28話 「買い出しに出かけるだけ」

 結局、連休前の楽しいお昼以降の時間はすべて掃除や洗濯に時間を使うことになってしまった。

 散らかっている物の整理整頓から普段はそこまで念入りに掃除しないところまで丁寧に掃除をした。結構こういうことをするとかなり時間がかかってしまうもので全て自分の納得のいく仕上がりになるころにはちゃっかり夜になっていた。

 「あいつさえ来なきゃ幸せな昼の時間が堪能出来たというのに」

 とは言ってもどうせ昼寝をするだけだったのだったし、こうでもなければ掃除もしないので綺麗な部屋を見ると悪い気はしない。

 きれいになった部屋に満足していると、スマホが震えてメッセージが届いたことを知らせる。

 ─明日、9時にはそっち行くから。休みだからって寝てないでちゃんと起きといてね。こればかりはちゃんとした理由があって拒否権ないからね─

 「マジかよ……」

 ちゃんとした理由って何だろうか。これで大したことない理由だったらしばくかもしれない。

 大学生になり、一人暮らしをするようになってからは嫌でも一人で起きなければならない状態になったが、俺は低血圧で寝起きがとても悪く朝のテンションの低さはかなりのものである。

 ちなみに過去、中学時代に父親をそれでぶちギレさせて頭からヨーグルトかぶった記憶がある。何とも言えない感情になったような気がする。

 大学に行かないといけない!ってなると目が覚めるが、休みだと体がもうわかっていると本当に言うことが聞かないので朝9時は鬼畜なのだが。

 前回の10時ですら相当厳しかったのに、一時間も早く起きろと言うのか。

 それに干した洗濯物を取り込んだりすることも考えると、8時にはおきないときついのでは? 

 ─奈月さんよ、もうちょっと遅くてもいいんじゃないのかい?─

 ─ダメ。寝ててもいいけど、マジで家の前の思いっきりドア叩きまくるからそれが嫌ならちゃんと起きといて。─

 「害悪すぎる」

 俺の眠りを邪魔するだけでなく、俺のご近所さんたちまで迷惑をこうむって俺の肩身が狭くなる。もはや起きるしか選択肢はない。

 「……早めに寝よう」

 いつも休みの日はお酒をちびちび飲みながら好きな本を読んだり、動画を見たりしているというのに。

 ちなみにテレビもあるが、見ていない。好きな野球中継もファンのチーム致命的に弱いからね。どこかとかは言わないから勝手に予想して煽ってくれたらいい。

 ということで俺はいつも平日に寝る時間と変わらないくらいの時間に就寝した。

 

 

 朝。

 鳴らない予定だったアラームが大きな音を立てて鳴り響く。体は今日は休みということが分かっているためになかなかいつものように体を起こすことは出来ない。

 結局、最近は起きることに慣れてきてあまり使わない技になりつつあったスヌーズ機能をフル活用して何度も止めるうちにだんだんと起きる作戦を決行した。

 そしてなんとか8時前に起きると顔を洗って歯を磨いてさらに目覚めを促す。干しておいた洗濯物を取り込んで今日着るものを残してそれ以外はすべて畳んで片づけておく。これでいつ奈月が来ても問題はない。

 すると9時にはコンコンとノックする音が聞こえたので、急いでドアを開けに行く。

 「おはよ。さすがにちゃんと起きたのね」

 「なんだよ、こんな早い時間から来やがって。何があるっていうんだ」

 「その理由を一言で話すと”買い物に行く”ためよ。着替えているようだし、財布だけ持ってきて。早くいきましょ」

 「は? 買い物だって?」

 「いいから早くしなさい」

 真面目な奈月な表情に押されて俺は財布を持って自分の部屋を出るとそのまま外に出て奈月について行く。

 「どこに行くんだ?」

 「近所のスーパータイエーに行くのよ」

 「は? そんなの昼過ぎからでもいいだろ」

 「あっまい! 甘すぎる!」

 俺の言葉にすごい勢いで反論する奈月に感じたことのない力を感じ、びくりと体を震わせた。

 「いい!? 連休しかもGWということは家族が集まるからオードブルみたいなものが基本的に売れるわけ! 普段家庭料理で使うような食材は休みだと仕入れが少ない可能性が高い! でも買う人は普通にいるから自然と競争率があがるのよ! 主婦を舐めちゃいけない!」

 「そ、そですか……」

 確かに母親も安売りの広告を見ては「仕事帰りでは買えねぇだっつーの。主婦を殲滅しろ」と言っていたな。

 だが、気になることがここで一つ。スーパーに入りながら、奈月に聞いてみる。

 「家庭料理で使う食材って……そんなの買うのか? 別に俺がちょこちょこっと作る料理の食材くらいはあるけれども」

 「……ちょうどいい機会だからこの泊まる二日間で色々私が作ってあげるわ。前に約束したでしょ? 絶対に後悔させてやるって」

 あのやり取りのことをまだ意識しているらしい。まだ開店したばかりで綺麗に並んでいる生鮮食品を見極めていく。

 「別に作るのは構わんが、失敗していたたまれない空気にだけはしてくれるな。あと俺の家から火事とかになったら責任取れよ」

 「腹立つー……。だから今日にでも料理出来るってところ証明したいんだっての」

 そんな話をしながら買い物を進めていると海鮮コーナーに来た。確かに奈月の言う通りで多くの主婦がいつもよりも少なめのラインナップを品定めしている。

 「これがいいかな」

 「カレイ……。煮つけでも作るわけ?」

 「そうよ」

 大丈夫なのだろうか。ちゃんとこのカレイの切り身がおいしそうな姿となって俺の前に出てくるとこは出来るのだろうか。

 ダークネスになって出てくるところだけは見たくない。

 「あとは……」

 奈月がその後進んだのは精肉コーナー。メインは魚と決めているようなのだが、肉を使う場面でもあるのだろうか。

 「今日はさすがに無いかなぁ……。あ、あった」

 奈月が手に取ったのは鳥のセセリ。ちなみに俺が酒のつまみにしているやつである。永遠に食える自信があるくらいには好きである。

 「健斗ってセセリ好きでしょう? これで何か一品作るわ」

 「あれ? お前に俺セセリが好きだなんて言ったっけ?」

 「言ったも何も、前回たこ焼きの中身の一つとしてあらかじめ焼いたやつ置いていた奴を生地に入れずにちょこちょこつまんで幸せそうに食べてたじゃない」

 そういえばいつものように食べまくったなあの時も。

 「だから好きなんだろうから何かこれで作ってあげるわ。感謝するといいわ」

 「いや、別に塩コショウだけでいいんですが……」

 当然そんな俺の声を聞くこともなく、良さそうなセセリを選んでとっとと彼女は次のコーナーに向かってしまった。

 そしてあらかた買うものを選び終えた。

 「財布持ってきてもらったけど、めんどくさくなるから私がここで払うから後から買い物金額の半分を私に頂戴」

 「おけ」

 支払いを終えると、買い物袋に買ったものを入れていく。当然のごとく、俺が大量の荷物持ちをやらされる。

 奈月はしっかりとお酒を大量に買ったので、それが重くて仕方がない。家まで徒歩10分余りだが、外はもう暑いのでだくだくの汗をかきながら持った。

 一方奈月は少しの荷物を優雅に持っている。死ぬほどむかつくんだけど。

 

 

 

 

 

 

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