第八十九話 竜司、捜査開始する。

「やあこんばんは。

 今日も始めて行こうか」



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 僕とガレアは一階に降りた。

 入口の所で涼子さんが立っていた。


 服が制服からスーツに変わっている。

 僕に気付き、にっこり優しい笑顔を見せる。


 僕らは歩きながら今日あった事等を話した。


 そんな話をしている内に涼子さんの足が止まる。

 着いたようだ。


「涼子さん……

 ここですか……?」


「そうよ」


 そうよって。


 多分物凄く高いぞここ。

 十四歳の僕でも解る。


 これマンションなのか?

 低く見積もっても三十階はあるぞ。


 平然と中に入る涼子さん。


「竜司君、豪輝さんからカードキー預かって無い?」


「あ、はい」


 僕は預かっていたカードを涼子さんに渡す。

 涼子さんは受け取ると扉の前の端末にカードを差し入れ、ナンバーキーの番号を押す。


 入口が開いた。


「さあ、行きましょ」


 中に入る涼子さんと僕ら。


【何かでっけぇ所だな竜司】


「あぁ、僕もびっくりしてるよ。

 竜河岸って儲かるってホントなんだな」


【モウカルって何?】


 ガレアキョトン顔。


「お金持ちって事さ」


【オカネって?】


 ガレアのキョトン顔はまだ続く。


「人の世で色々物を手に入れる時に必要なのさ」


【あーあれか。

 竜司がクルコロ買う時に渡しているキラキラした円盤か】


 ガレアはおそらく硬貨の事を言ってるんだろう。


「そうそうそれそれ。

 兄さんはそれをいっぱい持ってるって事だよ」


【ふうん、あんなのいっぱい持ってたら大変なんだろうな】


 多分ガレアの頭の中には硬貨の山が描かれてるんだろうな。


 紙幣もあるけどまあいいか。

 説明するのめんどくさい。


「竜司君、何してるの?

 こっちよ」


「はい」


 僕らは涼子さんはすぐに目的階十三階に到着。


 広い廊下を歩く。

 ガレアと並んで歩いても十分余裕のある広い廊下だ。


 涼子さんは奥の部屋で足を止める。


 すめらぎ


 表札にはそう書いてあった。

 カードキーで玄関を開け中に入る。


 入った感想。

 広い。


 何LDKだこの部屋。


 とりあえず僕らはリビングに行く。

 手早く荷物を置き、エプロンをつける涼子さん。


「竜司君、今日はお疲れ様。

 色々あってお腹も空いたでしょ。

 晩御飯作ったげる。

 ありあわせのものだけどね」


 冷蔵庫から食材を取り出す涼子さん。

 何か色々料理をしている様だ。


 物凄く手慣れている感じがする。

 何度も来ている様な雰囲気。


 まあ当然か。

 恋人同士なんだし。

  

 僕はガレアと並んでTVを見ていた。

 要所要所でガレアに説明をしながら。



 三十分後



「さぁ出来たわよ」


 涼子さんはテーブルに料理を並べる。


 キャベツと豚バラを甘辛そうなタレで炒めたものだろうか。

 ほうれん草のお浸し。


 豆腐の味噌汁。

 それとご飯だ。


「涼子さん、これは?」


回鍋肉ホイコーローよ。

 知らない?

 中華料理の。

 ガレア君のも用意してるから待っててね」


 涼子さんは竜の扱い方も慣れている。

 大皿に大量の回鍋肉とご飯が山盛り乗っかっていた。


 やはり盛り方に犬猫を想起させる。


 一口食べる。

 美味しい。


 お腹も空いているせいかバクバク食べてしまった。


「ふうお腹いっぱい。

 御馳走様でした」


「フフフお粗末様。

 いい食べっぷりねえ。

 若いっていいわね」


【何か知らんが美味いなコレ。

 御馳走さん】


 僕とガレアの食べ終わった後を片付ける僕。

 ひとしきり片付けが終わって僕は小さな欠伸をした。


「あら?

 もう眠たい?

 じゃあお風呂入って寝ても良いわよ。

 私は豪輝さんが帰ってくるまで居るから」


「すいません……

 じゃあお先に……

 行こうガレア」


【はいよう】


 僕は風呂に入り早々に床に着いてしまった。



 ###



 翌朝



 僕は目覚める。


 ここはどこだ?

 あ、そうか兄さんのマンションだ。


 ガレアは……?


 隣で寝てる。

 今何時?


 午前八時。


「ガレア……

 朝だよ。

 起きて」


【オス竜司】


 相変わらずガレアの寝覚めは良い。

 僕は着替えてリビングに出た。


「おっ竜司起きたか。

 おはよう」


「おはよう竜司君」


「あ、おはようございます」


 リビングには豪輝兄さんとボギー、そして何故か涼子さんがまだ居た。


 泊まって行ったのだろうか?

 何となく大人の関係が匂ったのでとりあえずその点はスルーした。


 まあ恋人だから良いんだけど。


【やっぱり朝はバナナだなあ】


 ボギーが朝からバナナを食べている。

 山ほど。


 一段と甘い匂いを漂わせるボギー。


「朝じゃ無くていつもだろ?」


 朝食を食べ終え、コーヒーを飲んでいる兄さんはボギーの方を向かずそんな事を言う。

 僕も席に着いた。


「さぁ、竜司君召し上がれ。

 ホラ、ガレア君も」


 僕は兄さんと同じもの。

 ガレアは昨日の残り物の様だ。


 ひとしきり食べ終え、僕らは身支度を整えた。


「さぁ行くか竜司」


「うん」


 涼子さんは優しい笑顔で見送る。


「あれ?

 涼子さんは?」


「今日は非番だよ。

 それでは行って参ります涼子さん」


「ハイいってらっしゃい」



 静岡県警本部 刑事課



 昨日の会議室に行くとカズさんとつづりさんはもう来ていた。


「あ、隊長おはようございます」


「おはようございます。

 竜司君、おはよフフフ」


 カズさんとつづりさんは敬礼をする。


「とりあえずまだリッチー待ちだ。

 その間に事件の概要を説明する」


 書類を持ってホワイトボードの前に立つ兄さん。


「名前は本間豊ほんまゆたか

 元陸自の第一陸竜連隊の一等陸士。

 竜河岸としてのレベルもそこそこ高いそうだから各員、充分気をつけろ」


「了解」


「これはみんな解ってると思うが、この事件ヤマは本間の確保が目的じゃない。

 あくまで……」


「解ってますよ隊長。

 裏向きは呼炎灼こえんしゃくの重要参考人としてでしょ」


「そうだ。

 ようやく現れた呼炎灼こえんしゃくの情報だ。

 おそらく大隊の方も動いている。

 何としても俺らが先に確保するぞ!」


「了解!」


 兄さんが腕時計を見る。


「多分そろそろ来るな……

 竜司、全方位オールレンジ使ってみてくれ」


「うん、全方位オールレンジ


 緑のワイヤーフレーム展開。


「おおっ!?」


 カズさんとつづりさんが驚いている。

 そう言えば見るのは初めてか。


 あ、居た。

 カズさん達と同じパターンだ。


 貴宮理知たかみやりちさんは電車に乗っている。

 何か席に座って俯いている様だ。


「兄さん居るよ。

 そろそろリッチーさん、新静岡駅に着く」



 数十分後



 貴宮理知たかみやりちさん到着。


「ちぃーっす、隊長ォ……」


【皆さんおはようございます】


 身体の蒼い竜はぺこりと頭を下げる。

 礼儀正しい竜だ。


「その様子だとガチャの結果は良かったようだな」


 兄さんがリッチーさんに話しかける。


「まあ……

 新キャラ五人中三人ですんでまずまずって所ですよ」


 とは言いつつ何となく機嫌は良さそうだ。

 リッチーさんは話を続ける。


「んで隊長誰っすかァ?

 このガキ」


 リッチーさんが僕をだらんと指差し、兄さんに尋ねる。


「そいつは俺の弟だ。

 今回の事件ヤマに協力してもらう」


「へーっ。

 隊長の弟っすかー?」


「ほらリッチーも知ってるだろ?

