第17話 屋敷の大掃除 Ⅲ
「ここで俺はもちろんだがソフィーとリーネの二人にもレベル上げを頑張ってもらおうと思う」
俺達は町の中にある店で食事をすませてから城壁外の森の中まで来ていた。
俺は今自分のレベルを上げるついでにソフィーとリーネの二人にもレベルを上げてもらおうと思っている。
今現在二人のレベルは正直かなり低い。もし二人に何かあったときに俺がいつもそばにいるとは限らない。
そのときレベルが低いままだとどうすることも出来ないことが多いだろう。なので二人には強くなってもらいたい。
それで強くなるにはレベルを上げるのが一番手っ取り早いというわけだ。
「そうね。いつまでもカズヤの足を引っ張ってられないわ」
「私も……強くなりたい」
「よし、じゃあさっそく狩りに行くぞ! 今回は時間がないからゴブリンよりも強いやつがいる森の奥に行くけど大丈夫か?」
「望むところよ!」
「やるだけやってみるわ」
「もしものときは任せてくれ」
ソフィーとリーネをパーティーに設定してと……。
あ、そうそう実はステータス画面からパーティーというものを設定出来る。パーティーに設定すると経験値が均等にパーティーメンバーに割り振られるというゲームでありがちな仕様だ。
と言ってもパーティーが設定出来ること自体さっき初めて知ったばかりなので実際どうなるかは分からない。まだ説明を見ただけなのだ。
とにかくパーティーに設定することで俺が戦えば自動的に二人とも強くなる。
俺のレベルを上げながら二人のレベルも上げる、まさに一石二鳥な作戦だろう。
ちなみにこのパーティーという機能については二人には伝えてある。今後もパーティーを組むだろうからな。それはそうとそろそろ森の奥に向かうか。
俺を先頭にして俺達は森の奥へと進んだ。
森の奥へと進んでから数十分たったあたりで周りからバキバキと木をへし折る音が聞こえる。
「何だ? この音?」
「ねぇ、ちょっとカズヤ!」
ソフィーが俺の脇腹をつついてくる。
「何だ? ソフィー今はふざけてる場合じゃないだろ?」
「カズヤ! カズヤ!」
今度はリーネも脇腹をつついてくる。一体何がしたいんだ?
「リーネもやめてくれ今変な音が聞こえたから警戒してるんだよ」
それでも二人はいっこうに脇腹をつつくのをやめようとしない。一体何なんだと二人に言おうとして後ろを振り返るが二人は俺ではなくある別の場所に視線を集中させていた。
二人の視線の先を見てみると俺達三人の数倍はあるであろう緑色のドラゴンが周りの木をへし折りながら歩いていた。
俺達とそのドラゴンの間はおよそ数百メートルしか離れていない。
──これってまずくないか?
ドラゴンと言えば元の世界で伝説上の生き物とされていて、ゲームやファンタジー小説などで登場するときは特段強い部類に含まれる生物だ。だとしたらこちらの世界でもかなり強い部類の生き物なのではないか?
