第七章 静岡 前編

第八十二話 竜司、お縄につく。

「やあこんばんは。

 今日も始めて行こうかな」



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 電車に乗った僕。


 スマホで時間や静岡の事を調べていた。

 静岡で検索するとまず出たのがウナギだ。


 明日のお昼に食べようかな。


 まずは浜松か。

 名古屋から二時間ぐらいか。


 まあ僕も電車の旅に慣れたもんだ。

 そしてガレアも。


 最初の時は長椅子や吊革にわーきゃー言ってたのになあ。

 窓の外を見ると空はどっぷり暗くなっている。


 そりゃそうか。


 あの宴会の後すぐに駅に向かったから。

 今乗っている電車も終電間際だった。


 名古屋では色々あったなあ。

 最初に遥がひったくりにあって、ライブを見て杏奈とも知り合った。


 それでキリコさんの同人誌を手伝って杏奈に拉致られた。

 そしてそこから杏奈と激戦を繰り広げあわや栄の町が崩壊する危機にまで陥った。


 最後は蓮の母親、あかざさんと初めて対面して竜河岸の名の由来とかを聞いたなあ。

 そんな事を考えている内にウツラウツラと眠たくなり転寝してしまった。



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(まもなくー浜松ー浜松ー)


 僕は車内アナウンスで転寝から目を覚ます。


「はっ!?

 ここだっ!

 降りないとっ!

 ガレアッ!?

 ガーレーアー!」


 僕はキョロキョロ辺りを探す。


 見つけた。

 車両の連結部に入ってキョトン顔で揺られている。


 僕はやれやれと連結部の扉を開ける。


「ガレア何やってんの。

 降りるよ」


【なあなあ竜司。

 何だココ。

 何でこんなに狭いんだ?

 扉潜ったらすぐ扉じゃねえか。

 ここに何の意味があるんだ?

 なあなあ竜司】


「それは車両と車両を繋ぐために必要な物なんだよ」


【何で繋ぐの?】


 ガレアキョトン顔。


「繋がないと真っ直ぐしか走れないだろ?

 あそこに入った時、周りが蛇腹になってただろ?

 あれで左右に触れる事が出来るから電車は曲がる事が出来るんだよ」


【へえ、人間って頭良いんだな】


 そういえばローカル線とかで一車両とかあったっけ。

 でもまあいいか。


(浜松ー浜松ー)


 扉が開く。

 さあ静岡だ。


 まず宿を探さないと。

 僕は電車から降りて改札を出た。


 すると後ろから声をかけられた。


「ちょっとそこの君」


「はい?」


 振り向くと中年の男性と二十代ぐらいの男性二人が立っていた。


皇竜司すめらぎりゅうじ君だね?」


 中年の男性が微笑みながら話しかけて来た。

 と言うか何故名前を知っている?


 僕はここで怪しむべきだったんだ。

 不用意に返事をしてしまった。


「あ……

 はい、何か?」


 三人ともスーツ姿にコートを纏っている。


 だがその姿よりも僕は中年の男性が胸元に手を入れ、そこから見せた黒い手帳を凝視した。



 警察手帳だ。



 まずい。


「私たち警察でして……

 ちょっと、一昨日の栄での事件について伺いたいんですがね……?」


「え……?」


 僕は突然の出来事に対処できなかった。

 戸惑っていると後ろの一人が無線で話し出した。


(浜松駅前で対象者マルタイ接触)


 何か刑事ドラマみたいな事を言っている。


 頭が追いつかない。

 追いつかないまま中年の男が話を進める。


「身分証は持ってるかな?

 竜司君」


 僕はたまらず……


「ガレア……

 逃げるぞっ!

 走れっ!」


 僕は慌ててガレアと走ろうとした。

 すると中年の男が遮る様に声を上げたんだ。


聖塞帯せいさいたい準備!

 着帯!」


 その声に呼応するように後ろの二人が声を上げる。


「着帯!」


 後ろの二人がガレアに向かって白い幅広の布を投げつける。

 見ると魔力が込められているのが解る。


 その布は生きてるようにうねり、ガレアの身体に巻き付く。


【何だ何だ。

 何だコレ】


 ガレアも焦っている。

 その布がどういう効果をもたらすのかは次のガレアの反応で解った。


【ハァ……

 何か怠ィ……】


 げんとの練習の時の話を思い出す僕。


【何ちゅーの?

