夕陽と残像



一年で一番美しい橙色の夕陽が背中から当たっていることにさっき気がついた

正面の文房具屋さんの銀色の壁にも

点灯している色が惑わされている信号機にも

見事にその色を反射させて

僕の背面を僕に意識させている

きっと目線を上げれば輪郭がはっきりとした夕陽が

バックミラーを通して僕の目に飛び込んでくるはずだ

僕はきっと見入ってしまい

その輝きに我慢しきれなくなって正面に視線を戻した時には

目の真ん中に残像が白く残って

視線を変えるたびに 少し遅れて残像がその方向に付きまとうはずだ


いつもその役割を交代しながら今までやってきたんだろう

だけど 今は君が夕陽で

僕が残像


だから 僕はバックミラーを見ないし

振り返りもしない

ましてや 車を降りて外に出ることもしない


一年で一番美しい橙色の夕陽

それを背中だけに感じて僕は車を走らせる


一番美しい橙色なのに

温度をちっとも感じさせない美しさを背中だけに感じながら

僕は車を走らせる




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る