第16話 屋敷の大掃除 Ⅱ


「多分ここを曲がれば屋敷につく……気がする」


「カズヤ、あなた本当に大丈夫なの?」


「大丈夫だ。俺を信じてくれ」


「信じてくれと言われても明らかに遠ざかっているわよ」


 ソフィーがさらっと衝撃の事実を口にする。


「何? どこら辺が遠ざかってるんだ?」


 俺の計算上こっちに行けば屋敷に辿り着くはずなんだが。


「うん、私も言おうか迷ったんだけどあまりに自身満々に信じてくれって言うから言い出せなくて……」


 リーネまでソフィーと同じことを思っていたのか。

 ただ遠ざかってるって言われても真逆の方向に進まなければ近づいてはいるはず。大丈夫行ける!


「あのね、カズヤ。始めから多分逆の方向に進んでると思うんだけど」


「え? 何だって?」


 そんなことはあり得ない。歩き始めたときは確か中央に進むようにスタートしたはず。現に今も後ろを見れば遠くに城壁が見える。


「あなたね、確かに後ろの城壁からは離れているけど目の前を見てみなさい」


 ソフィーにそう言われて目の前を見るが特に変わった様子はない。建物が建ち並んでいるだけである。


「違うわよ! もっと上を見なさい!」


 そこからさらに上を見上げてみると俺の視界いっぱいには城壁が広がっていた。


「なぜ城壁が目の前に?」


「なぜって城壁から離れても反対側の城壁についちゃ意味ないでしょ」


 確かに俺は城壁から離れるように進んできたが、どうやら中央を通りすぎて反対側の城壁に向かっていたみたいだ。


「もう、自身満々に大丈夫だって言うから任せたけど全くダメね。もう私に任せて」


「はい、すみません」


 それからはソフィー指揮のもと屋敷に向かった。ソフィーが先頭になってからは一度も迷うことなく屋敷につくことが出来た。


 ──うん、今度からどこかに向かうときはソフィーに任せよう。


 俺はそう決意をして屋敷の門をくぐる。門をくぐると目の前には所々が蔦に覆われたボロボロの屋敷が見えた。


「何だこの重い空気」


 屋敷の敷地内には淀んだ空気が充満していた。


「何だか気分が悪くなりそうだわ」


 リーネは大丈夫なようだがソフィーの方はこの空気に当てられてダウン寸前だ。


「おい、大丈夫か……ってどうみても大丈夫じゃないか」


 そんなやり取りをしていると後ろから馬車が止まる音が聞こえる。その音に俺達は後ろを振り返った。

 俺達が止まった馬車に注目していると中からアドルフが降りてきた。


「ちゃんと時間通りに来たみたいだね」


 この依頼は今日の昼頃から開始する手筈となっているので俺達はエリーから依頼の詳細の説明を受けた後急いで屋敷に向かった。途中遠回りしてしまった分、予定した時間に少し遅れてしまったがギリギリ間に合ったようだ。


「それでなんだがね。この屋敷を急遽、明々後日に使うことになってね。君達にはそれまでにここを綺麗にして欲しいのだよ」


 ──何言ってるんだ? 依頼にはいつまでという期間の指定は無かったはず……まさかっ!


