第八十八話 竜司、兄の仕事仲間と会う。その二
「やあこんばんは。
今日も始めて行こうか」
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「そう、そして僕が
メガネをかけた金髪の白人が入って来た。
さっきの顔面蒼白時とはえらい違いだ。
血色も良くなって髪の色も綺麗な金髪になっている。
「もう
共有できるのは
相変わらず説明が足りないなあ。
で、この少年は誰なんです隊長」
「こいつは俺の弟。
今から捜査する
「へぇ、これが噂の弟君か。
よろしく、僕は
仲間からはカズって呼ばれているよ」
カズさんと僕は握手をした。
カズさんはにこやかに話しかけてくる。
「竜司君、年いくつ?」
「十四歳です」
「十四歳って言うと中学生か。
隊長?
「中学の職業体験学習って事にする」
「ハッハッハ。
職業体験で刑事選択できる学校なんてありませんよ隊長
……まあ、いいか。
改めてよろしく竜司君」
「あ、はい」
「じゃあお近づきの印に僕のスキルを見せようかな?
竜司君、君の荷物から一つ私物を取り出してくれ。
なるべく思い入れの強いのが良いな」
僕はカバンの中を覗いた。
思い入れのある物。
これかな?
僕は緑の七分袖のジャケットを取り出した。
蓮と一緒に買った品だ。
「じゃあこれで……」
カズさんは緑のジャケットを受け取ると机に置いた。
左手をジャケットの上に乗せ、目を閉じる。
「じゃあ行くよ。
ニヤリ
目を瞑ったまましばらくするとカズさんはニヤリと笑った。
そこからずっとニタニタ笑っている。
何かニヤニヤが止まらないと言った印象。
じきに静かに目を開けるカズさん。
「いやー、竜司君青春してるねえムフフ」
カズさんはニヤニヤしながらそんな事を言う。
「オイオイカズ。
どんな内容か教えろよ」
「これ見てもらった方が解りやすいですね。
「ホイ」
何か息ピッタリって感じ。
この息の合い方に特別な繋がりを感じる。
「じゃあ行くよ……
物凄い速さでカズさんは何かを書いている。
眼の動きも半端無く速い。
次々と書いていく。
床に散らばる画用紙。
どんどん増えていく。
「はい三分。
終了ね。
どれどれ……
ホラ隊長も」
「ほうほうどれどれ?」
「あら……!?
まあ!?」
「竜司……
これUSJか?」
嫌な予感がした。
「ちょっ……!?
ちょっと僕にも見せて!」
「ほい」
画用紙を見ると蓮がシーワールドで濡れたシーンが描かれていた。
透けている下着まで忠実に。
「こっ……!
これはっ……!?」
その他を見るとUSJでの蓮とのデートの様子が写実的に描かれていた。
そして最後の一枚。
眼を瞑って口を向けている蓮の顔が大きく描かれていた。
全て見終わった僕は耳まで真っ赤になった。
「こっ……!?
これはね皆さんっ……!」
「ムフフ、最後の一枚さぁ。
これってキス!?
ねえチューしちゃったの?
ねえねえ」
どうしよう。
「
「あれぐらいの量ならもう解んないわよ。
時間切れ。
でもこうゆうのって本人の口から聞きたいじゃない」
僕は観念した。
「…………はい」
「えー聞こえないわよう」
「あーもーっ!
ハイ!
キスしましたよ!
僕は蓮とキスしましたよ!」
「キャー!
初々しいわぁ。
淡いわぁ!
淡いわぁ!
淡い恋だわぁ!」
「ムフフごめんね竜司君。
こういう色恋の話には目が無いんだ」
「そうですか……
そう言えばカズさんの竜は?」
「ん?
ドックかい?
後ろに来て……
無いな」
カズさんは後ろを振り向きつつそう言う。
「入って来た時からカズさんだけでしたよ」
「もう、あの老いぼれ竜は……
竜司君、ちょっと悪いんだけど探すの手伝ってくれない?」
「わかりました」
部屋の外へ出る僕ら。
って探す?
僕も了承したが竜を探すって言われてもなあ。
室内ならすぐに見つかるだろうし。
もしかして外か?
「カズさん、もしかして外ですか?」
「いや僕が本部内に入った時は居たから建物の中だよ」
僕はとりあえず刑事課を見回す。
何処にも竜は居ない。
「カズさん、ここには見当たらないですよ」
「あー、そうそうドックの特徴を言っておかなきゃ。
ドックはいわゆる日本や中国型っていうのかな?
