人間の天下だった地球に落ちた異物だ。

 竜と人間が共存するようになって七十年。

 まあここまで危険な生物がよく人間社会に馴染んだものだ。

 そしてここまで馴染んだ結果、今世界各国がどう動いているか知っているか?

 少年」


「いえ……」


「軍備力の増強だ。

 各国とも陸、海、空軍と竜を中心に据えた大隊を編成しつつある。

 自衛などと言う甘い考えでは欧米各国に負けてしまうと考えている。

 だから吾輩は永田町の連中の目を覚まさせ平成の世に富国強兵。

 いや富国強竜ふこくきょうりゅうを成そうとしているのだよ」


 駄目だこの人。

 この目は自分の考えを信じて疑わない眼だ。


 しかし納得できる部分も無いわけではない。

 だが僕は……


「わかりました。

 僕の感覚で言うとあなたの意見には賛同し兼ねます」


「ほう、少年の意見を聞こうか」


「貴方の意見を聞いてるとまるで戦争が起きるかのような物言いだ。

 色々な戦争が終わって世界の大多数が平和を望み始めているのにあなたの思想には危機感を覚えます。

 大層な御題目を掲げて戦争を始める方々と言うのはその下で大量の血が流れている事を見ていない。

 今までの歴史を見ても明らかだ。

 だから僕はとても貴方の意見には賛同出来ません」


 僕は怖かったけど真っすぐ呼炎灼こえんしゃくの目を見て言った。


「ほう。

 なかなか将来が楽しみな良い眼だ。

 ならば少年、力を示せ。

 他者の意見を捻じ伏せ、自分の意見を押し通したいのならだ」


 この時、呼炎灼こえんしゃくから気迫の様な圧を感じた。

 吹いている訳無いのに対面から突風が吹いている様な。


 僕は身震いする。


「少年が吾輩と違えると言うのならこれから先、対峙する事もあるだろう。

 それまでに強くなっておけ少年よ」


 僕は立ち上がり私物の荷物を背負う。

 そして一礼。


「それじゃあ失礼します。

 保護してくれた事。

 ガレアの治療と感謝します」


 僕は部屋を出る。

 そしてまたハンガーへ。


 赤の王はやはり大きい。

 僕みたいな者は羽虫ぐらいにしか思って無いのだろう。


 入って来たのを気付いていない様子。

 赤の王の脇を通りガレアの元へ。


 ガレアはまだ寝ている。

 僕は揺り動かす。


「ガレア、起きて。

 帰るよ」


【ううむ……

 ムニャ……

 あれ?

 竜司】


「あれ?

 じゃないよ。

 ホラ帰るよ」


 ふいにガレアが見上げる。

 すると見る見る内に震え出した。


【ああああ……

 赤の王っ……!?】


 ガレアの目がいつもの鋭い眼じゃなくキョトン顔の時の様な真丸い眼になって震えている。


 竜の言葉だから気づいたのか赤の王が話しかけてきた。


【ん?

 小僧……

 目を覚ましたのか……】


 物凄い大きな声が脳に直接響く。

 頭がグワングワン揺れる。


 ガレアはと言うと完全に縮こまっている。


「あの……?

 ……プラモ……

 お好きなんですか……?」


 僕は意を決して話しかけてみた。

 ガレアがこんな状態だし僕がしっかりしないとと思った行動だ。


【人間……

 プラモを作るのか……】


 赤の王が返答。


「あ、はい……

 少しは」


【何を作るのだ……?】


 僕は昔、作ったガンプラを思い出した。


「……ショウ専用ゾクとか……」


 こう答えると目の前の赤い山に変化があり、大きな顔が上から降りてきた。

 僕の目の前に大きな赤い竜の顔。


 平屋ぐらいの大きさはあるだろうか?

 一際大きな赤い眼をギョロリとこちらへ向ける。


 ガレアでは無いが身震いする迫力だ。

 赤の王が聞いてくる。


【……ショウ専用ゾクと言うと“赤い流星”の専用機ではないか……】


 聞くと赤の王は昔のアニメ、機動闘士ガンダルが物凄く好きらしい。

 その中でも異名が“赤い流星”と呼ばれるショウ・サハクイエル少佐がお気に入りとの事。


 僕はプラモを作った時の失敗談などを少し面白おかしく話した。


 これが赤の王には大うけでね。

 物凄く大きな声で笑っていたよ。


【ガラガラガラァッ!!

 そうかΘシータガンダルの初変形で戻らなくなったのかっ!

 それでどうなったのだ?】


「はい……

 それで敢え無くプラモ墓場行きに……」


【ガラガラガラガラァッ!!

 いかんぞ人間、接着剤は充分時間をおいて乾かさねば】


 赤の王のガラガラと言う笑い声に耳を塞ぐ僕。


「はい……

 その時は完成した事が嬉しくってつい……」


【いや人間、なかなかに愉快なプラモ人生を送っておるな……】


「あの……

 赤の王……

 でいいのかな?

 一つ質問良いですか……?」


【何だ人間……?】


 僕は素朴な疑問を尋ねてみた。


「あの……

 どうやってプラモを作るのかなって……」


【んんっ!?】


 目の前の大きい。

 本当に大きい赤の王の目がギョロリとこっちを見る。


 僕は縮こまりながら話を続ける。


「いや……

 それだけ大きい身体だと……

 プラモなんて本当に小さいからどうやって作るのかなって……」


【フム……

 それはな……】


 ゴクリ


 僕は生唾を飲み込んだ。


【秘密だ……】


 僕はずっこけた。


「ええええ?」


【ガラガラガラ!

 それは炎灼えんしゃくしか知らぬ事よ!

 だが人間、炎灼えんしゃくの部屋にあったプラモの大半は我が作ったものだ……】


「ええええっ!?」


 僕は大きな声で驚いた。

 だがそれよりも大きな笑い声が脳に直接響く。


【ガラガラガラガラ!

 我の身体を見れば不思議であろうなあ人間よ……

 矮小な頭で考えてみると良い……】


「たはは……

 あっ、それじゃあ僕らはそろそろ失礼します」


 僕はぺこりと一礼。


【おお……

 行くのか……

 気をつけてな……

 人間と言うのは簡単に死ぬからのう……】


「……はい、ありがとうございます」


【人間よ……

 なかなか良き時間であった……

 次に相まみえた時はまたプラモの話をしようぞ……

 いつ会えるかわからんがな……】


「はい、それでは……

 ガレア、行くよ」


 ガレアはまだ震えていた。

 しばらくして僕の事に気づいたのか側に寄って来る。


【竜司っ!

 はやくっ!

 早く行こっ!】


 僕は怯えるガレアに跨った。

 ガレアの上からもう一度大きめの声で挨拶。


「それでは!

 お世話になり……

 うわぁっ!!」


 言い終わらない内にガレアが一目散に走り出した。

 それこそ逃げる様に。



 ###

 ###



「はい、今日はここまで」


「パパー、何かガレアが怯えてるのって珍しいね」


「そりゃあねえ、あんな肉片に替えられたんだから」


「ねえパパ、どうやったらガレアが肉の塊になるの?」


「あれは呼炎灼こえんしゃくのスキルのせいだよ。

 詳しい部分はおいおいね」


「ふうん」


「さっ、今日はもうおやすみ……」

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