第二十九話 ガレア今度こそUSJに行く 後編

「やあこんばんは。

 今日も始めて行こう」


「パパー、今日は何のお話ー?」


「昨日は……

 あ、そうそうUSJの続きだね」


 ###


 僕らはSEAWORLD会場を後にした。

 まだ体は濡れていた。

 僕はカバンからタオルを取り出し蓮に渡した。


「……ありがと……」


 濡れてる身体を拭く蓮。

 生地が薄いのか下着の色がほんのり映っていた。


「……赤……

 なんだね……?」


「もうっ……

 見ないでよっ……」


 蓮が恥ずかしがっている。

 が、先ほどきつくはない。


「十四歳なのに……

 ヘン……

 かな?」


 赤面した蓮が僕の顔を覗き込む。


「いやっ……

 そんな事は……

 何ていうか……

 セクシーだよ……」


 鼻血を出したのは事実だし、僕は思ったままを伝えた。


「ホント?

 良かった……」


 何が良かったのだろう?

 そんな事を考えながら次は僕がエスコートした。


「さあ、まだまだ時間はあるんだし。

 次に行こうよ」


 次のアトラクションへ進むがてらルンルがまたヘンな事を言いだした。


【竜司ちゃん、まあ聞いてよん。

 この子ったらギリギリまで下着悩んでいたのよう】


「ちょっとルンル!?」


【ずーぅっと下着を前に唸っていたわ。

 白か……

 赤か……

 竜司はどっちが好きかな……

 とか言いながらねん。

 見せる気満々じゃなぁーい】


「ルンルゥ~~……

 これ以上何か喋ったらアンタ……」


【ヒェッ!

 いいい……っ!

 やぁーねぇーん。

 冗談じゃなぁーいィ。

 せっかくのデートじゃない?

 そんな電流機敏エレクトリッパーなんてしまって

 ねっ?

 ねっ?

 はいっ!

 ないなぁーーいっ!】


 ルンルは焦りだし、許しを乞うた。

 そんなに電流機敏エレクトリッパーは嫌なんだろう。

 僕もそうなったら時間がもったいないと思って


「そうだよ蓮。

 許してあげなよ」


【さっすがァ

 竜司ちゃんはわかってるわぁ。

 ウフン……

 物わかりの良いオトコは好きよん】


 ルンルが大きい目をばちんとウインクする。

 やはり可愛くない。


「竜司がそう言うなら……」


 蓮は矛を収めたようだ。


 僕らが次に向かった先は


 ジェラシカルパークTHERIDE


 ここのアトラクションは人気な様で長蛇の列だったが、僕らはロイヤルパスでまた待たずに乗れた。

 何か申し訳ないなあ。


 大型のボートに乗り込みジャングルを進む。


(ようこそジェラシカルパークへ!)


 場内アナウンスが流れ大きな扉が開く。

 すぐ右手に首長竜が見える。


【チョイ!?

 チョイじゃないかっ!?】


「ガレア、誰それ?」


【慌て屋のチョイだよっ!

 お前居なくなったと思ったらこんなところに居たのか!?】


 ガレアの友達に似ていたのだろう。

 もちろんロボットなので返答はしない。


【おいっ!

 おいっ!

 チョイ!

 何で答えねえんだ!?

 俺を無視するなんて良い度胸だァッ!】


「ガレア落ち着けって。

 あれはロボットだよ。

 ガレアの友達であるわけがない」


【ロボット?】


 出た、ガレアのキョトン顔。

 どんな状況でもガレアの好奇心は止まらない。


「このアトラクションが終わったら説明してやるから」


 説明してたらジェラシカルパークが楽しめない。

 僕は説明を後回しにした。


 ボートは進み室内へ。

 中にも恐竜がいっぱいだ。

 おそらくメインであろう巨大なティラノザウルスが前に現れた時


【何だお前!

 向こうじゃ見ない顔だなっ!

 新入りかっ!

 やんのかオラァッ!?】


 と、ガレアが息巻いていた。


「だからガレア落ち着けって。

 あれもロボットだから」


【ロボット……】


 ガレアがキョトン顔でこちらを向いた瞬間


 ガタン!


 急に坂を猛スピードでボートが滑り出した。

 猛スピードで落ちるボート。

 後ろへ抜けていく視界。

 光だ。

 地上に出た。


 サッパーーーン!