 何かもうけだる~くなるんだよ。

 何かもうダリィの】


 確かガレアはこう言っていた。

 この布はまさか……


「この布はね竜司君。

 対竜用拘束器で聖塞帯せいさいたいって言ってね。

 この布で巻かれた竜は強制的に魔詰状態まきつじょうたいにさせるんだよ。

 だから大人しくしなさい。

 悪いようにはしないから。

 少し話を聞くだけだよ」


「………………はい……

 わかりました」


 僕は観念した。


 目に映るのは真っ白い布で全身をグルグル巻きにされたガレア。

 置いて僕だけ逃げる訳にも行かない。


 僕の旅はここで終わりか。


 僕は家に戻される。

 あの地獄のような家に。


「少し待っててくれるかい?

 今、車を寄越すから……」


 中年の男がそう言いながら携帯を取り出す。


「えー対象者マルタイ確保しました。

 ええ、はい……

 とりあえず静岡県警本部に向かいます。

 車両を一台お願いします。

 竜が一匹居ますので護送車で……

 ええ……

 では……

 プツッ」


 中年の男が携帯をしまう。


「まあ竜司君。

 車両が来るまで時間がある。

 座らないか?」


 僕は落ち込んだまま駅前のベンチにショボンと座る。

 そして深い溜息をつく。


「はぁ……」


「少しオジサンと話をしないか?

 名前と年齢を教えてくれないか?

 君の口から聞きたいな」


「あの…………

 あなたは……?」


「あぁすまんすまん。

 まずは自分からだったな。

 オジサンは警視庁外事第六課課長、山倉精一やまくらせいいちだよ。

 四十五歳。

 仲間からはヤマさんなんて呼ばれている。

 有名ドラマと同じあだ名なんて光栄だなあ。

 ワッハッハ」


 そのヤマさんは豪快に笑う。


「外事……?」


「外事って言うのはね。

 主に国際テロとかの為に組織された公安部の部署だよ。

 オジサンのいる六課は主に竜河岸関連だね」


「……皇竜司すめらぎりゅうじ……

 十四歳です……」


 僕は素直に質問に答えた。

 自分の事を色々教えてくれるこのヤマさんという人にほんの少しだけ心を許したからだ。


【ボスー!

 対象者マルタイ確保しましたか?】


 地面を走りながら二人の陸竜がこっちにやってきた。

 今まで黙っていたもう二人の男性が竜に話しかける。


「マカロニ、戻ったかご苦労」


「スコッチ、そっちの状況は?」


【はっ、対象者マルタイ確保と言う事でテレパシーで広域捜査網解除の信号は送りました!】


 そのスコッチと呼ばれた竜は敬礼をする。

 何か嬉しそうだ。


「ワッハッハ。

 面白いだろう竜司君。

 警察関連の竜はドラマの刑事のあだ名がつけられるのが慣例なんだ。

 知ってるかい?

 太陽にわめけ?」


 僕が生まれるよりもずっと前に人気のあった刑事ドラマの名前だ。

 でも刑事ドラマは興味が無いので少ししか知らない。


「いえ……

 名前ぐらいしか……」


「そうかい?

 オジサンは好きで毎週見ていたけどなあ」


 しばし沈黙。

 ヤマさんが口を開く。


「しかし竜司君。

 何で栄の町はあんなことになってしまったんだい?」


 僕は黙っていた。

 説明するのも難しいし、そこまで話していい相手かはまだ解らなかったから。


「まあ、言いたくないならそれでもいいさ。

 市民には黙秘権って言うのがあるからね」


「あの……

 僕はこれからどうなるんでしょうか……?」


 僕は恐る恐る聞いてみる。


「とりあえず手続き上の事もあるし静岡県警本部へ来てもらうよ」


「……わかりました……

 はぁ……」


 僕は深い溜息を付き、俯く。

 これから家に戻されると思うと酷く憂鬱だ。


「何だい竜司君。

 若い子がそんな溜息を付いて俯いちゃ駄目だぞ。

 希望ってのはな見上げた空にあるもんだ」


 僕の場合見上げても絶望しかない。


「そう言えば竜が二人いるって事はあの方々は竜河岸なんですよね……?」


「そうだよ。

 自己紹介させよう。

 おいっ!

