05-03 話し合い
「さ。話を聞きましょうか」
毎回恒例にでもなったような、貴美子おばさんの号令がリビングで発せられる。
そう、ここは酒場という名の俺の家。
相変わらずの密集率のリビングには、昼過ぎに皆がぞろぞろと集まりだし。
今はダイニングテーブルを囲むようにずらっと人が座っている。
上座の貴美子おばさん、その背後に護衛のように立つ
時計回りに碧、俺、ナオと俺の家族が座り、姫は俺の後ろに火之村さんのように立っている。この家のメイドとして主人と共に座ることは許されないらしいが、いつこの家のメイドとなったのかと聞いてみると、
「メイドは御主人様にお手つきされるのは定番では?」
とよく分からない知識を披露されたので諦めた。
実際、俺が主人ならお手つきされてい……ん? 俺がお手つきされていないか?
反対側には、貴美子おばさんから見て
何かよく分からない構図だなと思うが、何よりよく分からない構図なのが、カウンターキッチンに座る橋本親子だ。
何かそこが定位置となっているようにも思えるが、橋本さんって一応この町の町長なんだから偉いんだけど、なんでそんな端に座るのかと。
達也は少し泣きそうな顔をしているが……まあ、そこは……うん。気にしないでおこう。……早く立ち直って欲しい。
「今回は本当に危なかったわね」
貴美子おばさんが火之村さんから紅茶をもらい、くいっと上品に飲んだ後にそう言う。
まだあの日から一日だ。
皆疲れているし、事後処理もあるだろうに、よくここに集まれたなって思う。
今回は本当に危険だった。新人類の東と南からの襲撃に、町は壊滅寸前だったし、俺も死にかけた。
死人という話では森林公園で弥生が死んだことになってはいるが、今回は大勢の――町を守りきった守備隊が死んでしまっている。
以前町を襲撃された時以上の被害だ。
もし、町に入り込まれていたらもっと犠牲が出て、この町もなくなっていたはず。
そう思えるほどの戦いだった。むしろ、これだけで済んだことが奇跡だ。
……ほとんどそれに参加していない俺がそう思うのだから、現場にいた町の皆はもっと現実味があると思う。
「
眼鏡くいっとした後に深々とお辞儀をする眼鏡ちゃんに、貴美子おばさんも「本当にありがとう。助かったわ」と軽く頭を下げる。
そういや、眼鏡ちゃんってどこにいたんだろうとふと思った。
「正直に言うとな。北側に攻められてたらまずかった。拡神柱の量産に夏美がそこに避難してたから、本当に……」
「流星さん……」
二人が俺の目の前で見つめあう。
ああ、なるほど。亞名は北に拠点があって、そこで拡神柱の量産をしてたのか。
確かに、北が壊滅していたら。例え撃退できても拡神柱が作れないから次は町を守れない。
新人類だけでなく、ギアにも怯えることになる。
……で、なんでこの二人は見つめ合っているんだ? 白萩も眼鏡ちゃんを名前で呼んでるし。
じとっと見ていると、視線に気づいた二人が我にかえって慌てだす。
「い、いや、実はな……前回のここでの話し合いの後に、な……」
「あの……流星さんとお付き合いを……」
二人がそうなるだろうなとは思っていたけど。
その後に新人類の襲撃とか。結構危なかったんじゃねぇか? フラグじゃね?
「あら、そうなのね。おめでとう」
貴美子おばさんの驚いたような祝福の声に続いて、「おめでとう」と皆が祝いの拍手をし、二人が照れたように「ありがとう」と返事する。
「まあ、それならこっちも朗報があるよね」
手を叩けないナギが、そんな中ぼそっと言った。
周りが、ナギの朗報とは何なのか気になり静かになる。
「凪、ハーレム作ったよ」
「お、おまぁぁぁぁーーっ!」
何を暴露しだしたのかと。
そんな言葉と共に、左右からがしっと腕を掴まれ、背後からすっと腕が出てきて抱きしめられ。
「こういうことです」
姫が締めの言葉を発して、俺の頬にキスをしてきた。
……何がこういうことなのかと。
達也が「うっ」と一言あげて動かなくなったじゃないかっ!
「ちが……いや、違わないけど、ハーレムとかそういうんじゃなくて――」
「ああ。安心なさい。凪くん」
「そうですな。水原様、安心なさってください」
何を!? 何を安心すればいいのかとっ!
周りも「何を今更」感が半端ないぞ。
「あなた、もう
「あ。やっぱり! お母様、決まったの?」
「ええ、決まったわ。すでに本確定だったけど、昨日の一件の後決めたわ」
いや、決めたとか言われても。誰が。
というか、作りなさいって何をっ!?
「おめでとう! 水原君」
「友達が守護神とか凄いよね」
「むしろ、凪君がそうじゃなかったら誰がなるのって話だけどね」
「そりゃそうだ。考えてみたら水原って何者なんだって話だしな」
わいわいと自分のことのように嬉しそうに楽しそうにはしゃいでくれる。
そんな友達を持って、俺は嬉しいと思う反面、公認となってしまうのもどうなのかと思うのだが、しっかり三人のことを責任取らなきゃと考えを改めなきゃいけないと感じた。
「凪くんが守護神になるのはいい知らせなんだけど、あまりいい知らせじゃないこともあるのよ」
「そう、ですね……」
ほんの少し翳りが見えた二人の財閥当主の言葉に不安を感じ、俺は姫が入れてくれた紅茶で口の中を潤しながら次の言葉を待つ。
「嫌な予感というか、もうほぼ確定しているでしょうけど。東は壊滅よね?」
「そう、ですな。
……かつもくって誰だ?
それに東はって……東は新人類を撃退できたのに壊滅? 何の話だ?
「あー、凪君は知らないんだよね」
「水原君って、世間に疎いからねぇ」
弥生が俺の疑問に答えてくれる。
後、よく分からない頷きしてる橋本さんが相変わらず一言多い。
「
「『狂乱の太名』……私の古い友人でございます、な」
その名前は聞いたことがある。
確か『鞘走る火』の火之村さんと同じく守護神名鑑に乗っていた。
「よく、生きてたよな」
あんな大軍で押し寄せていたこともそうだが、それを指揮していたのがそんな大物なら、何が起きていてもおかしくなかったということだ。
でも、それが東の壊滅とどう通じるのかが分からない。
「東は。この町から先の町は、全て蹂躙されて、人類は残っていないのよ」
「……は?」
俺は、この町を守れた。
だけど、人類はいまだ脅威に晒され続けていることに、まだその時は気づいていなかった。
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