 十メートルもの大きな水しぶきが上がった。

 僕とガレアはビッショビショになった。

 濡れたままボートを降りた僕ら。

 すると出口で写真が売っていた。


(さあ、今の決定的瞬間を写真に撮っています。

 思い出にいかがですか?)


 僕らは見本を見た。


 傑作だったよ。


 僕と蓮は目をつぶり下を向いている。

 まあ普通の反応だろう。

 まずガレア。

 完全に僕の方をキョトン顔で見ている。

 ルンルも呆けた顔で真正面を向いたままだ。


「アッハッハッハ、何ガレアこの顔!」


【しょうがねぇだろっ!

 竜司に聞いてる瞬間だったしっ!】


「ウフフフッ!

 ルンルもなあにこの顔?」


【しょうがないじゃない。

 アタシホントは濡れるの嫌なんだからっ!

 つけまつ毛とか外れるしさっ!

 メークが台無しよん】


 そう言えば僕とガレアもびしょびしょだ。

 待てよ……


 僕は考えた。

 と言う事は蓮も……

 蓮の方を向いた。

 期待していた感は否定できないね。


「ん?

 どうしたの竜司?」


 蓮は全然濡れていなかった。

 僕はあからさまにガッカリ顔をしていたんだろうね。


「はっはーん、竜司ってばまた私の下着が見たかったのね。

 竜司のスケベ」


「そそそっっ……

 そんな事無いよっ!

 おおっっ……

 おかしなことを言うなあっ!

 蓮は」


 僕は赤面してそっぽを向いた。


「ホントにぃ~?

 ……でも…………

 竜司が見たいって言うなら……

 ちょっとだけ…………

 見せてもいいよ……?」


 冷静に考えたら明らかな釣りだったんだよ。

 エサに食いついた僕はまた蓮の方を向いてしまった。

 別に普通の蓮が立っていた。


「ウッソー。

 アハハッ

 竜司ってばすっごいエッチな目をしてるんだもん」


 僕はまんまと引っかかってしまった自分に恥ずかしいやら情けないやらで黙ってしまった。


「そんな簡単に見せれません。

 私はお安くないんだから」


 歩き出した蓮が振り向き、アカンベーをする。

 まあ可愛いったらなかったね。


 広場に戻ると何やら人だかりができていた。

 美人のお姉さんが布をかぶせたワゴンを前に喋っている。


(ここに恐竜の赤ちゃんがいます。

 皆さん、赤ちゃんがびっくりするといけないので静かにお願いします)


 お姉さんが布を取るとそこに小さな赤ちゃんが居た。


「可愛いねガレア。

 言っとくけどあれもロボットだよ」


【そういえばロボットって?】


 僕は説明し忘れていたことを思い出した。


「ああ、ロボットっていうのは自動で動く人形だよ。

 アステバンでも出てただろ?

 たくさん出てくる雑魚兵士」


【あー

 あれはでも人の形だったぜ】


「何も無い所から作るから形は色々自由に変えれるんだ」


【すっげぇなあ!】


「人間も捨てたもんじゃないだろ?」


【そうだな!】


 とにかくその日は楽しかった。

 生きててよかった。

 本当にそう思ったんだ。


 辺りはそろそろ暗くなってきた。

 最後ナイトパレードを見て本日は終了。


 ゲートを抜けるとガレアが


【あっ!

 クルコロだっ!

 竜司ハラヘッタ!

 クルコロ食べたい!

 なぁー竜司ー!】


 僕は蓮の方を向いた。


「私は良いわよ。

 お腹も空いちゃったし」


 僕らは出てすぐの建物に入った。


 たこ焼きミュージアム


 な……

 何だここは……?

 たこ焼き屋が所狭しと何店舗も並んでいる。


【わぁーい】


 ガレアが子供のようにはしゃいでいる。


【なあなあ、竜司これ食いたい!

 買ってくれ!】


 あべのたこ焼き かわちゃん


 ダシで食べる変わったたこ焼きだ。

 これはガレアに教えておかないと。


「いいガレア?

 これはこうしてたこ焼きをお椀の中に入れて食べるんだよ」


【ふぅーん……

 めんどくせっ】


 そう言ったガレアはたこ焼き全部にお椀のダシをぶっかけ全部一気に食ってしまった。


【うまぁーーい!

