第8話 クローバー編 女子高生、知恵の天使にヒントをもらう
「はーい、もしもし? 」
ヒカリは声がしたので、緊張してスマートフォンを握りしめた。
「すみません、急に電話してしまって……」
「何改まっているの?ヒカリでしょ? 」
「ん? 」
この声、限りなく聞いたことがある声だった。一度や二度ではない。この感じ、ひどく日常に溶け込んでいる声。そうそう、朝だって聞いた声。今朝は残業続きで、顔がむくんでいることに不機嫌になっていて、朝ご飯を食べながらも経済新聞をチェックしていた。
「お姉ちゃん!? 」
「ヒカリ? 」
「ミドリお姉ちゃん?仕事中? 」
「今は休憩中。また残業だわ……、この時期忙しくてね」
「お疲れ様」
ヒカリは少し混乱していた。何故天使がお姉ちゃんなのか。ヒカリには2人姉がいるが、まさに一番上のミドリお姉ちゃん。彼女はヒカリより一回り以上年上であり、バリバリのキャリアウーマン。最高学府で学び、国家公務員試験を通り、キャリアのエリートである。ただ姉は二次元が恋人……三次元にあまり興味がない姉である。あまりの忙しさに、三次元での恋愛をする時間もないのだろうが、もともと姉が現実の恋愛にさほど興味がなさそうだった。気がつけば、姉はゲームに熱中していたし、2番目の姉もミドリお姉ちゃんに影響されてゲームを始めた。
ミドリお姉ちゃんは学生時代に家庭教師で貯めたお金を、投資にまわし、小遣いを稼いで、ゲームやらグッズなどを買いあさっていた。今はイベントなどへ行く時間もなく、真剣に仕事を辞めるか考えているときがある。そんな姉、スマートフォンの画面には、『知恵の天使』と表示されている。確かに姉はエリートではあるが、それは本人いわく勉強が得意なだけであるとのこと。もともと頭がよかったら、ノーベル賞をとれるくらいの発明をいくつかして、特許を申請して、働かず好きなことをしていたいと言っていた。
ヒカリにとっては、ミドリお姉ちゃんは面白い人だなという印象である。自分はそこまで勉強は得意ではないし、頭も切れないので、姉の謙遜であるとも思っている。
「そういえば、ヒカリ。ゲームは受け取れた? 」
「うん、とりあえず。でもちょっと困ったことがあって……」
「そうなの?お金足りてなかった? 」
「そうじゃなくて。ゲームの攻略……、ちょっと難しくて」
ヒカリは今の状況を適切に説明するだけの能力が、自分にはないと感じ取っていた。さすがにゲームの中に入ってしまって、先輩を助けるために、お姫様として王子を攻略しています…………とは信じてもらえないだろう。さすがに高校生である。もし小学生だったらまだ許されるかもしれない。
「へえ、ゲーム? 」
姉はゲームと聞いて食いついてきた。姉の攻略魂に火がついたのだろう。これはいい、姉に助言をもらえるかもしれない。
「発売されていないゲームだから、攻略方法がわからないの。友達が作ったゲームのテスターを頼まれているのだけれど、攻略に手間取ってしまって」
「内容はどんな感じなの? 」
「設定は、よくありがちな童話風の王子さまとお姫様の話。ルート分岐して、攻略対象は決めたのだけれど、エンディングまでいきつく選択肢に迷っているんだよね」
「へえ、王子のキャラ設定は? 」
「黒髪で、陰がある感じで。兄がいるんだけれど、それがコンプレックスになっていて。それで政権争いに巻き込まれそうになって、国を出るか、出ないかを相談されたところまで」
「ああ、ありがちなストーリーだね」
「そう、でも乙女ゲームではありがちがいいのだけどね。ゲームシステムが把握できてないから、選択肢で失敗したらバッドエンドになるかも」
「選択肢で攻略するゲームね?いまのところバッドエンドは回避しているのでしょう? 」
「うん、選択肢はそんなに難しくはない」
「わたしの勘だから、根拠はそんなにないのだけれど。結論言って良い? 」
「どうぞ、どうぞ」
「たぶん、どっちの選択肢選んでも問題ないと思う」
「そうなの? 」
姉は特に考えた風でもなく、率直に結論を告げた。知恵の天使なのだから、知的にそして分析をしてすごい助言をしてくれるかもしれないと思ったが、まさかの勘である。もともと姉はおおざっぱなところがあるので、姉としての発言に違和感はなかった。
「勘といっても、ヒカリの話を聞いてそう思ったのよ。ヒカリが今までそれほど選択肢に困らなかったということは、ゲームの選択肢にそれほど癖がないと思った。つまり変な選択肢や、ルート分岐はしないゲームなのよ」
「そっか……ゲームの感覚がわたしに合っているってことだね」
「そうそう、制作者の感性にそれほど遠くはないということだね。だから奇抜なルート変更はないし、どっちかにしないと即バッドエンドというのはないと思う。ただ最上級のハッピーエンドかはわからないけど。ハッピーエンドがいくつかあって、特殊条件をクリアしたら、エピソード追加のおまけがあるタイプとみた。だからそのまま問題なく進んでいけば、普通のハッピーエンドにはなるんじゃない? 」
「ハッピーエンドにとりあえずいけばいいのだから、問題ない。ありがとうお姉ちゃん! 」
「はーい、ゲームができあがったら是非プレイさせてほしいわ。早く帰りたい。帰ったらビール片手にゲームやる! 」
「じゃあ、仕事がんばってね! 」
電話を切った。姉からはゲーム好きらしい助言をもらい、安心してこのまま選択肢を選んでいいとの判断になった。王子がどんな選択肢をとっても、問題ない。とりあえずハッピーエンドにいけばいいのだから。ヒカリはスマートフォンを耳から離した。そうするとそれは、またタヌキのペンダントに戻った。
「やっぱり、アイテムは役に立つヤン? 」
「これ、ただの電話だったのね!天使って、お姉ちゃんじゃない! 」
「ヤン!でも満足そうな顔しているヤン! 」
「役に立ったのは確かだから、まあいいわ」
ヒカリは次のイベントに備えて、またステータスの確認をした。特に変化はない。次のイベントを待つことにした。
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