第4話

妖怪たちは人を食う。しかし、そのままの妖怪たちは現世に出現することができないし、長く留まることもできない。キョウヤの肉体を形作る妖怪の肉体は例外として、チサの肉体は何もしなければおよそひと月で完全に消滅する。並の妖怪が現世に滞在できる期間も同じと考えてよい。したがって、妖怪というものは基本的には局地災害の一種であると考えられる。

(焦っても仕方がない、自分たちの寿命を縮めるだけなんだ)

アクセルを踏み、いち早く帰って次の仕事に備えたい気持ちをぐっとこらえる。そう、妖怪たちは基本的には大きな害はない。妖怪の恐怖や外見を知る一般人からは受け入れられないが、天災の方が怖く、恐ろしい存在だということは、妖怪退治を仕事にする人間の中では有名な話だ。自分でも痛いほどにそれを理解しているからこそ、どうしてもキョウヤは不機嫌になる。前衛として積極的に妖怪退治に励んでいるチサも、気持ちは同じだろう。

彼ら妖怪は、現世にあるものを吸収すると、強力になり、現世に滞在する期間が延びる。特に、人間を食べたり人間の体を自分の体に移植したりした怪物は、十年以上現世に居座り続ける。そうなると、退治をするのがとても難しくなる。下手に手を出せば、敵に塩を送るだけでなく、こちらの戦力を削ぐ結果になる。だから、現世に来て間もない内であるとか、今日退治した妖怪のように現世に生まれてしまった直後だとかを狙うのが効率的だということになる。

ため息が出る。妖怪全てが悪いわけではない。チサとキョウヤの街を襲った妖怪も、元を正せば神社の本尊で祀られていた存在だ。時を経る内にじわじわと妖力を身につけていたところに、『何者か』が力を貸した。その犯人の手がかりも、全く見つかっていない。

歯軋りしそうになって、キョウヤは我に返った。隣でチサはすやすやと小さな寝息を立てている。起こしたら間違いなく怒る。厄介な同居人兼相棒だとキョウヤは苦笑しつつ、休憩するために方向転換する。考えていてもストレスが溜まるだけで、良いことは何も無い。こういう時こそ不味い缶コーヒーを飲んで、眼を覚ますに限る。どうせ、チサは家に着くまで眼を覚まさない。

現在時刻深夜三時。人影はほとんどない。自販機の前で、キョウヤは車を停めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る