第四話 風が吹く
俺はチョマ族のテントが欲しかったが、ちょっと手が出ない値段だった。持って帰るには大き過ぎるしな。
チョマ族のテントは、
丸みを帯びたカラフルなテントが、見る間にポコポコと立ち並んでいく様は、眼を見張るものがあった。こっそりスマホで動画を撮影した。
俺は何枚かの毛織物と、小さな可愛いフエルトの箱をいくつか買った。チョマ族の女性と値段交渉をするのも、フリーマーケットのようで楽しかった。
チョマ族の人たちはときおり、ぱぁーっと尾羽を開く。どうやら気分が高揚したり、嬉しかったりすると開いてしまうらしい。昨夜の宴会で踊っている時も、開いたり閉じたりしていた。
仏頂面をしてロレンと交渉している族長の、尾羽が開いてしまうのを見た時は、
バレちゃうから! 閉じて閉じて! 族長!
と、ロレンを目隠ししてあげたくなった。なんとも可愛らしい人たちだ。そんな族長を見て、緩んだ口元を必死で隠しているロレンは、きっとここでも完全敗北なのだろう。
馬車に荷物を積み終わり、そろそろだ出発という時に、ラッカ(マンドリンに似た楽器)を
俺に予備だと
「おまえに良い風が吹きますように」と言った。
この世界の別れの
俺は急いで物入れから、予備のスリングを取り出す。玉もひと掴み小袋に入れる。
簡単に使い方を説明し、男に渡す。
「狩りに使える」
男は興味深かそうにスリングを
馬車が走り出し、ハザンが『ヒロト! 置いてくぞ!』と叫ぶ。
俺は「おまえにも、良い風が吹きますように!」と言って、馬車に飛び乗った。
ハルと並んで、放牧地が見えなくなるまで手を振った。
「おとーさんも、あげちゃったんだね。ぼくも、友だちになった子に予備のスリングあげちゃった。アープって名前の子だよ」
もう会えないかなぁ、とハルが言った。俺は、きっとまた会えるさと答えた。
アープが身体に良いと、お礼にくれたカゴいっぱいの木の実は、口に入れると震えがくるくらい酸っぱかった。
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