 でも中のグニュグニュいらね】


 プップッと蛸を吐き出すガレア。

 きっちり数の分だけ吐き出した。


 まあ食ったね。

 たこ焼きばかり何個も何個も。

 ガレアは一人だけで十五箱食べたからね。

 ソース味が気に入ってる様子。


 僕らは大阪駅に着いた。

 そこに着くまで何も喋らなかった。

 色々と考え事をしていたからね。


「じゃあ……

 竜司、ここで……」


「うん……

 それじゃあ……」


 蓮がルンルと一緒に帰ろうとした時、僕は呼び止めた。


「蓮!」


 振り向いた蓮がこちらに戻って来た。


「竜司、どうしたの?」


「蓮、僕は明日大阪を発つよ。

 そして横浜を目指す」


「横浜に?」


「僕はあの事件に逃げてた。

 だから引き籠もったんだ。

 僕はあの事件に向き合うって決めたんだ。

 だから……」


「そう……

 わかった。

 竜司がそう言うなら止めないわ」


 蓮は少し寂しそうだった。


「ごめん」


「何で謝るの?

 竜司がようやく一歩進んだって事じゃない。

 明日はまだ会えるんでしょ?」


「うん、じゃあまた明日」


「また明日」


 午後八時半

 僕はフネさんの家に戻って来た。


「おっ?

 早い帰りやないけ。

 大人になったんか?

 竜司ィ?」


 居間に居たげんはからかい半分でそう言う。

 でも僕はそれを無視してげんの前に正座で座ったんだ。


「おっ?

 竜司帰ったんか。

 ちゃんとモノは立ったか?

 ウヒョヒョヒョ」


 フネさんもやって来た。

 からかいを無視して話し出した。


「お二人に話があります」


「わかっとるわ、明日旅立つって言うんやろ」


「え……?」


「え?

 やあるかい。

 旅人のお前が改まって話す事言うたらそれぐらいやろ」


「その通りです……」


「暗い顔すんなって。

 ほいで次はどこ行くんや?

 一気に横浜か?」


「いえ、僕もまだまだ世間知らずで未熟なので一県一県進んでいこうかと考えています。

 次は奈良か和歌山に」


「それがええ。

 自分の目で見て、身体で体験して成長せい竜司」


 フネさんが笑っていた。


「そうやなばーちゃん。

 おっと……

 そうやそうや」


 げんがポケットから携帯を取り出す。


「電話番号交換しようや」


 僕は了承し、ケータイを取り出し赤外線通信をした。

 現在四人目。


「竜司ィ。

 何かトラブルあったらすぐにワイに電話せい。

 すぐに駆け付けたるわっ!」


 げんが息巻いている。

 正直物凄く頼もしく見えたよ。


「竜司……

 このバカ孫、ゴンタやからあんまり友達おらんのじゃて。

 仲良うしたってな」


 フネさんが頭を下げる。


「いえ、そんな頭を上げてください。

 げんにはスキルや魔力の事でお世話になってますし」


「そうやでばーちゃん、ワイと竜司はもうマブダチやで。

 何せ拳と拳で語り合った仲やもんな」


 豪快にげんが肩を組んできた。


「でもホントありがとう。

 そしてこれからもよろしくね」


「おう!」


 げんの元気なサムズアップを見て僕は眠りについた。


 翌朝、僕は身支度を終え蓮に電話していた。


「うん……

 そう……

 そろそろ行くよ」


「ばーちゃん、はよせーな。

 竜司もう行ってまうで!」


「ちょっと待ち―な……

 はい、待たせたのう……

 レデーの身支度ってのは時間がかかるもんなんじゃ」


「どこが……」


 どこがレディなんすかって突っ込もうかと思ったけど失礼にあたると思い途中で止めた。


「喝っ!

 ……っと言いたいとこじゃけんど、竜司成長したやないかい。

 途中までとはいえ突っ込めるなんてのう」


「そうですかね?」


 そんな話をしながら大阪駅に辿り着いた。

 見送りに来てくれたのはげん、フネさん、ベノムの三人。

 間もなくまた地下から声が聞こえてきた。


【早く早く!

 竜司ちゃんもう行っちゃうわようんっ!】


「ルンルってばちょっと待って」


 蓮とルンルが登場。


「竜司……

 待った?」


「いや、今来た所だよ」


「それじゃあ、皆さんお世話になりました」


 僕は深々とお辞儀した。


「竜司ィ!

 気張って行ってこいや!

 奈良には難波から近鉄電車で行けるでぇ」


「わかったげん


「土地のもん食って腹だけは下さんようにな」


「大丈夫です。

 フネさん特製の漢方ももらいましたし」


【……お土産買ってきてね……】


「ぷっ……

 わかったよベノム」


「竜司……」


 蓮がこちらに近づいて握手の手を差し伸べる。


「うん」


 僕と蓮は握手をした。

 すると蓮が


「ひっ……

 ひくっ……

 うわぁあん!

