04-42 ポンコツ頑張るっ


「ポンコツ……?」

「はいっ! ポンコツですっ!」


 俺ににかっと笑顔を向けて笑いかける救援。


 その笑顔に、安らぎを感じた。

 今まで覚えていた怖さが和らいだ。


 ……忘れていた。


「助けに参りましたっ! あなたのポンコツですっ!」


 仲間が、いた。

 俺には仲間が、近くにいる。


 遥か彼方で新人類を防いでくれている守備隊達。

 俺が勝つことを信じてくれる仲間。


 背後を見る。

 そこには町がある。


 人が頑張って生きる、意志が溢れる町。

 知り合った人達。今もそこで生き抜くために頑張る人達。

 俺を待っている、守らなきゃいけない、妹達。


 守るために俺は戦っている。

 ノアを倒すために、じゃない。ノアから。新人類から町を守るために戦っているんだ。


 あの町には、俺の大切なものが、多い。


 俺には……俺が守るものは多い。

 ……いや、俺が守る、じゃない。一緒に、守るんだ。

 守備隊も、町の皆も、町を守るために今も頑張っているんだ。


 がたがた震える体を必死に動かす。

 立ち上がるために。

 皆の想いと、俺の意志を籠めて。


 何が刻族だ。何が観測所の管理者だ。

 さっき、ノアも言ってただろ。

 俺は、人だ。

 ちょっと特殊な力がある、人だ。


 一人で町を守るとか。どれだけ傲慢なんだ俺は。

 刻の護り手になったから、観測所の管理者となったから。

 だからって、俺自身が強くなったわけじゃない。

 強いて言うなら自爆技ができるようになっただけだ。

 俺自身の心が強くなったわけじゃない。


 俺は――


「そんなもんで守れるなら……とっくに世界は平和だってのっ!」


 ――立ち、上がる。


 人だ。

 人だから、一人だと弱い。


 皆でいるから、強くなれる。

 皆で分かち合うから強くなれる。楽しめる。悲しめる。


「ふむ。折りきれませんでしたか」


 ノアが立ち上がった俺をみて拍手をした。

 だが、俺自身はまだがくがくと体を揺らし、目の前のノアが怖いと思っている。


「御主人様。今すぐこちらを」


 ポンコツが俺に黒い筒を投げ渡した。


 佑成だ。

 忘れちゃいけない、俺の相棒。

 ……ここにも。俺と常に一緒に戦ってくれる仲間がいることに嬉しくなった。


「今すぐ守護の光をお使いください」


 その言葉の通り、俺は佑成に力を流す。

 溢れる光。光は俺の体を循環し、守護の力を纏う。


「先程折られた意志にすがる。……また、折れますよ?」

「折れてもいいのです。折れても、人は立ち上がれます。また作り出せます」


 ノアの言葉に被せるように、ポンコツが俺に伝えてくれる。

 俺が思って、すぐに怖くて忘れてしまったことを、ポンコツは再認識させてくれる。


 ポンコツの言う通りに纏った光が、体を覆い循環するにつれて、俺が感じていた恐怖を和らげていく。


 守護の光は、あの紫の光に対抗できる力なのかもしれない。


 ノアはいまだ怖い。

 でも、この流れる意志は、俺の心を励ましてくれる。


 頑張れ、と。


 俺の心を救ってくれる。


「立ち上がれたじゃないですか。今も、これからも立ち上がれますぞ」


 そうだ。

 一人じゃないから、折れてもいい。

 それを皆が、補ってくれて、また立ち上がればいいだけだ。


「意志は折れます。折れて当たり前なのです。でも、また。その意志は、忘れなければ……生きていればまた産まれ、立ち上がるために力を与えます」


 そうだ。また、立ち上がるために――



 ……

 …………

 ………………ん?



 ……なんか、おかしくないか?



「あなたは、そちら側につくのですね」

「ええ。つきますとも。彼には色々もらえましたからね」

「……反抗期ですか」

「いえいえ。反抗期なんてそんな……そんな素晴らしい人の感情は持ち合わせませんよ。持てたら人を理解できそうですが」


 ……ポンコツが、そんなこと、言うか?


「……まあ、いいでしょう。あなたは昔から少しおかしかったですから」


 ノアが牛刀にまた紫の光を纏いだす。

 昔、から?

 ポンコツとノアは知り合い……?


「昔からとは失礼な。忠実なしもべでしたよ」


 ポンコツの両掌てのひらから光が現れた。

 先程俺を救ってくれた光。ポンコツの光線レーザーだ。


 その光線はある一定の場所まで伸びるとじじじっと音を立てて固定化される。

 男のロマン、レーザーソードだ。

 ビームじゃないことが惜しい所だが、ビームの固定化は技術的に不可能だ。

 まるで、ライトセ――


しもべならしもべらしくしなさいな」


 ノアがポンコツに向けた牛刀から紫の光が飛んでくる。

 その光はポンコツを包むと、ポンコツが急に苦しみだした。


「あなたを、再教育しましょう。また私の子として動いてもらうために」


 再教育ということから、姫のようにノアはポンコツを蝕み、支配しようとしているようだ。

 苦しむように片膝を地面につけたポンコツを助けようと動く。


 でも、どうやって助ければいいのか。

 すでに紫の光はポンコツの体を包み込み、守護の光が対抗できるものとしても、その力で切り裂こうにも、切り裂くにはポンコツさえ切り裂いてしまうことになる。

 今の俺が紫の光に触れれば、恐らくは俺も同じように苦しむことになるのではないだろうか。

 そう思うと、触ることもできず、ただ近くでおろおろするだけになってしまった。


「……残念ですが、それは難しい」


 ポンコツがすくっと、紫の光を我が物としたかのように、まるで何もなかったかのように立ち上がった。

 その姿に、ノアも驚いたようだ。


「おかげでこの力を使うことができる。なかったので大変助かります。母からのプレゼントですかね?」

「あなた……」


 ポンコツは紫の光を自分のものとして使えるような発言をした。


 ……おかしい。

 やはり、このポンコツは何かおかしい。


 ナオか?