蛇みたいにニョロニョロしてる。
それで隅っこが好きなんだよ。
何かにつけて隅に入りたがるんだ。
多分この部屋の隅の方に居るはずだよ。
ドック!
ドォーック!」
カズさんはそんな事を言いながらソファーの下等を探し出した。
「隅……
ねぇ」
僕もカズさんに倣い、ロッカーの裏を覗いてみる。
さっそく何かと目が合った。
居た。
ロッカーの裏に小さな竜が居る。
ニョロニョロと体が長い。
ぴったり入って顔も斜めになっている。
目が合ったまま硬直する僕。
どうしよう。
この異様な状況、どうしよう。
「あの……」
僕は意を決して声をかけて見た。
【何じゃ?
小僧】
ロッカーの裏の奥の方に居る竜は平然としている。
「何故……
こんな所に……?」
【儂はな、隅が好きなんじゃ。
その点、日本は素晴らしい】
「はぁ……
あの……
貴方がドックですか?」
これを聞いた途端、奥の竜の目が光る。
【無礼なっ!
この齢一万歳を超える儂に向かって呼び捨てとはっ!
この小僧がっ!】
顔が斜めの竜に怒鳴られた。
ロッカーがガタガタ揺れる。
「わわっ。
すいませんっ!」
「竜司君、ドックいたー?」
後ろから声がかかる。
「あ、はい……
多分……」
僕はロッカーの裏手を指差す。
「ここか。
ちょっとどいてて竜司君」
僕はカズさんと交代。
後ろに下がる。
次はカズさんがロッカーの裏を覗く。
「あーっ!
いたー!
ドック!
そこから出てこい!」
カズさんはロッカーの裏を覗きながら怒鳴っている。
【嫌じゃ。
もう少しこのふぃっと感を享受させい】
「こっちも仕事の段取りとかあるんだよ。
こうなったら強制的に……」
裏に手を突っ込むカズさん。
「出て来いっ!
出―てーこーいっ!」
ロッカーの裏に手を突っ込みゴソゴソしている。
奥に引っ込んだのか出て来ないらしい。
「もうこうなったら……
隊長っ!
豪輝隊長ーっ!」
諦めたカズさんは兄さんを呼ぶ。
兄さんがすぐに出てきた。
「カズ、どうした?」
「すいません……
このロッカーの裏手にドックが入ってまして……
「そんな事か……
なら」
兄さんがロッカーの扉に右手を付ける。
フン
ロッカーが一瞬光る。
僕の身長よりも三十センチぐらい大きいロッカーがベンチに変わった。
この質量を一瞬である。
やっぱり兄さんのスキルは無敵なんじゃないだろうか?
壁にくっついている小さな竜が露わになった。
キョトン顔をしている。
【ん……?
ぬおーっ!?】
ようやく状況に気付いた小さな竜は叫び声を上げた。
「さあ、ドック。
もう観念してこっちに来いっ!」
カズさんは手を伸ばし壁に引っ付いていた小さな竜を引っぺがす。
【嫌じゃーっ!
儂のっ……
儂のっ……
隅ぃぃぃ!】
ウネウネ動く小さな竜。
だがカズさんの手はガッチリ掴んで離さない。
「ハイハイ……
後で桜餅買ってやるから」
【十五個じゃぞ……】
「はいはい」
僕らは部屋に戻って来た。
「ほらドック。
元の大きさに戻って」
小さな蛇竜は白い光に包まれる。
やがて光が止み中から大きな竜が出てきた。
鱗が青藍色の蛇の様な竜だ。
身体はフワフワ浮いている。
ダリンと同じタイプの竜。
目はぎょろりとしていて鼻下から長い髭が伸びて揺れている。
何か日本の屏風に描かれていそうなフォルムだ。
「じゃあ竜司君。
改めて紹介するよ。
これが僕の竜、ドックだよ」
ここでガレアの口が開く。
【誰かと思えばゴール爺じゃん。
久しぶりだなあ】
【何じゃガレアか。
久しぶりじゃのう】
「ガレアこの竜知っているの?」
【あぁ、ゴール爺って言って物知りで有名だったなあ】
【ホッホッホ。
ガレアよ、そう褒めるでない。
一万年も生きとるのじゃ。
当然じゃわい】
何か今まで色々な竜を見てきたけどこのドックと言う竜。
今まで見てきた中で一番チョロそうだ。
とりあえず僕は聞いてみた。
「物知りって何に詳しいの?
