第六章 名古屋編

第六十一話 竜司、赤の王に戦慄する。

「やあ、こんばんは。

 今日も始めようか。

 今日は新天地名古屋からだったね」


「うん!」


 ###


 僕は近鉄四日市駅から電車に乗り、一路名古屋を目指していた。


【なあなあ竜司。

 次はどこに行くんだ?】


「次は名古屋だよガレア」


 最近では電車でガレアもおとなしくしている。

 初めて乗った時とはえらい違いだ。


【そのナゴヤってとこには何があるんだ?】


「待ってね。

 調べてみるから……」


 いつも通りスマホで検索。

 検索ワードはこう


 名古屋 観光


「おっと」


 スマホの操作ミスで名古屋のみで検索。


「ん……?」


 コミカライブ IN名古屋


 割と上の方にあったその検索結果をタップ。


「へぇ……

 コミケか」


 コミカライブ。

 それは名古屋で開かれる大規模の同人誌即売会だった。

 最近では億の金が動くと言われる物凄い市場。


「そういえば行った事無いなあ。

 行ってみようかな?」


 東京のコミケの賑わいはニュースで見ていたが、僕は年齢と引き籠もりのせいもあり行った事が無い。

 よし、決めた。

 名古屋はコミケに行ってみよう。


「決まったよガレア。

 名古屋ではコミケに行ってみよう」


【コミケ?

 何だ?

 甘い喰いもんか?】


「プッ……

 違うよガレア。

 コミケってのはね……

 まあいいや。

 おいおい説明していくよ」


【わかった】


 電車に揺られる事三十五分。

 名古屋に到着。


(近鉄名古屋ー近鉄名古屋ー)


「着いたよガレア。

 降りよう」


 降りてしばらく地下街を歩く。

 さすが名古屋地下街も物凄く広い。

 しばらく歩き、ようやく地上へ。


 名古屋の街並みの印象。

 やはり大都市。

 大阪に負けずとも劣らないビルの大きさだ。


【すっげぇなあ竜司!

 どれも赤の王ぐらいデカいぞ!】


 以前はスルーしたが今回は聞いてみる事にした。


「ガレア、以前も言ってたけど赤の王ってそんなの大きいの?」


【おうよ!

 でっけぇぞ!】


「前にも聞いたけどマッハとケンカ売りに行ったって?」


【あー、そんな事もあったなあ。

 あの頃は俺も若かったぜ】


 ガレアが遠い目をしている。

 竜の感覚で若いって言われてもなあ。


「確かその時は逃げ出したんだよね?

 赤の王ってそんなに強いの?」


 するとガレアは呆れた顔で


【竜司何言ってんだ。

 高位の竜ハイドラゴン、「王の衆」のリーダー赤の王だぞ。

 めっちゃくちゃ強ええよ】


「そう……

 どんな能力なの?」


【マグマだよ!

 マ・グ・マ!

 赤の王はマグマを自由に操るんだよ】


 それを聞いた途端汗がどっと噴き出た。

 おそらく竜界の事だ。

 地球のマグマとも違うのだろう。


「それは……

 凄いね」


【だろ?

 いやーケンカ売りに行ったときはマグマの洪水であやうく消し炭になる所だった】


「あれ?

 竜ってマグマも飲めるんじゃなかったっけ?」


【それは自然にあるマグマの話。

 赤の王が出すマグマは魔力を通しているから温度もケタ違いに高いの!

 あんなの飲んだから腹が焼けちまう】


 更に汗が噴き出る僕の身体。

 願わくば出会わずに済ませたいものだ。

 するとそこへ悲鳴が聞こえてきた。


「キャー!

 誰かー!

 引ったくりよー!」


 声のした方を向くと手前に小さい女の子と竜がいる。

 そしてその奥に走り去るひったくり犯。


「ガレア、試してみたい事がある。

 お願い」


【何だ?】


全方位オールレンジ


 僕を中心に広がる緑のワイヤーフレーム。

 ひったくり犯も捕捉した。

 僕は続けて


標的捕縛マーキング


 ひったくり犯の後頭部に青い菱型の印が入る。

 更に続ける。


魔力閃光アステショット


 ギャン


 ガレアの口からうねる様に白い閃光が後頭部の菱型印目がけて飛んでいく。


 ガン


 倒れるひったくり犯。


「よし、上手くいった。

 出来るようにやっぱりなってたんだ」


 先のD1GPで見せた標的捕縛マーキング

 やはり僕は習得していた。

 あと全方位オールレンジも変化していて対象を振れずとも人物を特定できるようになっていた。

 しかも竜河岸と一般人で色分けもされていた。

 竜河岸は白く表示される様だ。

 後はこの三連コンボの総発動時間を短くしていくだけだ。


 荷物を引ったくり犯から回収し、女の子がこちらへ寄ってくる。


「ありがとっ!