でもこの世界ではドラゴンがいるのが比較的普通の光景という可能性もあるな。実際のところどうなのだろう。
「なぁソフィーこれはよくあることなのか?」
「カズヤ、何言ってるのよ! そんなわけないじゃない。見つかったら終わりよ!」
デスヨネ。ドラゴンが日常でよく出てくる方がおかしい。
でもなぜだ?なぜ森の奥と言ってもこんな比較的森の浅いところにいるんだ?気分転換か?それとも餌を求めてか?後者だったら遠慮したい。
今はドラゴンの目的よりもこの状況をどう乗りきるかを考えねば。とりあえず二人に聞いてみよう。
「ドラゴンと遭遇したら何するのが正解何だ?」
「正解も何もとにかく見つからないことよ」
「見つかったら諦めるしかない」
なるほどそう言われている程強いというわけか。
なら下手に動くよりは見つからないようにじっとしていた方がいいのかもしれない。
「あのドラゴンがどっかに行くまでしばらく隠れていよう」
「それがいいと思うわ」
「賢明な判断だと思う」
二人もこの案には賛成みたいだ。
俺達は一旦森の奥に進むのをやめて木の影に隠れることにした。それから俺は木の影から少し顔を出してドラゴンのステータスを覗き見る。
少しでもドラゴンの情報があった方がもしものときに役立つだろうと思ってのことだ。もしブレス系の攻撃が使えるならスキル欄にそれが表示されているだろう。
これでどのような攻撃手段があるか知ることが出来るはずだ。
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名前: グリーン・ドラゴン
種族: 下級竜
Lv.56
HP : 4670/4670
MP : 1200/1200
ATK : 730
DEF : 530
MATK: 670
MDEF: 500
DEX : 140
スキル:『火炎球』、『ドラゴンクロー』
称号 : 『森の覇者』
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ドラゴンだけあってなかなかステータスが高い。今の俺では全く敵わないだろう。俺は成長速度が早いだけの普通の一般市民だ。そんな一般市民とドラゴンが戦ったら敵うだろうか。普通はそんなことをすればすぐに殺されてしまう。
……いやそういえば違うか、そもそも俺の種族は人ではなかった。最近他の人からも普通に視認されているからすっかり忘れていたが俺は幽霊だ。幽霊なら戦いかたはいくらでもあるのではないか?例えステータスで圧倒的に劣っていたとしてもだ。
そう考えればドラゴンもただの経験値にしか見えない。丁度良いこのドラゴンで一気にレベルを上げるとしよう。だがその前に二人を安全なところに移動させないとな。
「二人とも作戦変更だ」
「急にどうしたの?」
「ちょっと戦って来ようと思う」
「何と?」
「何とってアイツとだが」
俺はドラゴンのいる方向を指で指す。
「貴方バカなんじゃないの? 死ぬわよ?」
ソフィーもしや俺が幽霊だってことを忘れているな。
「忘れているかもしれないが俺はすでに死んでいてだな」
「ああ、そうだったわね。それはともかく私達のことはどうするのよ」
「ソフィーとリーネの二人には離れていてもらうつもりだ」
「私としてはそれでドラゴン以外の敵に遭遇することが怖いのだけど……まぁ上手くやるわ。私逃げることだけには自身があるの」
なるほど確かに他の敵と遭遇する危険性もあるな。
でも多分わざわざドラゴンの近くにいる敵はいないと思う。
なぜなら敵自分がドラゴンの餌食になる危険性があるからだ。自分からその危険に飛び込むやつなんて自然界にはいないだろう。一応二人が敵に遭遇する可能性も考えて早めに終わらせよう。
「敵に遭遇しないとは思うがもし遭遇したときにはソフィーとリーネ二人で何とか乗りきってくれ。俺も出来るだけ早く終わらせるよ」
「こっちは任せて行きなさい!」
「カズヤ、頑張って。私達の経験値のために」
全くこんな状況にもかかわらず、一切動揺していないとは二人とも肝が据わっている。
──俺も二人には負けてられないな。
「おう!期待して待っとけ。じゃあ後でな」
その言葉を合図に俺は『実体化』を解除し、ソフィーとリーネの二人はドラゴンがいる方とは逆の方向に走り出す。
ソフィーとリーネの姿が見えなくなったあたりで俺はドラゴンのいる方向へと飛び出した。
俺は木と木の間を素早く駆け抜け、着実にドラゴンとの距離をつめる。
ドラゴンはもちろん俺が近づいていることには気づかない。
それもそうだ、俺は今『実体化』を解除している。それで気づく方がおかし……。
俺との距離が数十メートルになったところでドラゴンがいきなり火の玉を俺に向かって吐いた。