 例の125事件の……」


 カズさんも話に乗っかる。


「え?

 何それ?

 シラネ」


 リッチーさんの返答を聞いて、カズさんは驚いた顔を見せる。


「お前……

 刑事やっててあの事件知らない奴なんて初めてだ……

 まあリッチーらしいっちゃあらしいけど……」


「おいガキ。

 お前、名前なんて言うんだ?」


 何か偉そうな人だなあ。

 僕が戸惑っていると隣の蒼い竜が割って口を開く。


【申し訳ありません弟様。

 リッチーの偉そうな態度にさぞや気分を害された事でしょう。

 なり替わって私が謝罪します】


 蒼い竜はぺこりと頭を下げる。

 リッチーさんと打って変って礼儀正しい竜だなあ。


「いえいえ……

 これはご丁寧に……

 貴方は?」


【申し遅れました。

 私はラガー。

 名前は別でございますが、警視庁にご厄介になってからラガーと呼ばれております。

 どうぞお気軽にラガーとお呼び下さい】


「くあ……

 んでお前の名前は?」


 欠伸をしながらリッチーさんが聞いてくる。


「あ、すいません。

 竜司です。

 すめらぎ竜司りゅうじ


「まあいいや名前なんてどうでも。

 おいガキィ!

 俺の足を引っ張ったら承知しねぇかんな」


 名前を聞いたのは貴方じゃないのか?

 何処までも偉そうな人だなあ。


【すいませんすいません】


 ラガーは何回も頭を下げる。

 何かデコボコなコンビ。


「よし、二班に別れるぞ。

 つづりとカズは本間の実家がある裾野市で聞き込みだ。

 俺と竜司とリッチーはここから駒門駐屯地辺りまでローラー作戦だ」


「了解。

 さあ行くよカズ」


「じゃあ行ってきます。

 隊長」


「あ、お前ら。

 竜司の全方位オールレンジで見つけたらすぐに連絡入れるから携帯はいつでも出れるようにしとけよ」


「了解」


「よし俺達も行くか」


「うん」


「へぇ~い……」


 僕らは一階に向かう。

 と、そこで兄さんが……


「お前らちょっと待ってろ。

 今、あぶみを持って来るから」


 え?

 何を持って来るって?


 僕の戸惑いを無視して兄さんは奥に消えて行った。

 場には僕とリッチーさん、それと竜三人だ。


 ……どうしよう?


 そうだ!

 昨日、僕も白犬ミッション入れたんだった。


 これで少しは仲良くなれるかなあ。

 僕は意を決して声をかけてみた。


「あ……

 あのっ……

 リッチーさんっ。

 僕も最近、白犬ミッション始めたんですよっ!」


「へぇ、ちょっとお前のキャラ見せてみ」


 僕はスマホで白犬を起動。

 キャラ編成画面を見せる。


「どれどれ……

 ってランク5かよ。

 しょっぺぇなあ。

 キャラもショボい奴らばっか……

 キシャシャ……

 ん?

 ……ってお前ぇっ!!?

 タローがいるじゃねえかぁっ!!?」


「タロー?

 あぁこの犬ですか?

 僕の持ってるキャラで一番レアらしいんですが。

 でも犬ですしねえ」


「お前これ今回のイベントの大当たりキャラだぞ」


「へぇ強いんですか?

 この犬」


「強いなんてもんじゃねぇぞ!

 火力も少なく見積もって二億は出る。

 くそーっ!

 俺まだ出てねぇのに何でこんなトーシロが……」


 リッチーさんが恨みの目でこっちを見る。

 何かいたたまれない気分。


「な……

 何かすいません……」


 何で僕が謝ってるんだ。

 結局仲良くならないまま兄さんが戻って来た。


「お前ら待たせたな。

 さあとっととこれつけろ」


 兄さんはドサッと持ってきたものを地面に置く。

 見た事ある。


 確かあぶみって言う馬具だ。


 兄さんは手早く鐙をボギーの背中に取り付けている。

 リッチーさんもラガーの背中に取り付けている。


「竜司何してるんだ?

