31話 「奈月の要求がやけくそになった」
奈月の要求を聞くべく俺は奈月からチューハイの缶を受け取って再びテーブルに着く。
ちなみにすでに俺たちは結構な数のお酒の缶を開けている。まだまだ若造なのでアルコール度数の低いジュースみたいなお酒しか飲んでないが、それでも十分たくさん開けている。まぁ、奈月のご飯がおいしかったから仕方ないね。
「前も何となくは思っていたが、お前結構酒飲めるんだな」
「まぁね。ここはもう私のホームだし、酔いつぶれても大丈夫だしねー」
「全然大丈夫じゃないからちゃんと加減はしてくれ……」
当然そんな話を奈月は聞き入れるはずもなく、機嫌よくお酒を飲んでいる。
「で、勝者の要求とやらは何ですかね?」
「あれ、さっきまで声も体も振るわせて小動物みたいになっていたくせにいきなり要求を尋ねる声が元気になったじゃない」
「ネックレスを召喚されないなら何とでもなる」
「どんだけトラウマになっているのよ……」
本当にネックレス怖い。諭吉をそんなに吸収する高いステータスとスキルを持っていたなんて知らなかったからな。
「そうだね……。まぁああは言ったけど特に健斗になんか求めるものなんてないんだけどもそうだねぇ……」
「いや無いなら要求無しでいいじゃないんですかねぇ!?」
「いやいや、それは嫌だね。健斗が悔しそうな顔や戸惑う顔をしながら私の要求を受け入れるところ見たいし」
「……」
「うーん、何にしようかなー? お!」
奈月が何か考えの浮かんだ様子を見せた後、なんだか嫌な表情になった。きっとろくでもないことを考えついたに決まっている。
「じゃあ私が要求するのは……」
「……ごくり」
何を要求される?
「私と一緒に寝ようぜ?」
「……は?」
俺は奈月の言っている意味が分からなかった。
「いやいや、この言葉通りの意味でその反応はないでしょうが」
「いやだって、そもそも一緒の部屋で一緒に寝てるやんけ」
「……は?」
今度は奈月が俺と同じ反応をしてきた。いやなぜそうなる。だって一緒にこの部屋で寝ることになるのだから一緒に寝るということなのではないのか?
まさか俺に今度はトイレか風呂場で寝るつもりで考えていたのだろうか?
「あのねぇ……」
なぜかちょっと意思疎通できていないだけで奈月さんが激しく怒っていらっしゃる。
「私が言っているのは、このベッドで一緒に二人で寝ようっていう男の誰もが夢見る女の子からの添い寝を誘われるという最高のシチュを君は今、受けているわけ! OK!?」
「いや、そんなの無理ですよ奈月さん。ドキドキが止まらないじゃないですか」
やっと奈月の要求内容が具体的に理解できたところで俺はその要求を速攻で拒否した。なぜか奈月はその反応に対して満足そうに頷いている。
「分かるわ、女の子の耐性がなくてきっとドキドキしちゃうのね。でも安心して? いい思い出としてきっとあなたの中に___」
「いやいや、そういう意味じゃないっての」
「は?」
「いやこのベット、シングルですよ?」
俺がいつも寝ているベッドは超安いシングルベッド。いいベッドはしっかりとした床板なのだが安いものだとすのこが支えているためにきしみ音がすごかったり、安定感にかけてしまうのだ。
つまり、何が言いたいかというと……。
「このベッドで二人一緒に寝たらこのベッドは完膚なきまでに壊れます。俺はベッドでこれから寝られなくなる」
「な、何よ! 私がそんなに重いとでも言いたいわけ!?」
「そうじゃねぇよ! スタイル見るだけでもお前の体重は軽いと十分に思えるし、思ってもいる! でもな、お前が仮に体重が20キロ台だって言うならまだ俺とトータルの重さ100キロいかねえけど、そんなわけないだろ? 無理なんだって!」
ただでさえ100キロもいかないけれどもメタボ体質の父親がベッドに腰かけたり横になっただけでものすごい音がしたんだぞ? 絶対に二人の合計体重100キロ以上が乗ったらすごい音を立てて壊れるに決まっている!
