ナナミ編 閑話 耳なしの耳

 私がこの街に迷い込んだ時、教会まで連れてきてくれたカミューは、この養護施設の出身で、街の自警団のような仕事をしている。いつも休みになるとたくさんのお土産を抱えてやってくるカミューは、子どもたちに大人気だ。


 私にも飴細工を買ってきてくれる。相変わらずの子供扱いだ。


 私が街で『耳なしナナミ』と呼ばれているのを知ったカミューに、


「ナナミは、耳なしなのか?」と聞かれた。


 この街の人の言うところの『耳なし』という存在かと問われれば、そうだと答えるが、私に耳がないかというと、そんな事はない。


 私が髪をかき上げ『耳、あるよ。ほら』と見せると、カミューは爆発しそうな感じで赤くなったり青くなったりしながら、持っていた手拭てぬぐいを慌てて私の頭に被せた。


 そして「女の子がそんな風に、み、耳を、見せたりしちゃいけない」


 としどろもどろで言った。


 え? みんな耳出して歩いてるじゃん。どーゆー事? なんだか私の耳が、とてつもなく卑猥ひわいな物扱いされている気がする。なぜ?!


 カミューが帰ってからルルに聞いてみた。


「一般的に言うと、耳は性感帯なの」


 へー、そうなんだ、と思った。まあ、人間でもそんな感じだ。


「でも普通に、歩いてる。みんな、出してる」


 私がふくれてそう言うと、ルルは少し考えてから、ちょっと見せてみて、と言った。


 私が髪を耳にかけて見せると、少し顔を赤くして目を背ける。えっ、それほどなの?


「なんでだろう、確かにそれは、恥ずかしい。ナナミ、それは隠しておいた方が良いわね」と言われた。


 それとか言わないで!


「毛が生えてないからかな? それとも形かしら」


 ルルがなんだかブツブツと考察こうさつモードで呟いている。しかも内容が生々しいことこの上ない。


 私は髪の毛の上から両耳を押さえて、真っ赤になってうずくまる。今までずっと、パンツを履かないで平気で歩いていたような気持ちになる。しかもカミューに『ほら』とか言いながら見せちゃったよ! もう、ホントごめんなさい!!


 いやー!助けてー!!



 その夜、私は耳当て付きのヘアバンドを作った。これなら風が吹いても大丈夫だ。


 羞恥心というものは、周囲が育てるものだ。三十年以上私の頭の横にあり、当たり前のように人目に晒されてきた『耳』は、本日をってヒロくん以外には見せてはいけない器官となった。


 私はただの、耳の話をしている。地球ではチャームポイントだったりもする。決して下ネタではないし、エロい話ではない。ないよね? なんかもう、自信なくなってきた!


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