 まさかナオが何か細工したのか?

 こんな頼もしいポンコツ、見たことがない。


 ポンコツが笑顔を引き締め、ノアへと近づいていく。

 ノアは自分が放った紫の光を吸収されたことに、驚きを隠せないようだ。


「あなたの子も、進化しているのですよ。その姫と同じく」


 ポンコツがノアへ、ある一定の距離まで近づいたところで走り出した。

 レーザーソード男のロマンがノアを襲う。


 頭を狙った真っ二つにするかのような、上段からの鋭い右腕の振り下ろし。

 ノアは慌てて牛刀で受け止める。

 鍔迫り合いに、押し負けたノアがバックステップで離れる。

 そこに、踏み込んで追いかけるような追撃。

 左腕の突きがノアを追う。

 半身をずらすことで避け、自分の目の前に無防備な体を曝け出したポンコツの胴体に狙いを定め、ノアの牛刀が振り上げられる。


 ポンコツの右の手のひらからレーザーソードが消えていることに気づく。


 ノアの顔が、驚愕の表情を表す。

 そこから放たれる、ノアの顔面を狙う至近距離からの光線。

 紫の光がノアの顔面を覆い、レーザーとせめぎ合う。


 ポンコツの左腕がノアの胴体を狙う。

 薙ぎ払いがノアの体を切り裂くが、これも紫の光が切り裂かれることを阻止。

 だが、ぶつかった衝撃までは抑えきれなかったのか、重たい打撃音がして吹き飛ばされた。


 少し離れた所で地面に座り込むかのように尻もちをついたノアを、さらにポンコツが追撃する。


 両腕のレーザーソードがノアの顔面に振り下ろされる。


 ノアがすぐさま顔の前に牛刀を掲げ、両腕のレーザーソードと紫に輝く牛刀がぶつかり合う。

 体勢のためか力をうまく発揮できていないノアが力負けし、顔面に少しずつレーザーソードが近づいていく様に、ノアの顔も歪んでいく。


 後少し、という所でノアがにやっと笑顔を見せた。


「そう簡単に倒されませんよ」


 ノアが右腕をポンコツへ向けた。

 紫の光が、拳ほどの大きさの丸い弾となり、ポンコツの腹部に直撃する。


 ポンコツも先ほど手に入れた紫の光で腹部を守ったようだが、衝撃で吹き飛ばされ、俺の傍までごろごろと転げながら止まる。


「これは……厳しい。やはり性能差……」


 ぼそっと、俺の傍で呟くポンコツが立ち上がる。

 体にはどこにも異常はないようだが、第七世代と終末世代では力の差もあるようだ。

 確かに、両腕で全力で振り下ろしたのに、片手で抑え込まれていた。まだまだ姫の体には余力があるように見える。


「……なにが……」


 目の前で起きた戦いに、俺は圧倒されていた。

 ポンコツが、ノアとはいえ、姫とここまで戦える程に強いとは思ってもみなかった。


 ポンコツは、まだ敵だった頃に森林公園で戦ってはいる。あの時、俺は他のギアにぼろぼろにされ、戦える状況でもなかったし、ポンコツと実際戦ったのはナギだ。


 そう言えば、俺の体を使って戦ったナギがあそこで暴れた時に、生き残っている。

 絶機とも互角に戦い、あの時ナギが纏っていた紫の光にも対応できていた。

 そう考えると、とんでもない強さなのではないだろうか。


 なのに、いつもの変態的な行動がすべてをダメにしている……。



 ……いや、違う。


 誰だ、こいつ。

 まさか……こいつ、姫のように誰かに乗っ取られて……


「ポンコツ……? お前、誰だ?」

「ん?……そうだね。誰かと聞かれたら、答えるまでだね。いやぁ、ポンコツの真似をするのは新鮮だったよ」


 そう言うと、ポンコツはかっこいいポーズ?と思われる動きをして名乗る。


見た目からだはポンコツ! 頭脳は絶機ぜっき!」


 しゃきんっと音がなるほど、親指で自分を指さし、更に名乗る。


「『英知』の絶機! ポンコツナギ! ただいま参上っ!」


 ばぁーーんっ! と効果音が出そうな程に両腕をこれでもかと広げ、片膝ついてポーズをとるポンコツナギ。


「あなたは……馬鹿になりましたか? 『英知』」


 ノアと同じ印象を持つというのもどうかと思うのだが。


 ……ほんとだよ。

 ナギ……なにやってんだ、お前……


 でも、これで。

 俺の仲間が、また一人。

 俺と一緒に、戦ってくれる。


 それだけで、俺は、立ち直れる。


 また、怖くても、戦える。

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