「つまり、私と一緒に寝るからドキドキするっていう意味じゃなくて……。ベッドが壊れてしまうからそれだけは避けたいというドキドキって言うこと?」
「そういうことっす。マジで考え直してください。安いとは言ってもマットレスやらいろいろ揃えるのに諭吉使っているんで」
「なら、床にマットレス敷いて一緒に寝るのだったら?」
「あ、全然余裕で可能です。こちらは何も問題ないです」
「むっかつくうううううううううううううううううう!」
いやいや、奈月さん。ベッド壊れたら本当に困るっていうこちらの立場を分かってくださいよ。
「じゃあ、それでいいわよ!」
ということで奈月の要求がやけくそ気味に決定し、お酒も飲み終わったので先に寝る準備だけしておくことにした。
二人とも相当酒飲んだからね、いつ眠ってもおかしくはない。寝てしまっても大丈夫な体制になってからまたくつろぐことにした。
「先に風呂入ってこい。俺はお前が風呂に入っている間にマットレス敷いたりするからよ」
「覗いたりしないでよ?」
「あ、この時のためにカーテンしておきましたよ?^^」
「なんだろう、配慮されているのにくそむかつくのは」
奈月は文句を言いながらもお風呂に向かったので床に散らばったゴミを捨てて物を整理整頓した後、広くなった床にマットレスを敷いた。
そして梨花のアドバイス通り前日に綺麗に洗って干して置いておいたカバーをマットレスに付ける。梨花まじないす。
枕は一つしかないけども奈月がいると言えば渡して自分は大きめのタオルを丸めるか折りたたんで枕代わりにすればいい。
「しかし……やっぱりなんか変な気分だ」
床に敷いたマットレスに一応枕と枕代わりの大きいタオル置いたこの状態。誰かと隣同士で寝る。もう何年もそんなことをしていないので落ち着かない。しかも相手は女だ。
「お風呂出たよ」
「あい。歯磨いてその後ここでゴロゴロしてろ」
「あ! 残り湯で___」
「はーい、お湯ちゃんと抜きまーす」
後ろでなんかいろいろ言っているけど俺には聞こえない。新しい部屋着と下着を持って風呂場に向かい、お風呂に浸かった。あ、ちゃんと言葉通りお湯は入れ替えましたよ?
そしてお風呂から上がるとそのまま近くの洗面台で歯を磨いてから部屋に戻った。
部屋に戻るときには奈月はお酒の効果もあって眠ってしまったのかと思ったが、スマホをいじっていて普通に起きていた。
そしてその後しばらくまた無駄話をしながら夜の時間を過ごした。
「そろそろ寝るかね」
「うん。眠い」
そういうと奈月は何のためらいもなくマットレスにごろんと横になった。ちなみに枕は使うようなので、俺はタオルを枕代わりにする。
「じゃ、電気消すぜ」
俺は電気を消すと、真っ暗になって何も見えなくなった部屋の中でゆっくりと注意を払いながら横になった。
「……」
部屋を暗くしてから俺たちの会話はない。静かに体を動かしたり、息をする音だけが聞こえる。
今は先ほどまで明るい部屋だったので、暗さに慣れておらず目がまだ慣れておらず何も見えない。
でもそれが今の俺にはとても幸いしている。
奈月にああは言ったものの、やはりドキドキして落ち着かない。体を動かしたくても当たりそうなくらいに距離が近くて、ほんのり俺の体温とは別の体温の温かさが伝わってくるからだ。
少しすると目が慣れてきて部屋の中が暗闇でも見えるようになってきた。こうなると奈月のほうを見れば奈月がもう寝たのかまだ起きているのかがわかる。
でも見る勇気は出ない。俺は奈月のいるほうと反対側に向いて目を閉じて眠りに身を投じることにした。
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