14話 「大学の休講はただめんどくさい」

 夏帆と一緒に勉強した次の日の金曜日。今日も変わらずに一限目から授業である。実習もないこの日になるとただでさえ講義に来ている生徒の数がどんどん減っているのがさらに減っている。

 確かに講義の全体うち6~7割のところまでくらい進んできているときが一番来ている生徒が少なくなる傾向なのだが、こういう時にちゃんと出席できているかいないかの違いが大きい。のだが……。

 「ねぇなんで講義開始のチャイムが鳴っているのにさ、教授いつまでたっても来ないの?」

 「俺も分かんね」

 基本的にほとんどの教授はチャイムが鳴る前にその講義で使う教材を配り始めたりみんなに見せるスライドの準備をするのだが、今日はどうしたことかチャイムが鳴っても一向に教授が現れる姿がない。

 「え? 今日って元々なかったとかいうことある?」

 「あるわけない。だって周りこれだけ来てるんだぞ」

 周りの生徒も俺と奈月同様に教授が一向に現れないためにざわついている。すると、見慣れない人が入ってきてチョークを持つとでっかく本日休講とだけ書いてマイクを持ってこう言った。

 「本日、教授が体調不良ということになりましたので休講という形をとることになりました」

 その言葉に周りの反応は「うぇーい」と教授が体調不良だと言っているのに喜んでいる。多分この時間の講義がなくなったので喜んでいるのだろうが……。

 「マジか……」

 「マジですか……」

 俺たちはガクリと机に伏した。

 「補講いつになるんですかねぇ……」

 「これで土曜日とかになったらもう私行かないから」

 「確かにな。いや、待てよ。そのケースだけに限らず、夜遅くになる6限目とかでも俺は行きたくない」

 「分かるわぁ、それ」

 俺はいつも思うが台風などで交通機関が止まったり、今日のように教授の体調や用事で急遽休講になったことを喜ぶ生徒たちが多いが、何が嬉しいのか分からない。

 大学というものは休講になったものが絶対にどこかで補講として入る。高校まで見たいに休みになったらそれで終わりということは無い。絶対にどこかに講義が入らないといけない仕組みになっている。

 そういう補講は大体、いつも何もない土曜日や実習が終わった後でも対応できる夜7時以降に始まる6限目とか絶対に行きたくなくなるところに入れてくることになる。

 当然その時の補講はめちゃくちゃしんどいし、めんどくささ極まりないので生徒の出席率はがた落ちする。

 「今回の休講分の補講ですが日程が決まり次第、連絡を皆さんのほうに入れることになっています。補講に関してはこちらの都合で急遽変わってしまったものなので、参加できなくても出席点は引かないとのことです」

 それだけを言うと、さっさと出て行ってしまった。

 「出席点は引きませんって言われてもねぇ……」

 「そうだよな。絶対にこの講義毎回その時に応じた教材配ったり、テストに出るポイント説明するしなぁ」

 正直なところ、そこも確かにとても重要ではある。しかし、講義に出席してテスト勉強に使うテキストやプリントが各講義ごとに配布とかだとあんまりそういうところは関係ない。

 「めんどくさーい。健斗が適当に受けてもらってきてよ」

 「いやだよ、お前もちゃんと受けろや」

 多分こう俺は言ったが、ほかの生徒たちも複数人いるグループの中でまじめな子で受けに行く子に教材やポイントを押さえといてくれと任せるのだろうな。

 「ほら、こんなかわいい女の子が6限目夜遅くまで講義受けて帰るだなんて危険すぎるとは思わない?」

 「謝れ、全国の頑張って遅くまで勉強している女子大生の皆さんに謝れ!」

 ただでさえこの大学でもかなり遅くまで自習室や講義室を使って遅くまで勉強をしている人はたくさんいる。こいつにもその実態を知れやとかもっと言ってやりたいが、こいつより俺は成績が低いと思われる。

 ちくしょう、夏帆と一緒に勉強いっぱいしてこいつを黙らせるしかないな。

 「それにしても嫌な休講だなぁ。これが三限目とかだったらそのまま帰れるのに、一限目だからこの後普通に講義あるから帰ることも出来ないっていうね」

 「勉強でもするかぁ……」

 夏帆に教えてもらった勉強法をしっかり毎日行って感覚をつかんでいかないといけない。勉強で大事なのは自分なりの一番頭の中で理解しやすい勉強を早くつまむことである。

 「えー、つまんな。イタズラしていい?」

 「お前……。ここで俺が嫌って言ったらやめるのか?」 

 「ううん?」

 「ううん?じゃねぇよ。お前も早めに勉強したらいいじゃねぇか」

 「やだぁ、めんどくさい」

 「俺をいじるのはめんどくさくないのか……」

 どう俺が文句を言おうがこいつはきっと悪戯をしてくるので、こいつの相手をしながらでもぼちぼちテキストを見て勉強しよう。そう思いながらテキストを見て、ノートにまとめ始めた。

 しかし、何分経っても何もして来ないので何をしているかと思って奈月の方を見ると……。

 「……」

 めちゃくちゃ真面目にペンを動かして勉強していた。いつものふざけたり脱力したりしている姿とは全く別物で真剣な目つきで勉強に取り組んでいる。

 俺がこちらを向いていることには気が付くこともないのか、全くこちら視線に応じることは無い。

 彼女のノートを見ると、とても綺麗にまとめられている。夏帆が言っていたような同じようなことである要素のちゃんとどう勉強するか抑えるポイントの違うところは丁寧に分けて勉強している。

 なんだかんだいつもの雰囲気はなんだかバカっぽい感じがある奈月だが、こういうオンオフがやはり成績を残せる理由か。

 俺も負けずにこの時間を有効に活用して勉強することにしよう。

 そして俺も再びノートをまとめる作業を開始する。教室内の回りの少しのざわつきが、完全に静かであるよりもちょうどよい。

 夏帆と一緒に勉強した時とはまた違った空気で勉強をこの休講になった90分間集中して行うことが出来た。

 夏帆だけでなく奈月からもどう勉強に取り組めばいいか色々と見つけるのもいいなと思えた上に、奈月の集中力にただただ驚かされた時間であった。

 まぁ、その後の二限目三限目は講義中はずっといたずらされてちょっとでも見直そうと思った少し前の自分を後悔する羽目になったのだが。


 

 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る