第四十一話 ガレア、川辺で水遊び

「やあ、こんばんは。

 今日も始めて行こうか」


 ###


 キャンプ当日。

 朝食を終えた僕らは準備に大忙しだった。

 と、言っても大半がヒビキと氷織ひおりの準備だった。


 天気は快晴。

 最高気温は三十四度を超えるそうな。


 僕は大型のクーラーボックスに肉やら野菜やら色々詰め込んだ。

 多分僕一人なら一週間は過ごせる量だ。


「はい、クーラーボックスに詰め込み終わりました」


【ありがとよっ】


 さあ、次は凛子さんだ。


「ガレア、凛子さんを呼んできてくれ」


【はいよう】


 ガレアが穴をくぐっていった。


 十分後


「……大丈夫かしら?

 この格好。

 ちょっと派手じゃないかしら?」


「ママ可愛いよー」


【私は人間の服装はよくわかりません】


 穴から四人が出てきた。


 まず、凛子さん。

 アウターはピンクのチェック柄の半袖。

 インナーは無地の白Tシャツ。

 下はスラッとしたGパン。

 胸にサングラスをかけている。


 次にガレアと下顎にぶら下がったカンナ。

 あの席は特等席なのか。


 凛子さんよりカンナの格好の方が派手だった。

 アウターは半袖のアロハシャツ。

 インナーは水玉のTシャツ。

 下はGパンをぶった切った様な半ズボン。

 そしてサングラスをもうかけていた。


「ヘイ!

 竜司にーちゃん!

 ヤッホー!」


 ガレアの下顎から降りたカンナは既に心はリゾート色だ。


「ヤ……

 ヤッホー……

 カンナちゃん……

 その恰好……

 どちらかと言うと海じゃない?」


 凛子さんが頭を押さえながら


「私もそう言ったんだけどね……」


「これ着たかったんだー。

 エヘヘ」


 サングラスで目は解らないが、とにかく嬉しそうだ。


【宅のカンナちゃん可愛いですねえ】


「いえいえ、そちらの氷織ひおりちゃんも可愛い子でいらっしゃって……

 オホホホ」


 こうゆうのをママ友っていうのだろうか?


 次はと……

 並河さんだ。

 僕は並河さんに電話をかけた。


「もしもし?

 竜司君か?

 こっちは準備できてるぜ。

 何処に行けば良い?」


「場所は天涯駅から五分程のタワーマンションです」


「ああ、あそこか。

 わかった。

 下まで着いたら電話する」


 十五分ほど待つと電話が鳴った。


「並河さん、ありがとうございます。

 じゃあ下に行きます」


 電話を置き、皆に告げた。


「じゃあ、皆さん行きましょう」


 ガレアにクーラーボックスをぶら下げて、僕らは荷物を持ち下に降りた。

 下に降りるとかなり大型のバンが止まっていた。

 並河さんが降りてきた。


「よっ、竜司君。

 今日はお招き頂いてありがとうな」


「いえ、並河さんにはやってもらいたい事もありますし。

 それにしても大きな車ですね」


「そうだろ?

 シボレーエクスプレス。

 アメ車だぜ」


 並河さんの趣味なんだろうか?

 確かに左ハンドルだ。


「じゃあ、並河さん。

 荷物を詰め込んでいいですか?」


「おっわりぃな。

 どんどん積んでくれ」


 積み込み作業を行っている時にヒビキとグースが


【アンタが並河さんかい?

 こんな大きな車ありがとうよっ】


「本日はマスター共々お世話になります」


「スマン、竜司君……

 この真っ白い人の言ってる事はわかるが、この隣の方の言ってる事が解らん。

 唸り声としか……」


「ああ、すいません……

 “あなたが並河さんですか。こんな大きな車をありがとう”

 って言ってます」


「もしかして、この方が前に言ってた……」


「ええ、ヒビキです。

 こんなナリですが竜です」


「いや……

 見た感じ完全に主婦だな……」


「ねーねー、氷織ひおりちゃん。

 水着持ってきたー?」


 カンナはどんな人でも物怖じしない。

 その大きな目を氷織ひおりに向ける。

 向けられた氷織ひおりは、はにかみながら俯き


「うん…………

 可愛いの買ってもらった……」


「あたしもねー。

 可愛いのママに買ってもらったんだー。

 後で見せっこしようねー」


「うん!」


 氷織ひおりも物凄く笑顔。

 会った時とはえらい違いだ。


 バタン


 トランクを閉める音。


「みんな乗れよー」


 座席は


 運転席・並河さん

 助手席・凛子さん

 中席左端・カンナ

 中席真ん中・僕

 中席右端・氷織ひおり

 後席・ヒビキとガレア、グース


 こんな感じの席順だ。

 さあ出発。


 行路は順調で特に問題なかった。

 が、山に入り曲がりくねった道で急カーブに差し掛かった時、僕の身体が大きく右に揺れた。


 フニ


 柔らかいものが頬に当たった。

 僕の顔が氷織ひおりの胸に当たったんだ。

 恐る恐る顔を上げると、そこに物凄く冷たい目をした氷織ひおりの顔があった。


「…………ロリコン……」


「うわわっ!?

 ゴ……ッ

 ゴメンッ!」


 すぐに体勢を整える僕。

 氷織こおりの目が怒りを帯びた様子。


「竜司さん……

 この前……

 ロリコンは未確定と言いましたが……

 これでロリコンスケベ確定です!」


 氷織ひおりがビシッと僕を指差す。

 そこへカンナが


「ねーねーどうしたのー?」


「べ……

 別に何でもないんだよ?

