第10話 冒険者ギルド
俺達は地上に出てから路地裏を抜け元いた城下町の広場にやって来ていた。
一週間ぶりの外の空気はやはり美味しい。それにサンサンと照りつける太陽、周りの人達の活気。どれも一週間ぶりで懐かしく思うと同時に嬉しくも思う。
だが一つだけそうは思えないことがあった。
「リーネ! 人が一杯だよ」
「ソフィー! あんまりはしゃがないで恥ずかしいから」
それは周りからの厳しい視線である。
周りからの俺はいたいけな少女二人を連れ回して悦に入ている鬼畜野郎に写っていることだろう。
それもこれも二人が首輪をしているためだ。
「なぁ二人ともそろそろ首輪外さないか?」
「いや何か長い間つけているせいかこっちの方がしっくり来るのよね」
「ソフィーの言ってることは分からなくないわ」
どうやら首輪をこれからもつけていくスタンスらしい。
ちなみにだが二人は今後俺についていく方針だそうだ。
身寄りがない私達二人を見捨てて行くの? なんて言われたら断るものも断れないだろう。
こうして新たにパーティーメンバーが出来たわけだ。
それは良いとして、今俺達のパーティーは最大の問題を抱えている。
「あのお二人さん、お金とか持ってたりする?」
「そんなの持っているわけ無いじゃない! 私達ずっと捕まっていたのよ?」
ですよね。分かってました。
そう今俺達が抱えている最大の問題とは金欠である。お金が無いのだ。
それもただ少ないと言うわけではない全くもって無いのだ。
お金が無いんじゃ宿にも泊まれないし食事をすることも出来ない。
「なぁソフィー、手っ取り早くお金稼げる方法って何かないか?」
「そうね。作物を作るにも時間がかかるし、商売も元の資金が足りないから出来ないし……後は冒険者くらいかしら?」
何だって? 冒険者? 何だその心踊る響きは。
やっぱり異世界に行ったらやってみたいことランキング上位に入るだけあってワクワクが止まらない。
これはもう行くしかないだろう。
「よし、じゃあ冒険者になりに行こう!」
だがその前に一つだけ確認しなければならないことがある。
「なあ、ソフィーよ。冒険者ってどこでなるんだ?」
「あなた知らないであんなこと言ってたの?」
ソフィーは若干呆れているがそれは仕方のないことなのだ。
冒険者と聞いたら内から溢れる気持ちを抑えられないのが男と言うもの。そこの部分をどうか分かって欲しい。
「それでどうすればいいんだ?」
「そうね。冒険者は一般的には冒険者ギルドっていう組合でなることが出来るわ。だからまず冒険者ギルドに行けばいいんじゃないかしら」
「なるほど、とりあえず冒険者ギルドに行けってことだな」
「そうね。冒険者ギルドは盾の前で二本の剣が交差しているマークが目印よ」
「何から何までありがとう。それじゃ行くか!」
そうして俺達は冒険者ギルドを探しに向かった。
◆◆◆◆◆◆
冒険者ギルドを探し続けてはや一時間。
目的の場所は一向に見つかる気配がしない。
「これ本当にあるのか冒険者ギルド」
「あるはずよ! たぶん」
ソフィーも冒険者ギルドがあるかどうかを疑い始めていたそのとき。
「あれがそうじゃない?」
リーネが急に後ろを指差しそう言った。
俺とソフィーが振り向くとリーネが指差した先には盾の前で二つの剣が交差しているマークの看板がぶら下がっていた。
「「あ、あれだ!」」
喉がカラカラの状態の人が砂漠で水を見つけたときのような感動が今ここに存在していた。
「さっそく行こう! そうしよう」
「ちょ、歩くの速いわよ」
「もはや走ってるよ。歩きの速度じゃないよ、二人とも」
ようやく冒険者ギルドを見つけた俺達はギルドのウエスタンスタイルの両開きドアを開け中に入る。
中に入ると俺達の正面には事務作業に追われる作業員が働く受付、左手にはまだ昼だというのにベロンベロンに酔っ払っている人がそこそこいる酒場が見えた。
「いらっしゃいませ!」
元気良く挨拶して来たのは元気だけが取り柄ですと言わんばかりの快活そうな受付にいる受付嬢と同じ格好をした女性だった。
「あの、冒険者になりに来たんだけど」
「ちょっと待ってて下さいね。ちゃっちゃと運んじゃいますから」
そう言って彼女は酒場にお酒を運びに行った。
元気だなとしばらくその光景を眺め運び終わるのを待つ。
「お待たせしました。ささ、こちらへどうぞ!」
彼女はやはり受付嬢だったみたいで急いで受付の裏へと回った。
「本日はどのようなご用件で?」
「えっと俺達は冒険者になりに来たんだよ」
「俺達?」
彼女の位置からではソフィーとリーネは見えないらしく彼女は首をかしげる。
「ああ、この二人も頼む」
そう言って俺は二人を俺の前に押し出す。
「申し訳ございません。冒険者ギルドでは奴隷は登録できないことになっていまして」
「いやこの二人こんな格好しているけど奴隷じゃないからな」
「はい?」
