第8話 準備
リーネの首輪を解除したあと自分の牢屋へと戻ってきていた。
──それにしてもこの数日間でだいぶ馴染んだな……。
そう思うのも無理もない話だ。
この世界に来てから俺は一日も経たないうちにさらわれてしまった。なので今現在この世界では牢屋で過ごした時間の方が多いのだ。
馴染んだように感じる原因として俺の住んでいる?牢屋が自分色にカスタマイズされているのもあるだろう。
まずはこの藁の束を見て欲しい。牢屋に入った当初は束が出来ないほどに少なかったが見張りと交渉に交渉を重ねついに勝ち取ったこの立派な……。
それはさておき今日含めて残り四日をどうするかだな。
もうほとんどやることがない。
やることと言ったらリーネの幼なじみを捜索することくらいだろう。なのでまずはリーネが言っていた幼なじみの捜索をしようと思う。
気持ち的には出来れば救出したいがそれはオークション開催当日まで待った方がいいだろう。
逃がしても首輪は俺が嵌め直すから首が絞まるなんてことは無いが下手に一人を逃がすと警戒が厳しくなる可能性がある。
「よしやることは決まった。だが今日は疲れた」
その日は休むことにして明日から頑張ることにした。
幽霊にだって休みたいときはある。
そして次の日、十分休んだ俺は牢屋内で準備体操をしていた。
ちなみに時間はステータスで確認できる。今まで太陽が届かない地下で時間を把握していたのはこのためだ。
「さてと、探しにいきますか」
実は一つだけリーネの幼なじみがいる場所に心当たりがある。
そのリーネの幼なじみだがどうやらここの一つ上の階にいるらしい。というのもいつも俺達を見廻りに来る男が「この後は一つ上の階の嬢ちゃんも見廻るのか……。」と漏らしていたからだ。
聞いたときは他にも捕まっているのかと思っただけだったがその他にもがまさかリーネの幼なじみだったとは……。
そんなわけで早速一つ上の階まで『実体化』を駆使して向かった。
天井をすり抜けて一つ上の階に着くとそこは一直線の通路の両脇に牢屋が隙間なく並んでいる、まさに刑務所のような場所だった。それに……。
『ここは?』
そこは俺達のいた牢屋とは全くの別世界だった。
全体的に清潔感溢れる石床に等間隔で壁に掲げられた照明、それになんと言っても牢屋の一つ一つに簡易的ではあるがベッドが備え付けられていた。
──同じ牢屋でここまで差が出るものなのか。
そう思わずにはいられない光景だった。
正直、藁の束でベッドのようなものを作って自慢していた少し前の自分が恥ずかしい。
だがリーネの幼なじみが俺達より酷い環境に閉じ込められてなくて少し安心した。
『さて、リーネの幼なじみを探すとしますか』
だが探す必要はなかった。なぜなら今さっき中を確認した牢屋の左隣の牢屋にリーネと同年代くらいの少女がいたからだ。
「……」
その牢屋の中にいた少女は牢屋の隅で蹲っていた。
待っていてもこちらには気づく筈がないので俺から声をかける。
「あの、ちょっといいか?」
突然声をかけられたら誰でも驚くだろう。それは少女も例外ではなかった。
「……!?」
少女は驚き顔を上げる。
──なるほど確かに珍しいかもな。
顔を上げた少女の目は青と緑のオッドアイだった。
「君がリーネの幼なじみなのか?」
いつまでも見つめ続けては気分が悪いだろうと思い単刀直入に相手を確認する。
「……!?リーネを知っているの? それとリーネは無事なの?」
どうやら当たりのようだ。
「リーネは無事だ。俺が君のことを聞いたのもリーネからだよ」
「良かった……」
リーネの幼なじみは見るからに安堵した様子だった。
「……お願い。私はどうなってもいいからリーネだけは助けて欲しいの」
「ちょっと勘違いしないでくれ、俺は別にあの男達の仲間でも何でもない。むしろ被害者だ」
「え? そうなの私はてっきり……」
「うん、確かに俺は牢屋から出ているがこれには深い理由があってだな……」
そう言ってリーネに話したことをそのまま全て話した。
「あなた幽霊なの? そうは見えないけど」
「確かに見えて話せるフレンドリーな幽霊は珍しいかもな」
「そうじゃなくて本当に幽霊なのか知りたいの。何か自分が幽霊だって証明出来ることある?」
どうやら彼女は興味津々のようで体を前のめりにして聞いてくる。
「分かった分かった。じゃあ今から消えるよ」
そう言って『実体化』を解除し姿を相手から見えなくする。
「これって手品じゃないのよね」
「ああ、そうだが。これで納得したか?」
再び実体化をして相手から見えるようにする。
「もちろん!」
「それでなんだがさっきリーネを助けたいとか言ってたな」
このまま話が長引きそうだったので話の本題に入ることにした。
「もしかしてリーネを助けられるの?」
「ああ、だがリーネを助けるには君がリーネより先に助かる必要がある」
リーネは幼なじみを助けたいから自分一人で逃げることは出来ないと言っていた。ならば幼なじみを先に助ければ問題は無いはずだ。
「それがリーネを助けるのに必要だって言うの?」
「ああ、絶対条件だ」
リーネの幼なじみはしばらく顔を伏せていたが何かを決意したかのように顔を上げた。
「分かったわ。リーネを絶対助けなさいよね」
「任せろ。そういえば名乗ってなかったな俺はカズヤだ」
「私はソフィーよ」
それからソフィーの首輪を外し自分で再び嵌めるように言った。
今さらだが外した首輪をもう一度自分で嵌めれば自ら外せるじゃないかということに気づいた。
初めからそうしたかったが本人が寝ているときに無理に起こして首輪を嵌めさせるなんて酷だろう。
結果オーライというやつである、たぶん。
「じゃあまた後日」
「ええ」
これで準備は全て終わったと思う。
後はオークション開催当日に暴れるだけだ。
作戦?そんなの知らない。なるようにしかならないだろう。
『フフフ……』
不敵な笑みを浮かべながら通路を一人歩くのだった。
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