 カンナちゃん」


「そうです、ただ竜司さんがロリコンスケベ確定になっただけです」


「竜司にーちゃん、ロリコンってなあ……」


「カンナちゃんっっ!?

 わーーっっ!」


 僕は咄嗟にカンナの口を押さえた。


「また!」


 氷織ひおりが僕の腕を引いて僕を引きはがそうとする。


「竜司さん、席を代わりましょう。

 私が真ん中に行ってカンナちゃんを守ります……

 だって私は……」


 氷織ひおりがチラッとカンナを見る。


「お姉ちゃんなんですから……」


 カンナはキョトンとしている。

 するとガレアが後ろから


【なあなあ竜司、ロリコンって何だ?】


「ガレアは知らなくていい」


 この事はガレアに絶対に教える訳にはいかない。


【なーなー竜司ー。

 教えろよー】


「絶対に言わない」


【なーなー竜司ー】


 しつこいガレアにヒビキからの助け舟が出た。


【まあ、ガレアいいじゃないか。

 竜司だって言いたくない事だってあるさ】


【やだっ!

 俺は今知りたいのっ!】


 ガレアがプイッとむくれっ面を見せた時、何か少し冷えた気がした。


【ガレア……

 アンタ、いつまでも我儘言ってると……

 凍るかい?】


【ぐっ……

 はぁい、わかったよう】


 ヒビキありがとう。

 僕は心の中で何度も感謝したよ。


 そんなこんなで十津川到着。


「さあ、みんな着いたみたいよ。

 荷物を降ろしましょう」


 凛子さんが音頭を取る。


「僕は受付で手続きをしてきます」


 僕は受付を早々に済ませ、荷物を運ぶのを手伝った。


「ここが良いだろう。

 まずテントを張ろう」


 僕らは大型のテントを二つ作る事になった。

 まずフライシートを広げる。


「ガレアそっち持って」


【はいよう】


 バサッと広げる。


「竜司君、メインポールをスリープに通してくれ」


 十五分程で二つの大きなテントは立った。


「さあ、まだお昼までは時間があるけどどうしましょう?」


「ハイハーイ!

 川で泳ぐー!」


 カンナが手を振る。


「俺は釣りだな」


「僕は泳ぎます」


「私も……

 ヒビキは……?」


【アタシは日本語のベンキョーだよっ。

 よろしくねっ

 マザーグース】


【はいわかりました】


「ガレアはどうするの?」


【川の水綺麗だったからなー。

 俺も水浴びするわ】


 全員予定が決まった所で早速着替えだ。

 男は着替えは早いのでとっとと済ませて川辺に行った。


 川は物凄く透明で綺麗だった。

 連日の晴天のせいか流れも穏やかだ。

 川に入ると照り付ける日差しも手伝い水の冷たさが気持ち良かった。


「気持ち良いぞー

 ガレアもおいでよー」


【竜司、いっくぞー】


 サブーン


 ガレアが飛び込むと大きな水飛沫が舞う。


「ぷわっ!

 ガレアー

 やめろよー

 ハハハッ」


「竜司にーちゃん!」


 カンナちゃんが来た。


 カンナちゃんの水着は白地のワンピースタイプ。

 ピンクの水玉があしらわれ、そのピンク色に合わせた大きなリボンが胸元についている。


「カンナちゃん、すっごく似合っているよ。

 ねえガレア?」


 ガレアは黙ってカンナを凝視している。

 頬が赤い。

 これは萌えている。


「へへへー、でしょー?」


 元気にピースサインを見せるカンナ。

 確かに凄く可愛い。


「カンナちゃん!」


 氷織ひおりもやってきた。


 氷織ひおりの水着はピンクに白の水玉。

 胸元と腰に短いフリルが付いている。


氷織ひおりちゃん!

 可愛いー!」


 カンナが近づいて、手を広げ賛辞を送る。


「あ……

 ありがとう……」


 氷織ひおりははにかんで照れている。


「さっ行こっ!

 竜司にーちゃーん!」


 氷織ひおりの手を引きながら、僕に手を振り川に入って来た。


「冷たーい!

 それっ!」


 氷織ひおりに水をかけるカンナ。


「キャッ……

 やりましたね?

 それっ!」


 氷織ひおりも負けじと水をカンナにかける。

 二人はキャッキャッと水の掛け合いをしている。

 僕は微笑ましくなりずっと見ていた。

 ガレアは終始萌えて無言だ。


「ぷわっ!」


【うわっ!】


 カンナはガレアに。

 氷織ひおりは僕に。

 それぞれ水をかけられた。


【ガレアちゃーん!

 スキだらけだぞっ!】


 カンナちゃんがウインクをする。

 可愛い。


「竜司さん、目がいやらしいですよ。

 ロリコンは犯罪です」


 氷織ひおりはポーズを決める。


「ハハハ……

 お返しだっ!」


 僕は氷織ひおりに水をかける。


「キャッ!」


【カンナ、俺のどこがスキだらけだって?】


 ガレアがカンナに水をかける。

 竜だから水量が多い。


「わー!」


 圧倒的な水量に巻き込まれたカンナは尻もちをついた。

 顔をプルプル左右に振りながら


「やったなーっ!

 それっ!」


 僕ら四人はしばらく水の掛け合いに興じていた。


 ###


「さあ、今日はここまで」


「パパー?

 ロリコンってなあに?」


「それはたつが大人になったらわかる事だよ」


 僕は適当な事を言って逃げた。

 さあ、今日はもうおやすみ……


          バタン

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