 お兄たんっ!」


 たん……?

 少しびっくりしたが名古屋では妹が出来るのか。

 しかしこの娘はいくつだろう。


「いや……

 どういたしまして。

 荷物は無事だった?」


「うんっ!

 大丈夫だった」


【はるはる~】


 後ろからドスドス竜が歩いて来た。

 薄赤色のその竜は一言で言うならデカい。

 背丈はガレアと同じぐらいなのに幅が物凄くある。


「ガレア知ってる?

 この竜」


【うんにゃ、知らね】


 そのやり取りを聞いていた女の子がぺこりと頭を下げた。


「よろしくねっ!

 ガレアたんっ。

 あたし夢野遥ゆめのはるか! 

 竜河岸だよっ

 よろしくね」


【あぁ】


 ぶっきらぼうに挨拶するガレア。

 ガレアの態度に何か違和感を感じる僕。


「僕は皇竜司すめらぎりゅうじ

 十四歳、竜河岸です」


「そっかー、竜司お兄たんだねっ。

 よろしくー」


 遥は笑顔で手を差し出してきた。

 僕は握手に応じがっちり手を繋いだ。

 すると傍に居た巨漢の竜が。


【あぁっ!?

 出会って早々はるはるの握手をゲットするなんて……

 竜司氏と申しましたな?

 その名前は忘れないと誓う!】


 何か話し方がうっとうしい奴だな。


「もーっスミスッ!

 大体スミスが機敏に動けたら竜司お兄たんに迷惑かける事も無かったんだよ?」


【僕ははるはるの側から離れる事は出来ない】


「遥ちゃん?

 この竜は?」


「スーダン・ミゼット・スイフト。

 愛称はスミス。

 武竜なのっ」


「武竜?」


 聞き慣れない言葉が出て聞いてみる。


「竜司兄たんは武竜を知らないんだねっ。

 じゃあスミス。

 やって見せて」


【はるはるのご命令とあらば】


 スミスが短い両手を前にかざす。

 赤い光が集まる。


 ゴン


 スミスの手辺りから何か落ちてきた。

 槍だ。

 槍が落ちてきた。


 遥が自慢げに。


「エッヘン!

 どう?

 これが武竜の力だよっ」


 なるほど武器生成が出来るのか。

 ガレアに聞いてみた。


「ねぇガレア。

 こんな竜っているの?」


【俺だって全部の竜を知ってるわけじゃ無いからなあ。

 まあ出来るってんならいるんじゃね?】


 あまり興味のなさそうなガレア。

 まあガレアの言う通りだろう。


「スミス。

 この槍のエンチャントは何にしたの?」


【はるはるの武器じゃないからノンエンチャント】


「ぶー。

 それじゃースミスの凄さが伝わんないー」


【はるはるが怒っておられる!

 もう一度やらさせてもらいます!】


 また赤い光がスミスの両手に集まる。


 ゴン


 次はナイフが落ちてきた。


「ごめんね竜司お兄たん。

 今度はちゃんとしてると思うから。

 スミス?

 これはどんなエンチャントにしたの?」


【これは持つと素早さが上がります】


「じゃあ、はいっ!

 竜司お兄たんっ!」


 ナイフを拾った遥は僕にナイフを手渡す。

 身体が少し軽くなった気がする。

 手を出すスピードも心持ち速い気がする。

 おそらくエンチャントというのは付加効果と言う事だろう。

 何かRPGみたいだなあ。


「へぇ……」


 そんな目覚ましい効果があったわけではないのでそんなに驚きもしなかった。


(夢はいつでも心のなーかーにー♪)


 何処からか歌が聞こえる。

 素早く携帯を取り出す遥。


「いっけない!

 ライブに遅刻しちゃう!」


「ライブって歌手なの?」


 僕は聞いてみた。


「フフフ、わたし夢野遥ゆめのはるかは何を隠そうアイドルなのですっ!」


 アイドルは僕もそこそこ知っているが夢野遥ゆめのはるかなんて聞いた事が無い。


「へぇ凄いね」


 自分でも淡白な返答だと思った。


「あーっ!

