第7話 クローバー編 女子高生、選択肢に悩む

「姫!城内が騒がしいようです……、どうやら弟王子さまが謀反を企てたと報告が……」


 朝からメイドのアナが報告をしてくれた。イベントが発生するのは分っていたが、弟王子の反逆。しかし、前回のデートイベントで聞いた話だと、彼は兄に謀反を起こすとは思えなかった。だとすれば、これは貴族の思惑。この件にたいして、兄王子の考えはわからない。ただこれは、弟ルートだ。だったら彼を助けることが優先と考えられる。


今するべき選択肢は何だろう。


 少し待てば、またイベントが発生して状況が変化するかもしれない。姫という立場、無闇に動くべきではないと考えている。ただ乙女ゲームの性質上、大体姫はこういうとき行動的になり攻略キャラを助けにいくのがセオリーである。判断に困る。


 「迷っているヤン? 」


 つけているペンダントから、気の抜ける声がした。そういえば、タヌキはこういうときのためにアイテムをくれたのだ。でも今が使うべきときか、もう少し状況を確認したい。ヒカリは画面上の設定を開いた。そして姫である自分のステータスを確認した。


 『姫。隣国の王女。2人の王子の花嫁候補として、城に滞在する。』


 それほど重要な情報はない。だが、ヒカリは考えた。自分がお姫さまなら、実家に頼ればいいのではないかと。それにまつわるイベントが起こっていない。画面を見回していると、隠れエピソードが設定の近くに出ているのがわかった。それを見ることにした。


 『隣国の姫は、昔から王子が現れるのを待っていた。それは小さい頃に結婚を約束した相手がいるからだ。しかし王子は迎えにこない。父に頼んで、幼き日遊びにいった城で出かけることになった。王子は2人、結婚を約束した王子の面影を思い出せない姫』


 今まで起こっていたイベントには、姫目線でのエピソードが追加されていたのだ。こんなシステムがあるのは知らなかった。そして次のエピソードを見ていく。


 『姫は幼い頃の初恋の君を知ることなく、黒髪の王子へ恋心を抱いていく。しかし黒髪王子の心は閉ざされていた。そして城に広がる、兄弟王子の確執。その不穏な状態へ姫は巻き込まれていく。だが、姫はそんなとき実家に頼り、弟王子を助けるべく手紙を書くべきか悩む』


 最後の文章ではっとしたヒカリ。実家に手紙を書けばいいということか。なんというネタバレ、いやいや……有り難い攻略情報。実家にどんな手紙を書けばいいかは、厳密にはわからないが、とりあえず弟王子を助けてほしいという手紙を書いた。そして送った。


 そうして数日経過することになった。


 実家から手紙がきた。しかし、特に進展はなかった。姫が望むなら帰ってきてもいいが、それはゲームから離脱するような出来事に近かった。つまり他国には干渉できないと。このまま自分の国へ帰国してもいいが、ゲームオーバーになりかねない。ヒカリは振り出しへ戻ることになった。こういう乙女ゲームというものは選択肢があるもの、ゲームの自由度はそれほど高くはない。つまり本筋から離れるものは、ゲームオーバーになることが多い。この国で完結することが、このゲームでは求められているのを感じた。


 ヒカリは手紙を抱えたまま、立ちすくんだ。ヒカリにとって悩むこと。それは王子に国へ残るか助言するか、僻地に一緒へ行くかということだ。どちらが正解の道筋なのであろう。


 「悩んでいるヤン? 」


 「うん、このままどうすればいいのか…………」


 「アイテムを使ってみるヤン! 」


 「やっぱり、ここが大事な選択肢よね……、どう使えばいい? 」


 「このペンダントを手に持って、天使の声を聞くヤン! 」

 

 「わかった! 」


 ヒカリはタヌキのペンダントを外し、手にとって祈ってみる。そして心の奥から天使の声に耳を傾けてみた。すると、ポンと手にしたペンダントの形状がかわった。スマートフォンになったのである。それも、タヌキのケースに入っている。ヒカリはスマートフォンを手にして、それを耳に添えてみた。すると電子音が流れる。


誰かに通話している。誰につながるのだろうか。確か始めの説明では、天使の助けをもらえるという。知恵の天使、勇気の天使、そして希望の天使。その3人の誰かにつながるのだろううか。 


すると電子音がぷつりと途切れ、通話が始まった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る