02-15 隣町へ帰ろう


 一本の棍を作り上げてから数分後。

 色々考えることはあったし、分からないことだらけだったが、まずは色んな人具を作ってみることにした。

 この家に戻ってきた理由も人具を作るためだし、俺も試してみたかった。


 近くの半壊した家屋から少しばかり物資を拝借する。


 いや。返せる予定もないから拝借は少し違うか。

 出来上がったら返せる代物でもないし、変化しすぎている。

 まあ、持ち主が戻ってきても、外はぼろぼろな有り様だ。物干し竿一本や二本なくなってても気にならないレベルだ。


 ……いや、竿だけ二本なくなってたら流石に気になるか?

 

 そんなことを気にしてたら始まらないので、先に作った物干し竿や転がっていた木材を運び込み試してみた。


 神鉱が発熱するような動きをすることから、木材は燃えるんじゃないかとドキドキしながら、くり貫いた穴に神鉱を詰め込み力を流すと、物干し竿のときのように溶解するような動きを見せ、完成を現すかのように光り輝く。



 光が収まると、硬そうな、成分が何でできているのかわからない槍が手元に握られていた。

 先端に、破損した尖ったプラスチックの塊をつけていたせいだろうか。

 原理はよくわからないが、ゲームみたいに素材を付け加えると別の物になるようでなんだか面白くなってきた。


 ……が。


 そのお楽しみは5回続いてふいに終わりを告げた。

 急に神鉱が反応しなくなったのだ。


 神鉱が少なかったのかと思い色々試してみる。

 ぎりぎりまで詰め込む。逆に少なくしてみる。極端に減らしてみる。筒を短くする長くする。


 ……まったく反応しなかった。


 石を粉々に砕く作業がどれだけ辛いか、一人寂しくごりごりとする作業がどれだけ寂しいと思っているのかと憤ってみる。悲しんでみる。


 まさか力がなくなったのかと思い、佑成を握りしめて発動させてみると反応が返ってきた。

 どうやら、佑成の起動には影響はないようだ。作成した人具も同じく反応はある。


 一日に制限があるのかと思ったが、日付を確認するとすでに三日経っていた。

 制限があるわけでもないということはわかったが、のめり込みすぎて時間が経ちすぎていたことに今更気づいた。



 まずい。

 直の面倒を見てもらっている町長さんに何日いないかとか伝えてないし、直が俺がいないことで大泣きしていそうだ。

 当初から一日程度と考えていたからまさかこんなに時間が経っているとは思ってもみなかった。


 流石に自分の家庭のことで迷惑をかけるわけにもいかない。

 すぐに作りたての人具を持ち運ぶ準備をする。


 この家に次来るのはいつ頃になるだろうかと、寂しさを覚えた。

 自分の家なのに何でこんな思いをしなくてはならないのか不思議だった。


 ギアが人を襲いだしたせいであり、ギアを作った人のせいではあるが、こんな状況になるまで争い続けているのもどうかしている。

 対抗する手段があるにも関わらず、それが常に供給されると思って使い捨ててきたのも問題だ。

 だが、問題があったからこその今であり、改善するために協力して生きていく。


 少しずつだが、隣町で町長さんを見て、隣同士との強調や助け合いが必要不可欠なんだと分かってきた。


 俺一人で何でもできるわけでもない。

 一人が皆のために協力しあうことで人は凶悪なギアと戦える。

 その中で、俺の役目はギアを倒すための人具を作ること。

 人具を渡すことで助けになれば俺も嬉しいことこの上ない。


 戻ったら皆とも仲良くしよう。

 輪を広げていけばもしかしたら家族の行方もわかるかもしれない。


 少しずつではあるが、俺が知らないこの状況、分からない情勢に希望が見えてきた。


 持参してきたリュックに作ったばかりの人具を詰め込む。


 急いで帰らないと。

 ……とも思ったが、今更早かろうが遅かろうが、あまり変わらないことに気づいた。

 今は、少しくらいは自分の家にいたい気持ちがあったのも確かだ。


