02-21 掃討部隊の思惑


 町の復興作業は、半年経った今でも続いている。


 隣町だけでなく、俺の住んでいた町も合併して大都市とする壮大な計画なのだから、一向に作業は終わらない。

 これが成功すれば、世界的にも明るい話題となるのは間違いない。


 その一環としての掃討部隊の派遣だったが、到着して半年が経ってもまだ目処はたたない。


 辺りの安全は掃討部隊によって確認されてはいるが、住民はいまだギアに怯えながら暮らしていることも作業の遅延になっている。


 それはそうだ。


 安全だったはずの拡神柱が壊され、今は自分達の町さえ、いつ侵入されるかわからない状況なのだから。


 半年前。

 そんな住民達にとって、待ち焦がれた掃討部隊の到着。


 その部隊は、ギアの襲撃から一週間後に到着し、町中お祭り騒ぎになり、大いに盛り上がったと、聞いている。


 聞いている、というのは、弥生や町長さんに教えられたからであり、俺はその時そこにいなかったからだ。


 掃討部隊が、到着してすぐに今回の件を知り、ギアを倒した少年を戦力として迎えたいと言っていることを聞き、どさくさに紛れて逃げたから、お祭り騒ぎに参加できなかったわけで。


 せめて人具の制作者に面通しさせて欲しいという話もあったらしいが、町長さんがやんわり断ってくれた。


 いや、だって。

 それ、同一人物なんだから。

 どうあがいても部隊に組み込まれるのは間違いない。


 ちょっと考えすぎかなとも思ったが、後々にわかったことを考えると、当時、俺の状況、精神状態を考えて断って逃がしてくれた町長さんには感謝しかない。


 いや、もしかしたらこの時には、すでに町長さんはうっすらと感づいていた気もしなくもない。


 ただ、何を考えているのかはどうであれ、俺のことを守ってくる町長さんにはとにかく頭が上がらない。

 あの人を信じて本当によかったと思っている。


 イケメンだが既婚者だからナオを取られる心配もない。


 あ? 気になる?

 おめぇ……それまぢで言ってんのか?

 ぁあ? 四十過ぎたおっさんが中学生くらいの子に手ぇだしたらどうなるかわかってんだろうな。

 わかってる? 犯罪?

 ぁあ? ナオに手を出したらそれで済むと思ってんのか?


 海洋生物の餌にすんぞ。



 ……安心安全。それが町長さんだ。


 息子も俺に近しい年齢だし、奥さんともまだまだ仲もいいみたいだし、本当にいい人に巡りあったと思ってる。



 え? 息子の嫁に? 息子は格好いい? 歳が近い? 仲が良かった? ちょっと息子が気になってるみたい?


 ふざけんな。佑成の錆びにすんぞ。


 ナオが嫁にいくくらいなら俺がそいつの嫁になってやんよ。



 しかし、逃げたからと言って、気にされているのは変わらない。捜索が中止されるわけでもないし、掃討部隊自体には、相手が気になるように俺も実は気にはなっていた。


 俺が作った物以外の人具がみれるのではないかと、中には佑成以外の神具を持った人がいるのではないかと、当時は興奮した。


 それに、その神具や人具は父さんが作ったはずのもので、父さんの手掛かりもあるかもしれない。


 なので、少し落ち着いたときに隣町に足を運んだ。

 ナオに活気が戻った町を見せてやりたいと言うこともあったし、弥生や巫女に会いたかったのもある。


 ナオを弥生達に預けて町を堪能してもらっている間に、人の目に気を付けながら、掃討部隊を確認しにいった。


 ……が。


 その総勢百人の掃討部隊はあまりにも貧相な部隊だった。


 隣町に配備されている鉄の槍となんら変わらない槍や、簡単に折れそうな日本刀、西洋風の剣。

 そんな、ギアに向けてもまったく傷をつけれそうもない武器で武装した部隊。


 人が多くなっただけで、ギアには対抗できそうにもない。


 それが、今の世界的縮図なのだと再確認した。


 この、よく見る鉄の槍達が、爺が言っていた神具の量産の量産だということも知った。


 多分だが、鉄や鋼でできた、普通の材質の武器だ。それ自体が悪い出来とかそう言う意味ではない。

 むしろ、人具とは違うので、丹精込めて職人が作ってくれているものなんだろう。


 人に対してはかなりの脅威であり、それがもしこちらに向けられるとすると恐怖以外の何者でもない。


 ギアがどんな材質で出来ているのかは不明だが、恐らくはそれ等以上の材質で出来ているのだろう。

 だから、傷もつけられない。倒せない。ということなのかもしれない。


 もしかしたらギアを材料として人具を作ればかなりいいものが作れるんではないだろうか。

 今度試してみたいと思った。


 掃討部隊と言うからには、ギアと戦うプロフェッショナルなんだろうとも思っていた。

 なのに、目の前にいる部隊の一人一人を見ていくと、そこまで歴戦の戦士に見えない。

 ガラの悪いチンピラみたいな風貌の輩。

 それが武器を携帯しているのだから、威圧感しか感じなかった。


 人具を手に入れた二人も、俺が感じた掃討部隊に対する頼りなさには同意見で、更に俺が隣町から離れた後に掃討部隊について調べ、町の確保ともう一つの思惑があることに辿り着いた。


 人具の接収と、製作者の拉致、及び製造技術の盗難がメインの目的だったようだ。


 だからこその、面通し。


 何か背後に大きな物があり、それの陰謀や思惑に巻き込まれている。


 なるほど。

 これが父さんが行方を眩ましている理由なのかもしれない。


 だとしたら、爺が言っていた、「それを起こした何かしらは、大罪人」という言葉は、それ等に対しての言葉だったのかもしれない。


 更には、父さんが小さい頃の記憶で言っていた「連れていかれる」という意味も、ここにかかっている気がする。


 母さんの、「吹き飛ばす」発言が懐かしい。いっそのこと、吹き飛ばしてくれていればよかったのに。


 大きな思惑と、物干三人組が起こした厄介事に、俺は俺の意思とは関係なく自分が窮地に立たされていることを知った。


 隣町は活気づいてはいたが、それに伴い、少し治安が悪くなったと町長さんから聞いている。


 やはり、町から出たのは正解で、早く俺の唯一の伝手にたどり着くべきだと思った。

 町長さんにはその辺りを伝え、半年が経って、連絡が着いたと話をもらっている。


 ついに、会うことが出来る。


 何だかどんどんときな臭くなってきた俺の周りに、救いと、停滞していた家族探しが進展しそうな気がしてきていた。


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