 その反応は信じてないでしょっ!

 いいわっ!

 竜司お兄たんもついてきてっ!

 わたしの顔パスで入れてあげるから」


 遥は僕の手を取って歩き出す。

 するとスミスが。


【ぬおーっ!

 はるはるの手を繋いで歩くだとーっ!

 許せんっ!

 許せんぞっ!

 竜司氏!】


「あの……

 遥さん?

 君の竜が騒いでるから手を放してくれないかな?

 ついていくからさ」


 返事を待つ前に僕は手を離してしまった。

 とりあえずついて行く事に。


「とりあえず……

 行こうかガレア」


 ガレアは黙ってついてくる。

 僕らは歩いて駅に向かっているらしい。

 とりあえず聞いてみた。


「どこに向かってるの?」


「地下鉄っ!」


 元気に端的に答える遥。

 僕らは地下に潜る。


「ぶへっ」


 遥がコケた。

 何となくカンナを思い出しガレアを見る。

 が、特に萌えている様子も無く弁当屋のキャラ看板を見ている。


 ん?

 萌える……

 そうか先程の違和感の元が解った。

 これぐらいの小さな女の子ならガレアは萌えるはずなのに反応が物凄く淡泊だからだ。


 名古屋市営東山線 名古屋駅


 僕らは電車に乗る。

 早速ガレアに聞いてみた。


「ねぇガレア。

 何で遥には淡泊なの?」


【淡泊?】


「だってカンナと背丈同じぐらいなのにカンナの時と全然反応が違うじゃない」


【あぁ、何だろなー?

 俺もよく解らん。

 でもあいつは何か違うんだよなー】


 ガレアもよく解っていないみたいだ。


(栄ー、栄ー)


「着いたよっ。

 さあ降りよう」


 赤い巨体の竜を従えた遥はズンズン進む。

 地下街を少し進み地上に出る。

 その瞬間漂って来る物凄い匂い。


「何だこの匂い……」


 三重のホームレスの匂いとは別の人工的な匂いだ。

 とにかくどこに行っても臭い。


「竜司お兄たん、名古屋の人じゃないね」


「そうだけど何で?」


「栄町のこの匂いに慣れていないようだったから。

 この匂いは香水の匂いよ。

 水商売の人のね」


 にしても凄い。

 鼻の裏を突き刺すような匂いがする。

 匂いを我慢しつつ歩き、僕らは一つの雑居ビルの前に着く。


「着いたわ。

 ここよ」


 遥はそう言いながらビルの脇の地下に続く階段に入る。

 階段の壁には様々なバンドのフライヤーが貼られている。


 僕はだんだんわかって来た。

 これはおそらく……。

 そんな事を考えている内に下に辿り着いた。

 ドアに備え付けられた錆びた鉄板にはこう書かれていた。


 ライブハウス ジェネシス


 ドアを開けて中に入る遥。


「おはよーございますっ!」


「晚!

 是迟到!」


 中に入るとスーツを着た男が遥に向かって怒鳴っている。

 早口でよく解らなかったが中国の人だろうか。


「じゃあ、竜司お兄たん後でね」


 遥は一人控室に入って行った。

 残された僕とガレア、スミスの三人。


「じゃあ僕らも入る?」


 中に入ろうとするとスーツとは別の男が制止する。


「千円!

 センエン!」


 そう言いながら僕に手の平を差し出す。


「え?

 確か顔パスって……?」


 そんな疑問も御構い無しにそのおそらく中国人は手の平を縦に振る。


「センエン!

 センエン!」


【これは払うしかないだろ常考】


 とスミス。


「何で僕がこんな目に……」


 何かカツアゲにでもあった気分だった渋々財布から千円を取り出し渡す。


「ドリンク!

 イッパイ無料ネー」


 妙なチケットを渡される。

 ドリンク引換券なのだろう。

 物凄くテンションが下がった中僕は中に入る。


 この場所とスタッフを見て解った事がある。

 おそらく遥は地下アイドルというジャンルなのだろう。


 ###


「はい、今日はここまで」


「パパー、赤の王って強いのー?」


「凄く強かったよ。

 ホラ見てごらん」


 僕は上着を少し脱ぎ大きな火傷の跡を見せる。


「パパッ!?

 大丈夫なのっ!?

 コレ……」


「これは跡だからもう痛くないよ。

 心配してくれてありがとうねたつ

 じゃあ、もうおやすみ……」


           バタン

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