 入りきるわけもないためリュックの入り口から五本の棒が飛び出している。


 三つの棍と二つの槍。


 形がまったく一緒な三本の赤い棍。赤いと言っても鈍い赤色で禍々しさが漂っているように見えるのはなぜだろうか。

 神鉱には様々な色があったが、色によって出来上がりの着色が変わるなら今度は赤を少し減らしてみよう。


 槍の一本は気持ち程度に先端に穂が付いている、どこぞの衛兵や門番が持っていそうな素槍だが、もう一本は会心の両鎌槍だ。


 十字に伸びる切っ先のあまりの出来に振り回して格好つけたら家の柱に突き刺さって抜けなくなるほど自分の中ではいい出来だと感じている。


 これにその辺りに落ちていた、ぼろぼろの赤い紐を穂の付け根――けら首に巻き付ければ、妙に気配漂う槍の出来上がりだ。


 ただ、棒は元は物干し竿だし、穂はアルミホイルをそれとなく丸めただけだが。

 気にしたら負けだ。


 背負ってみるとそこまで重くはない。

 姿見鏡で背負った自分をみてみる。

 背中から生えた五本の心強い棒が、一騎当千の武将のように俺を奮い立たせた。


 今なら、どんなギアが来ても負けなさそうだ。


 後は帰るまでにリュックが破れなければ問題ないのだが。


「さてと……あれ?」


 自分が映る姿見に違和感を感じた。

 茶髪から黒髪になったことはもう見慣れたので気にならないし、以前のように真っ裸なわけでもない。今なら鏡の前で仁王立ちだってできる。


「ピアス……こんな色、だったか?」


 右耳に毎日つけている、実の母親の形見と言われたピアスの色が変わっていた。


 前は鮮やかな青色。目を覚ましたら灰色。今は光も反射しないと思えるような黒に変わっていた。


 右手でピアスに触れてみる。

 いつもみたいにぴんっとデコピンをかましてみると、澄んだ音を鳴らしていたピアスは鈍い音を残してして軽く揺れる。

 だが、その触れた指に違和感を感じた。


「これ、まさか……」


 ピアスを右手でぎゅっと握りしめる。

 右手から急激に吸いとられるような感触を感じた。

 この感触は感じたことがある。


 佑成を起動するときや、人具に力を流した時に感じる、あのギアと戦うための力だ。


 一通り吸いとられるような、それでいて跳ね返るようにこちらに戻ってきて循環される力を堪能してからピアスから手を離してみると、ピアスの色に少しの青みが戻っていた。


「これ、佑成と一緒だ……」


 材質はなにかは分からないが、俺の中にある力を吸収し、増幅し、循環させてくれる奇妙な物。


 佑成を起動させなくても力が溢れてくる。

 しかし、その力は、ピアスの色がまた色を変えると終わりを迎えた。


「力を溜めておけるとか、そんな感じか?」


 これは使える。

 鎖姫との戦いの時に力の恩恵が切れて死にかけたが、これがあれば佑成を手離してしまってしまっても少しは戦えるし、いざとなったら逃げることもできる。


 もっとも、最終手段ではあるが。

 それに、佑成を手離して逃げる気もない。

 俺を助けてくれた相棒だし、昔から使ってた包丁とも同じ名前だ。

 何だかかなり昔から一緒にいた気さえしている。


「これからもよろしくな、佑成」


 佑成に感謝の気持ちを伝えると、佑成が怪しく光った気がした。


 ただ、光が反射しただけだが。



 今度こそ、改めて我が家から隣町へと帰るため一階へと降りていく。


 隣町へ帰る。ではなく、隣町から我が家へ帰る。


 次にここに来るときはそうなっていればいいし、家族の誰かが見つかって一緒に戻ってこれるならなおいい。

 また戻るときは直も一緒に連れてこよう。


 そう思いながら、玄関で慣れ親しんだ我が家を目に焼き付けるように見つめる。


 そして、玄関から外へと。



「………俺が家に来る度に鳴るのかあれは」


 遥か遠くで警報の音が聞こえた。


 ギアが、近くにいる。

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