 寂しいよう!

 竜司ー!」


 辺りを気にせず大声で泣き出した。

 焦った僕は


「ホラ、泣かないで」


 ハンカチを出し、涙をぬぐった。


「ありがと……

 ヒックヒック……

 ごめんね竜司」


 僕は最後にお願いをしてみた。


「ねえ蓮?

 髪の毛に触ってもいい?」


「いいけど、どうして……?」


「僕は蓮の中で一番髪の毛が好きなんだ。

 膝枕したときに綺麗だから触ってたんだけど」


「ん……」


 蓮の髪の毛に触った。

 引っかかりの無いサラサラな髪が物凄く心地よい。


「じゃあ……

 竜司……

 私も……

 一個……

 最後のお願い聞いてくれる……?」


「なんだい?」


「目を瞑ってて欲しいの……」


 僕は目を瞑った。



 チュッ



 数秒後、唇に柔らかい何かが触れた。

 あと胸にも二つの柔らかいものが当たっている。

 僕はたまらず目を開けた。


 びっくりした。

 目を瞑った蓮の顔がホント目の前にあったから。


「へ……?」


「私のファーストキス……

 竜司にあげちゃった……」


 赤面した蓮がそう言う。


【こりゃ決まったわね。

 相思相愛よん】


「そやのう、竜司も自分から好きって言ってたしなあ」


「ワシがあと四十年若ければのう」


【あんたたち、もう結婚しなさいよ。

 そんで新婚旅行として竜司についてっちゃえ】


 そのキーワードは駄目だ。


【結婚!?

 ケッコンかっ!

 竜司はやっぱ蓮とケッコンだなっ!

 俺もそう思ってんだよっ!】


 ガレアのテンションが上がってしまった。


【……お土産】


【やっぱ結婚式となるとーぅ……

 玉姫殿か平安閣よねー】


「ワイの知り合いに獅子舞上手い奴おるからそいつ呼んだるわ」


 ヤバイ、早く止めないと。


【子供は何人がいいかしらぁ?

 三人?

 四人?

 オトコでもオンナでもどっちでもいいわぁ】


「子供てルンル。

 それは早すぎへんか?」


【大丈夫よん。

 あの子バストこそ残念だけどお尻は結構大きいのよ。

 ド安産型だわよ。

 そこらへん抜かりないわ】


「ヨツシャ竜司、奈良行くんは一旦止めて一発ヌいてから行け!」


【ヒャッホゥ。

 げんちゃん解ってるぅ】


 ブチッ


 ブチッ?

 変な音が聞こえた気がした。

 隣を見たら頭の先まで赤面している蓮がゆっくりとルンルとげんの方に歩きだした。


「ルンルゥ~~……

 アンタまたやってくれたわねえ……

 いらないことをベラベラベラベラと…………

 私のファーストキスを台無しにしてくれて…………」


 ああ、蓮がキレた。

 ルンルご愁傷さま。


【ヒ……ッッ!

 ヒエッ……】


「今回は二人だけど関係ないわ……

 全力よ……

 全力でやってやるわ……」


 ルンル可哀想に。

 二人?


【ギャッ!?】


「何や?」


電流機敏エレクトリッパーァッ!!」


 げんとルンル、二人の手を持った。

 蓮の手元から今まで見た中で一番大きな火花が上がった。


【ああああぁぁっぁ!!

 ややややだだだだ】


「なななんんやワレれっれれ……」


 二人ともその場にへたり込んだ。


「蓮……?」


「うん、乱反射の持続時間最大にして撃っちゃった。

 テヘッ」


 やはり女は怖い。

 何でも持続時間は一時間だそうな。


「それじゃあ僕は行くよ」


「うん……

 元気でね」


「違うよ蓮。

 また会おうだよ」


 蓮の顔がぱあっと笑顔になった。


「うんっ!

 絶対絶対また会おうね竜司っ!」


「うん、それじゃあ行ってきます」


 こうして僕は旅だった。


 ###


「さあ、今日の話はここまで……

 ってたつ?」


「すぅーっ……

 すぅーっ……」


「寝ちゃったかぁ、しょうがないね。

 今日の話は長かったから」


 続きはまた明日……

 おやすみ


       バタン


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