 アドルフの視線の先を見てみるとそこにはソフィーとソフィーを介抱しているリーネの姿があった。

 なるほど、やはりソフィーの何でも言うこと聞く発言は無かったことにはならなかったようだ。

 それに多分この男ならば口約束でも実行出来るほどの権力を持っている。明々後日までという期間の指定は失敗させるための策なのだろう。

 この条件、普通に掃除をしたのではこの広い屋敷を全て掃除することは出来ない。


「さて、どうしたものか……」


「おや、明後日までには出来ないのかね。出来ないのなら出来ないで早めに依頼をやめても良いのだよ。だがその場合は分かっているね?」


 どうやら俺の呟きはアドルフ本人に聞こえていたようだ。

 自分で失敗させるように追い込んでいるのによく言うな。

 だが少なくとも俺はやめる気なんて微塵もない。あの二人はもう仲間のようなものだ。そんな仲間を見捨てるなんて俺には出来ない。


「アドルフさん、少なくとも俺は依頼を途中でやめたりしないから安心してくれ」


 そうは言ってみたもののこれからどうするか、何か良いスキルとかがあれば良いのだが…………そういえばさっき屋敷に向かっている途中で掃除に使えそうなスキルを見たな。

 確かそのスキルは『掃除魔法』、まさに掃除に使えそうなスキルだ。

 そのとき使えそうなので取得しておこうと思ったのだがSPが足りなかった。

 このスキル取得するのに500SPも使うのだ。

 消費ポイントが500SPということは今50SPを持っている俺がこのスキルを取得するにはレベルを45上げなければならない。

 取得することすら大変だ。

 それに取得したところで本当に使えるのか分からない。このスキルを取得するのは一種の賭け事だろう。だが500SPも使うのだから強いんじゃないかという思いも少しはある。

 このスキルを取得するのはかなり怖いがそれ以外にこの状況を解決する方法は俺には思いつかない。今のところはこのスキルを頼りにするしかないか。


「ふん、せいぜい強がっているがいい」


 アドルフは本日二回目の捨て台詞を吐き、馬車に戻っていった。


「あの人は何をしに来たんだ?」


 プレッシャーをかけにきたのか?

 これについては考えても分からない。とりあえずやるべきことをやろう。


「二人とも、ちょっといいか?」


「……?」


「何よ?」


「これからちょっと外に出てモンスターを狩りに行こうと思う」


「カズヤ! 貴方一体何を考えてるのよ。あの男の話聞いてたの? 明々後日までにこの屋敷全てを掃除しなきゃいけないのよ!」


 気分が悪いにもかかわらず、ソフィーは早口で捲し立てる。それだけ必死なのだろう。

 一方リーネも表情から困惑しているのが見てとれる。


「安心してくれ、何も諦めているから外でモンスターでも狩っていようってことじゃない」


「だったら何でモンスターなんて狩る必要があるのよ」


「それはな掃除に特化したスキルをとるためだよ」


「スキルをとる? スキルを取得するんだったらなおさら掃除しないといけないでしょ?」


 どうやらこの世界ではSPという考え方はないらしい。

 スキルはスキルに関わることを何度も繰り返して行うことでやっと取得出来るものだそうだ。だがこの前ソフィーとリーネのステータスを見たときにはSPがちゃんと存在していた。

 ということはこの世界の人もSPを使ってスキルを取得することが可能だということだ。

 まぁそれは今度試すとして今はこのSPのことを説明することが先だろう。


「実はなスキルを取得する方法はそれ以外にもあるんだよ……」


 それから俺はソフィーとリーネの二人にSPのことスキルのことそれとSPとスキルの関係性について説明した。

 説明した感じ分かってくれたようなので一先ずは良かったと思う。


「なるほどね。それは知らなかったわ」


「うん、そういうことなんだよ。リーネも大丈夫か?」


「まぁ大体は」


 これで二人が狩りに行くことに反対することはないだろう。

 今日と明日でそのスキルを取得しないと屋敷の掃除は時間的に間に合わない。今は一秒でも時間が惜しい。


「二人とも分かってくれたようだし早く狩りに行こう!」


 俺が城壁の方に二人を連れて歩きだそうとしたときソフィーから声がかかる。


「ちょっと待って!」


「ん? まだ何かあるのか?」


「明々後日までに本当にそのスキルが取得出来る程のSPを稼げるの? そう簡単にはレベルなんて上がらないわよ」


「それなんだが多分大丈夫だと思うぞ」


「何でそう言えるのよ」


「この前知ったんだが俺は普通の人よりレベルが上がりやすいみたいなんだ」


「へぇなら大丈夫そうね」


 ソフィーは何だか知らないが納得してくれたみたいだ。


「よし、今度こそ狩りに行こう!」


 俺は再び城壁に向かおうとするが今度はリーネから声がかかる。


「あの……」


「ん? まだ何かあるのか?」


「お腹がすいた」


 確かに今は丁度昼頃だ。お腹がすくのも仕方のないことだろう。


「そうだな、今は丁度昼だし食事をすませてから狩りに行くか」


 という訳でまずは食事ができるお店に向かうことにした。

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