 お前ら!」


(はい何ですかヤマさん)


 二人がこちらに近づいてくる。

 よく見たらこの二人同じ顔だ。


 近くで見るとよく解る。

 双子だろうか?


「お前ら竜司君に自己紹介しろ」


(はっ!

 自分は静岡県警本部組織犯罪対策局捜査第五課、滝龍一たきりゅういち警部でありますっ!)


(はっ!

 自分は静岡県警本部組織犯罪対策局捜査第五課、滝龍二たきりゅうじ警部でありますっ!)


 二人は一糸乱れぬリズムで敬礼をする。

 やはり双子か。


「ワッハッハ、竜司君驚いたかい?

 この二人は双子の竜河岸なんだよ。

 顔も背丈も一緒だからオジサンにも区別付かないんだ」


(はっ!

 違いとしては自分の方が食事を早く摂取出来ますっ!)


 向かって左の男性が敬礼をしてそう言う。


 この人が龍二さんか。

 何となく同じ名前なだけに少し親近感が沸く。


 にしても地味な特技だ。


(はっ!

 自分の方は龍二よりも身軽でありますっ!

 今ここでバック宙も決める事が出来ますっ!)


 向かって右側の人も敬礼をしながらそう言う。


 この人が龍一さんか。

 やはり双子の区別の特徴としては地味だ。


「ワッハッハ。

 ホラ竜司君がそんな事言われてもって顔をしているぞ」


 僕は疑問が沸いたから聞いてみた。


「そういえば警察関連に竜河岸って何人ぐらいいるんですか?」


「ん?

 日本では百五十人弱って所かな?

 一県につき二人、多くて三人かな。

 十人単位で配備されているのは警視庁の特殊交通警ら隊ぐらいだよ」


 豪輝兄さんの居る部署だ。


「じゃあ静岡って……」


「そう、この二人。

 通称、双截龍ダブルドラゴンの二人だけだよ」


 僕は昔のアクションゲームを思い出した。


 さっきのドラマからの命名と言い趣味の世界に走りがちなのは竜がこっちに来出したせいだろうか。


 そんな事を言っていると遠くから車が近づいてくる音がする。

 間もなくドラマで見るような大きな護送車が前に止まる。


「おっ来た来た。

 じゃあ竜司君、乗ってくれるかい?

 何か物々しい車だけど気にしないでくれ」


 僕は言われるままに車に乗り込み座る。


 中は薄暗い。

 窓に細かい金網がかかっているからだろう。


 ガレアも警察の竜に引っ張られ中に乗り込む。

 ふとガレアに巻き付いている白い布に興味が沸く。


「あの……

 ヤマさん……

 でいいんですかね?

 あの白い布は……?」


「ん?

 あぁヤマさんでいいよ。

 聖塞帯せいさいたいの事かい?

 最近配備された対竜用拘束器だよ。

 びっくりしたかい?」


「ええ……

 びっくりしてます……

 あんなの人間に作れたんですね……」


「ん?

 違う違う。

 作ったのはマザードラゴンだよ。

 魔力については人間側は全く分からないからねえ。

 SIT特殊班捜査係交渉人ネゴシエーターが長い間かけてようやく頂けたんだ。

 魔力を操れる竜河岸にしか使えないのとまだ数が足りないって難点はあるけどね」


「じゃあ僕が竜河岸だってことは知ってたんですか?」


「あぁ、愛知県警の前情報でね。

 でもオジサンが居る所に降りてくれたのはラッキーだったよ。

 ワッハッハ」


 そんな話をしながら車に揺られる事一時間半。

 ようやく車が止まる。


「お?

 着いたな。

 竜司君、長旅ご苦労さん。

 さあ降りて」


 僕は車から降りた。

 続いてガレアも他の竜に引っ張られ車から降りる。



 静岡県警本部



 僕はこれからどうなるのだろうか。



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 ###



「はい、今日はここまで」


「パパー、逮捕されちゃったの?」


「逮捕じゃ無くて任意同行になるのかな?」


「???」


 たつ、キョトン顔。


「まあ、そこら辺はいいよ。

 とにかく刑事に連れてかれたって事だけ解ってれば。

 じゃあ、おやすみ……」

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