 さっさとガレアの背中に取り付けろ」


「おーおー。

 さすが早々に当たりキャラを出す人は余裕ですなあ!」


 リッチーさんが大声で皮肉を言う。

 あぁもうやりにくいなあ。


 とりあえず僕は鐙を持った。


「ガレアちょっとこっちへ来て」


【何だ竜司】


「ちょっと背中向けて」


【ん?

 こうか?】


 ガレアは素直に背中を向ける。

 僕はガレアの背中に鐙を載せた。


【うわ!?

 何だ何だっ?】


 なるほど垂れているベルトで鐙を固定するのか。


「ガレア、ちょっとお腹見せて」


【竜司何してんだよ。

 ちゃんと説明しろ】


「あぁごめん。

 これはガレアの背中に乗るための物を付けているんだよ」


【何だ竜司、俺の上に乗るのか。

 あ、でも何かコレ気持ち良いな】


 鐙のフィット感がガレアは気持ちいいらしい。

 よし装着完了。


「よしみんな付けたな。

 さあ行くぞ。

 ルートは国道二十七号線から静清バイパスを走る。

 それから清水インターチェンジから東名高速に入る。

 走り出したら竜司は全方位オールレンジを展開しろ。

 そして出来る限り展開し続けろ。

 そして本間が網にかかったら俺の携帯を一回鳴らせ」


「わかったよ」


「俺が先導する。

 じゃあ出発」


 兄さんを乗せたボギーが走り出す。

 それに続いてリッチーさんを乗せたラガーも走り出す。


「ガレア、あの二人について行って」


【はいよう】


 ガレアも走り出す。

 ちゃんと車道を走る様だ。


 隣の車と同じぐらいのスピードだ。

 時速にして三十から四十キロぐらい。


 信号もきちんと止まる。


【何だコレ。

 イチイチ止まってめんどくせぇなあ】


 ガレアがブーたれている。

 すると兄さんが振り向き……


「オイ竜司。

 何してる。

 さっさと全方位オールレンジ展開しろ」


「あ、ごめん。

 全方位オールレンジ


 緑のワイヤーフレーム展開。


「ん?

 何だこりゃ?」


 リッチーさんは平然としている。


 国道二十七号線。

 居ない。


 静清バイパス。

 居ない。


 三十分程、東名高速を走った段階で僕の限界が来た。

 小さくなる緑のワイヤーフレーム。


「限界か……」


 兄さんが手を上げる。

 範囲が狭まるのに気付いたんだ。


 停止の合図。

 僕らは脇に寄り少し休憩。


「はぁっ……

 はぁっ……」


 これはキツい。

 僕は地面に座り込んだ。


 でも最初の時と比べたら大分時間が伸びたもんだ。


「なるほど……

 時間は三十分が限界か」


「おいガキ、お前のスキルは何なんだ?」


 リッチーさんが聞いてくる。


「これは全方位オールレンジ

 一定範囲内の一般人や竜河岸の位置を把握できる」


 僕に代わって兄さんが説明する。


「へぇ……

 やはり早々に当たりキャラを出す人はスキルも違いますなあ!」


 リッチーさんがまた皮肉を言う。

 しつこい人だなあ。


「竜司、ここまで走ってどうだ。

 居たか?」


 僕は首を横に振る。


「そうか、じゃあそろそろ行くぞ」


 僕らはまた走り出した。

 緑のワイヤーフレーム展開。


 富士市に入る。

 居ない。


 富士山が見える。

 実物見たの初めてだ。


 もっとちゃんと拝みたかったなあ。


 ……っといけない集中しないと。

 裾野市に入る。


 ん?

 これってもしかして……


 居た。

 本間だ。


 僕は携帯を鳴らす。



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「はい、今日はここまで」


「パパー、僕このリッチーさんって人嫌い」


「はは……

 まあ確かに性格は褒められたもんじゃないけどね……

 じゃあ今日はおやすみなさい」

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