初秋夜



BGMも街の喧騒も無い中で

誰かが誰かを殴っていた

もちろん拳の効果音も無く

ただ

アスファルトを擦るサンダルの音だけしている

映画やドラマと違って

実際は

案外 静かなところで

静かに行なわれるものだ


誰かは誰かを

その憎しみを一発一発に込めて

確実に 殴り倒していた


点滅して消えかかっている街灯が時々

お互いの姿を照らすも

どうなっているかなんてわかりはしない

相変わらず

リズムの無いサンダルの擦れる音しか聞こえない


近くを歩いていた猫は

その歩みを止め

目を時折細くしながら

その一部始終を黙って見守っているし

自動販売機に体が当たって大きな音をさせても

犬は吼えることなく

耳を立たせて薄目を開けるだけだ



どうやら終わったようだが

その間中

虫の鳴き声だけは止まなかった

ことに 

少しあとになって 気がついた


明日は 

やっぱり 予報通りに暑さが戻るのだろうか




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る