ガレア」
【地球についてだよ。
でも人間界の映像流れるようになってからはあんまし会わなくなったなあ】
「あ……
そう」
何となく大きくなった孫が遊びに来なくなった寂しい老人のイメージが沸いた。
僕ぐらいは優しくしてあげよう。
「よし自己紹介も済んだところで……
はい解散」
僕はずっこけた。
「ええっ!?
兄さんどういう事?」
「だってまだリッチー来てねぇもんよ。
多分明日には来ると思うから本格的な捜査は明日からだ」
兄さんはちらりと腕時計を見る。
「今……
五時半か……」
「リッチー、今回のガチャどうだったんでしょうね」
カズさんがそんな事を兄さんに言っている。
何だガチャって。
「今回爆死だったら嫌だわぁ。
全然捜査が進まなくなるし」
何だ爆死って。
「ホント、アイツのスキルは捜査に使えるんだがなあ……
ハァ……」
兄さんの溜息を皮切りに僕は聞いてみた。
「ちょ、ちょっとみんな何の話をしているの?
ガチャとか爆死とか」
「ん?
あぁ、お前も知ってた方が良いだろうな。
これはリッチーがずっとやってるスマートフォンゲームの話だよ」
僕は兄さんの話を聞いた。
何でもそのゲームとは“白犬ミッション”と言うアクションゲーム。
ガチャというのはその中で出てくるキャラクターが当たるコンテンツとの事。
イベント毎に新しいキャラクターが出るらしく、リッチーさんは毎回イベントが開催されるとそのガチャを回して一喜一憂しているんだと。
当然良いキャラクターはなかなか当たらない。
それで時間を気にしていたのがデータが更新されるのは午後四時でリッチーさんはいつも四時を回ると同時にガチャを回すスタイルなんだと。
ここまで話してくれた兄さんは余談も教えてくれた。
それは建物に立てこもった竜河岸の犯人を捕らえるべく踏み込むことになった時だった。
「そんで俺は命令したんだよ。
竜と一緒に逃走経路を抑えろって。
作戦としては簡単に言うとあぶり出しだよ。
あらかじめ手薄な所を作っておいて正面から踏み込んでそこに誘い込み捕えるって言うな。
結論を言うと作戦失敗。
誘い込む所までは上手く行ったんだけどな。
ただ時間と人選をミスった。
リッチーはガチャに夢中で思い切り犯人をスル―しやがった。
そしてめでたく捜査はふりだし。
俺は始末書を書いたとさ」
僕は黙って聞いていたけど何でそんな人が刑事をやっているんだろうと純粋に思ったよ。
「俺も立場上リッチーを呼び出し説教したよ。
お前、事件とガチャとどっちが大事なんだって。
そしたらガチャと即答だったよ。
そりゃ俺も左遷させようかとか考えたけど、リッチーのスキルはホントに使えるんだよ。
特にやれ自供だ証拠だとうるさいこの日本では特にな。
まあこんな奴も居ても良いかなって言う事で左遷は保留した」
ちなみに爆死と言うのはガチャの結果が持っているキャラか外れキャラだった時の事を言うらしい。
とりあえず僕らは間接的にリッチーさんのガチャ結果待ちになってしまった。
「じゃあ、僕らはもう上がります。
お疲れ様でした隊長」
「お疲れ様でした隊長。
また明日ねん竜司君。
ムチュッ」
「竜司、お前ももう行け。
俺はもう少し残って明日の段取りと雑務を済ませて帰る。
これが家の鍵と住所だ」
そう言う兄さんはカードと住所が書かれた紙を僕に渡した。
「ここってどこなの?」
「ここは最近俺が買ったマンションだ。
セカンドハウスとして使おうと思ってな。
ここから一時間もかからない場所にある。
もしかして遅くなるかもしれないからメシは適当に食っておけ」
「わかった。
じゃあ……」
「あっ……
ちょっと待ってくれ。
お前、立場上は重要参考人だから一人で行かせるのはマズいな。
涼子さんに送ってもらう」
兄さんはそう言って携帯で連絡をする。
「涼子さんが一階で待っててくれるってさ。
竜司、涼子さんに迷惑かけんじゃねぇぞ」
「わかってるよ。
じゃあ仕事頑張ってね」
「あぁ」
僕は刑事課を後にした。
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「はい、今日はここまで」
「パパー。
何で伯父さんの部下って変な人ばかりなのー?」
「うん、ホント何でだろうね?
竜河岸って人種がそうさせたのか……
兄さんが敢えてそんなな人ばかりを集めたのか……」
「何それ」
「パパにもよく解んないや……
じゃあ今日はおやすみなさい……」
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