白い海
風の吹き出し口に向かって車を走らせた。
とっくの昔に葉を落としてこげ茶色に変色した名もない枯れ草が強い風にあおられて腰を大きく曲げている。
時折、大粒の雨ともあられともいえない大きな粒がバタバタと音を立ててフロントガラスを叩く。
空は、濃い灰色 薄い灰色 薄い青空が入り混じっていて、刻々とその形を変えている。
その空の真下の海を想像しながら、強い風で揺れる車体を小さいハンドルで制御する。
道はどんどん細くなり、風の吹き出し口に向かっているのに、逆に吸い込まれていくような錯覚を覚える。
短いトンネルをくぐり終わると、途端に、予告無しの海が目の前に現れる。
この季節に何度も来ているのに、海の形はそれまでの僕の描いた絵ををいつも覆す。
ゆっくりと幾重にも押し寄せる高波。
波の先端から上空に弾き飛ばされる波しぶき。
そして、壁をもろともせず越えていく砂。
海は白い。
真っ白だ。
誰もいない駐車場に車を停め、勇気を出して車外に出る。
いつもより重いドアを開ける瞬間、世界が変わる。
気圧が一気に半分に下がる感覚。
強い風が鼓膜を麻痺させ、音が聞こえなくなる。
冷気と砂が顔のすべての痛点を教えてくれる。
口と目を思い切り開いて白い海の前に立つ。
この世のすべての悪魔も逃げ出すその現場に二本の足で踏ん張って立つ。
俺を見ろ。
俺はここにいる。
俺はここにいるぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます