変える世界
04-46 変える世界
ちゅんちゅんと、耳が鳥の鳴き声を捉え、脳内にその音を届ける。
外からと思われる、明るい光のような感覚を閉じた瞼は感じ出した。
妙な幸福感と気だるさ、後は少しの空腹感と左目に鈍痛を感じながら、俺の意識は覚醒していく。
ゆっくりと視界が黒から色づいていく。
俺の目の前に映るのは――
――天井だ。
いつもよく見る天井だ。
この天井はよく見ている。
そうだ。これは俺の部屋の天井だ。
そうか……俺は……
ノアとの戦いの直後、気を失った。
それは覚えているのだが、その気の失い方が……なんかダメな気がするのは覚えている。
激戦を潜り抜けた後は大体こんな感じで、馴染みの天井をみることが多い。
前の世界ではこんなにも自分の部屋の天井に想いを馳せることなんてなかった。
普通に寝泊まりしている部屋の天井に、そろそろ恋してしまいそうだと、眠りから覚めた俺はまだ気だるくて働かない脳でなんとなく思った。
何だか、この俺の部屋の天井は、何かあった時の俺の意識を整えるためのセーブポイントのようだと、よくわからないことさえ考えてしまう。
これが物語によく見るループ物なら、間違いなく今のこの状況はループ後だろう。
……そうだ。
みんな無事だったのだろうか。
ノアを退けたあの時。
守備隊と新人類の戦いも終わりを迎えていた。
俺が生きてここにいるのだから、新人類との戦いも無事終わったのだろう。
そう、信じたい。
「んぅ~……」
右腕に重さを感じる。
俺はどうやら両腕を広げて自分のベッドの上で横になっているようだ。
その声に誰かがいて、誰かというのもすぐに気づいたのだが、右腕に乗るその心地よい重さの愛しい彼女を確認する為隣を見た。
碧だ。
俺の右腕を枕代わりにして寝ている。
碧の甘い香りが、碧が少し動いた時に鼻を掠め、催しそうになる。
「……あれ?」
まだ眠る眠り姫に触れようと左腕を動かそうとするが左腕にも重さを感じた。
なんだ? なんで左腕にも……うご……動かせない。
そっと、俺の頬に誰かの手が触れる感触。
その手は碧の反対側。左側から触れられた。
誰かが……誰かが、いる。
その左手はゆっくりと、右を見ていた俺の顔を左へと。
ぐるりと無理やり向かせられ、すぐに唇を柔らかいもので塞がれた。
くちゅっと音とともに侵入してきて俺の口内を犯していく何かと、その何かを俺に行う、碧ではない女性に、俺は驚きを隠せない。
「おはようございます。御主人様」
姫だ。
なぜか、姫が隣にいる。
なぜだなぜなんだ。
なぜ碧が右腕に、姫が左腕にいるんだ。
という混乱を抑えきれず、ばっと、反対にいる碧をみた。
「あ、お兄ちゃん……ぉはょぅ……」
そう言って先ほどから俺が動いた為に起こされた碧が、眠そうな表情を浮かべて声をかけてきた。
かけてきた碧は……
……なんで……裸なんだ……?
まさかと思い、碧の朝の挨拶等無視して、今度は姫を恐る恐る見てみる。
「こういうのは、恥ずかしいですね……ああ、自爆したい」
こいつも……なんで裸なんだ?!
何!? 何これ!? どういう状況!?
碧が寝てて隣に姫!? え、まずい! まずいぞ! 勘違いされる!
「まさか……俺……もっ!?」
そう言った時、もぞっと。
俺の腹部辺りで動く音がした。
もぞもぞとそれは上へ上へと。
こそばゆい刺激とともに近づいてきて、俺にかけられていたタオルケットから、何かが俺の顔面目の前にぴょこんっと這い出てきた。
「おはようなの、お兄たん」
……ナオだ。
裸の、ナオだ。
……なんだ?
何が、あった!?
「御馳走様です旦那様」
「キセイジジツ。責任取るのお兄たん」
「あ、ボクはもう……ねっ」
俺の驚きに三人がそれぞれ。
恥ずかしそうに事実(?)を伝える一言に、俺はどうしたらいいのだろうか。
いや、どうしたらも何も……
こいつら……寝ている俺に何っていうか、ナニやったのっ!?
「おま……お前等ぁぁぁぁっ!」
と叫んでみたが、何があったのかまだ分からない。
分かりたいようで分かりたくないようで。
でも、わかるのであれば意識がある時にそれを実践してもらいたかったわけで……
「お、おでに、おでになにした!? 何したの!? ねぇ! ねぇ! 教えてよっ! いや、言わなくていい! 何も言わないでっ! うおぉぉ!? お前等まぢで!? なにやってくれてんの!? ちょっ……まぢで、あらやだ! わたし…あたし……」
う、うぅぅ……うわぁぁぁぁーーんっ!!
もう、もうお嫁にいけないよぅ……
ナギ? ナギはどこだ!?
あいつならきっと、俺が寝ている間のナニかしらを残しているはずだ!
見たい! いや、見たいけど見たらもう後戻りできなそうだけど……だけどっ!
「え……凪……見る、の?」
なんだ! なんだ歯切れ悪いぞ!?
やっぱり、やっぱりなのか!? そうか!? そうなんだな!?
どうやら、寝ている間に……
色々奪われたらしい。
そこはまあ……置いとけないけど置いといて。
これで、他の凪と違って。
俺の世界は、新人類との戦いで町は助かり、代わりに現れた、ノアという、人類全ての敵にたどり着いた。
人類が生き残る選択をした世界は、変えられた。
変えることができた。
……俺の碧だけに捧げるはずの貞操と、ともに。
これからが、『俺』が歩む世界だ。
ハーレムの道では、決してない。
な、ないんだからねっ!
四章『変える世界』 完
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