「ソフィー、リーネ首輪そろそろ首輪を外してくれ。あ、リーネのは俺が嵌めたんだったな」
ソフィーには首輪を自分で外してもらい、俺はリーネの首輪を外す。
「あのこれはどういうことでしょうか?」
「ん? 見た通りのことなんだけど」
俺の言葉を聞いた彼女はハッと何かに気づいた様子で俺に耳打ちをする。
「ハッ……事情は分かりました。人の趣味を悪く言うつもりはありませんがこういうのは外では控えた方がよろしいかと思います」
「いや、そういうことじゃないよ」
どうやら盛大に勘違いをしたようだ。そう勘違いするのも分からなくはないが分かって欲しい。
このままだとただの鬼畜野郎から変態趣味の鬼畜野郎にジョブチェンジしてしまう。
「いろいろ失礼しました。このことは他の皆さんには内密にしておきますので安心してください」
この状況で何を言っても話をさらに悪化させてしまうだけだ。なので話を進めることにした。
「それよりも俺達三人冒険者になれるのか?」
「はい! もちろんですとも。手続きしていただければなることは出来ますよ」
「なら冒険者になるための手続きとやらをお願いしたいんだけど。」
「かしこまりました! 少々お待ち下さい」
その言葉を残して彼女は受付の奥に引っ込んだ。
「あの娘大丈夫かな。話しているときチラチラ、ソフィーとリーネを交互に見てたけど話したりしないよね」
「大丈夫じゃない? 話したりするような娘には見えなかったし」
「でも奥に引っ込むときものすごく笑顔だったぞ」
「それは……大丈夫よ……たぶん」
「え? 今明らかに自信なかったよね?」
「大丈夫、ソフィーはいつもこんな感じ、自信無さそうに見えてもしっかりしてるから……たぶん」
「ってリーネも自信無いのかよ」
俺達がそんなやり取りをしていると受付嬢が戻って来る。
「皆さんお待たせしました! あれ? 何だか皆さん楽しそうですね。何かありましたか?」
「いや、ちょっとね」
「そうですか。私には話せないことをしていたと」
「いやそういうことじゃないから!」
今日俺は一体何回ソフィーとリーネのことで否定しなければいけないんだろうか。
内心疲れながらも受付嬢に手続きの続きをお願いする。
「そうですね。手続きですよね。忘れてました」
いや本業何だから忘れるなよと言いたかったが今はツッコむ気になれない程に疲れていた。
「まずこちらの書類にお名前と希望する職業を書いて下さい」
俺達は受付嬢に指示された通り名前と希望の職業を書類に記入していく。
「記入し終わりましたか? そうしたら次にこの台座に一人ずつ手を置いて下さい」
次に石で出来た台座にリーネ、ソフィー、俺の順で手を置いていく。
「はい、これで手続き完了です。ギルドについての説明は聞いていかれますか?」
「結構早いな」
「そうですかね? どこもこんなものだと思いますけど」
この世界ではこれが普通なのかと納得する。
「あとギルドの説明だけどお願いしても良いかな」
「もちろんですとも。まずは大前提からですね。それは何があっても自己責任ということです」
「それは例えば俺達がどこかで死んだとしても一切責任はとらないということか?」
「はい、他にも細かいルールはありますがそれは冒険者の皆さんには関係がないのでその通りです」
なるほどこれは命を落としやすい冒険者だからこその考え方だろう。
「そして次に冒険者の制度についての話ですが、冒険者は初めはみんなFランクからスタートしてそこからE、D、C、B、A そして最後にSとランクが上がっていきます。ランクは受けることが出来る依頼にも関わっているので高ランクになればなる程難しい報酬金が高い依頼を受けることが出来ます」
「その言い方だとランクによって制限があるように聞こえるんだがどうなんだ?」
「はい、そうですね。依頼には推奨ランクと言うものが設定されていましてその推奨ランクの一つ上か一つ下のランクの場合のみしか依頼を受けることが出来ません」
「なるほど低いランクの人が高いランクの依頼を受けても成功する可能性は低いからな」
「分かって頂けて何よりです。ギルドとしても若い芽をわざわざ摘み取るようなことはしたくないですからね。以上で私からの説明は終わりますが何か質問などはありますか?」
「いや今のところはないよ。もし分からないことがあったら聞くかもしれないからそのときはよろしく」
「はい、いつでもお待ちしております。申し遅れましたが私はエリーです」
「俺はカズヤでこの二人が左から順にリーネ、ソフィーだ。これからもよろしく」
「はいよろしくお願い致します。カズヤ様、リーネ様、ソフィー様」
エリーのお辞儀に合わせて俺、リーネ、ソフィーは軽く会釈した。
こうして俺達はついに冒険者というものになった。
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