『うおっ!』
咄嗟に屈んで火の玉を避ける。
危ない。当たっていたらどうなっていたことやら。それよりも俺が見えるのか?いやそんなことはないはず。じゃあなぜだ……ってそんなことを考えている暇はないか。
ドラゴンがまた俺に向かって火の玉を吐こうとしている。一先ず木の影に隠れよう。
俺は素早く立ち上がり木の影に走り込む。その直後ドガンとドラゴンが吐いた火の玉が俺の元いた場所にあるものを木っ端微塵にした。
どうやら連続で火の玉を吐くことも出来るらしい。正直HPが0の状態であんな攻撃を受けたくない。これでは迂闊に近づくことも出来ない。
ドラゴンに近づけないのでせめてドラゴンのHPやMPの減り具合を見ようとドラゴンのステータスのうちHPとMPを常に表示されるように念じる。すると俺の視界の左上に二本のバーが表れた。
意外とやってみれば出来るものだな。
とにかくこれでドラゴンのHPとMPのー減り具合は常に見ることが可能になったというわけだ。今合計で火の玉を四回吐いたわけだが、どのくらいMPが減っているのだろう。
ドラゴンのステータスのうちMPのバー部分を見る。
MP : 1100/1200
四回で100ということは一回25のMPを消費するのか。ということは残り四十四回も火の玉が吐ける。俺が安全に戦うためには相手のMPを全て消費させるしかない。仕方ない、相手のMPが無くなるまでは避けることに専念するか。
そう考えて木の影から再びドラゴンの前に出る。それを見てかドラゴンは再び火の玉を俺に向かって吐く。
──よっと。
吐かれた火の玉を余裕をもって大きく避ける。そして体勢を立て直し再び次の攻撃に備えた。
ソフィー、リーネの二人には悪いがちょっと長引きそうだ。
俺は心の中で一度二人に謝ってからその後のドラゴンの攻撃を確実に避けていった。
◆◆◆◆◆◆
火の玉を避け続けてどれくらいたっただろうか。気づくとドラゴンのMPが残り100にまで減っていた。
──かなりMPを減らすことが出来たようだな。
だがコイツ、後火の玉が四回というところで急に火の玉を吐いてこなくなり、スキルの『ドラゴンクロー』や尻尾での攻撃が主になった。流石に警戒されたか。まぁこうなれば何とか近づいて攻撃をすることができる。ここからは俺のターンってわけか。
「ギャオース!」
ドラゴンが尻尾で攻撃してくる。だが『物理攻撃無効』をもつ俺はそのままドラゴンに近づきその真上に『メテオ(笑)』を放った。実体化された岩は重力に引かれてドラゴンの頭の上に落ちる。
「クギャー!」
流石にドラゴン程の大きな体を押し潰すことは出来なさそうだが、ダメージは与えられたみたいだ。
HP : 4660/4670
──それでも10ダメージしか与えられないか。コイツどれだけ固いんだよ。とにかくダメージを与えられるんだったらいつかは倒せるはずだ。
俺はその後もめげずに岩を落とし続ける。何度も、相手が怯んでいる隙をついて。
しばらく岩を落とし続けてドラゴンの残り体力が100をきり俺が勝利を確信したとき。
ドラゴンはボロボロの状態で一瞬だけ俺を睨み付けると残りのMPを全てこめた巨大な火の玉を俺に向けて吐き出した。
──ちょっと待っ……。
俺は咄嗟のことに反応できずそのままその巨大な火の玉に飲み込まれてしまう。
今までの火の玉とは比べ物にならない爆発音が辺りに響いた。
「ゲホッゲホッ……」
舞い上がった土煙が辺りに充満する。
「あー死ぬかと思った」
火の玉に飲み込まれた俺はなぜか無傷だった。飲み込まれている間は熱さも痛みも感じなかった。これなら始めから火の玉を気にしなくて良かったのかもしれない。俺のスキル『物理攻撃無効』はどうやら実体があるものは例え魔法だとしても全て受け付けないみたいだ。
じゃあMDEFって何のために存在するんだ?精神攻撃のためとか?まぁいい、今はコイツにとどめをさすことの方が先だ。
そう思考を巡らせている間に舞い上がった土煙が晴れて徐々に視界がひらける。ひらけた視界の先にはドラゴンがぐったりとした体勢で地面に突っ伏していた。
ドラゴンは俺の姿を見ると一瞬だけ目を見開いたがすぐに目を閉じる。
──悪いな。俺も生きていくのに必死なんだわ。
ドラゴンのHPを見てみると残りが8になっていた。
多分あの巨大な火の玉を吐いたときに自分もダメージを受けたのだろう。最後くらいは楽に逝かせてやろう。
「じゃあな」
俺はドラゴンにとどめの『メテオ(笑)』を放った。
『レベルが限界に達しました。限界突破しますか?』
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