♪ コン ココン ~This confession is does not matter~



僕は 2、3日前か

もしくは

2、3時間前に「会ってほしい」と連絡する

君は 少し躊躇したあとに

短く「いいよ」って返してくる


僕は 道すがらのコンビニやドラッグストアで

食べたことも見たこともないチョコレートをひとつと

嫌われないように ミント味のキャンディーを買って

たまらず 最後の交差点までは煙草を吸うけど

慌ててキャンディーを5粒くらい口の中に放り込む


そして

駐車場には ゆっくり入って

ミント味が口の中に馴染んだ頃に

エンジンを停止して

チョコレートの入ったビニール袋を忘れないようにして

車のドアを閉めて

この辺りの空の様子を確認しながら歩くけど


あっという間に着く君の部屋のドアを

♪コン ココン

と いつものリズムでノックする

今 初めて言うけど

♪コン ココン のリズムはね

映画『真夜中のカウボーイ』で ダスティ・ホフマン扮するラッツオが

ノックするときのリズムなんだよ


僕がドアを開けて入ると

君は出てきたり 出てこなかったりだけど

最終的には

僕は 君の鼻だけで呼吸する音を聞きながら髪の毛の匂いを黙って吸い

君は 煙草の味に上塗りされたミント味を少しなじる

でもね

これは しょうがないこと だったんだ

君に会う高ぶる気持ちを抑えるため

もしくは

うれしくて うれしくてしょうがない気持ちを

吐き出すためでもあったんだ


身支度を整えて

君は 明日回収されるゴミ袋を一つ持って

僕は 小銭とろくに使わないカードでデブになった財布を一つ持って

出かける

そこでは どうでもいい話をしながら歩くけど

実は この時間がとても楽しくて好きだった

無いようで たっぷりあるような時間の錯覚を味わえるから


いつもの適当な店に入ったら

いつもの適当なものを頼んで

いつものものだから

特に「美味しい」とか言うことなく

それらをつつきながら

ビールだけはがぶがぶ飲んで

溜まっていた話をするんだけど

この話が一番の酒の肴だっていつも思ってた


雨が降っていても

風が吹いていても

月明かりがあっても

車が時折通っても

横道から自転車が出てきても

帰り道は ほんとうに 二人きりだった

いつも そう思った

影がひとつになったり ふたつになったり…

この時間も 影が二つのままの往きと同じくらい好きだった


飲みなおしの酒は いつも赤ワイン

銘柄や価格は問わない

君が選んだものはいつも大体美味しかったから

「美味しい」と言えばいいし

僕が選んだものはいつもイマイチだったから

「う~ん…」と言えばよかった

実は

チーズはあっても なくてもよかった

一番の肴は 

今度は なぜか なじられないキスだから


テレビもステレオの音もない部屋で

キャンドルの灯りだけがゆらゆら揺れていたり

野の花が控えめに主張していたり

君が 時折 くっついてきたりするだけなのに

こんな 至福の時間を過ごしたことはかつてなかったし

そして

これからもない だろう



This confession is does not matter.




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