01-07 夢の中のストーカー 1
時間と言うものは案外早く過ぎるものだ。気づけば、今日の全ての授業が終わっていた。
もう少しで俺は手紙を読み終わる。授業を無視して常に読み続けた結果だ。
褒めてほしいが、これから返事を返さなきゃいけないのが億劫でしょうがない。
最後の手紙は半分以上読み終わったので苦行とも言える文字との戦いは終わりを迎えそうだが、まだまだやらなきゃいけないことは残っている。
「……いっそのこと、焼却炉の中に突っ込むか……」
などなど、何度この手紙達の抹殺方法を考えては思い止まったことか……。
結局それを行ったところで本人が向かってくるだろうからなおさら難易度が高くなるのは目に見えている。
「……俺も神夜のことは言えないな……」
思えば、俺もこうやって告白されたりしてるわけだから、リア充といえばそうなのか。
ちょっと、すべてを悟ってしまい――いや、中二病のように――ふっと、黄昏ているかのように鼻で笑ってしまった。
「お兄ちゃん」
面倒な終礼が終わり、席に座って手紙を読み始めた俺に、碧が声をかけてくる。
巫女と暴飲暴食をしてぶくぶくと太ってないようで何よりです。
――なんて言おうもんなら、間違いなく拗ねるだろう。いや拗ねるだけで済めばいいが。
……というか、俺はなんでこんなことを考えてしまったんだろう……。
なんだろう、手紙を読み続けて疲れているのか、実は休みたいがために食堂に行って美味しいものを食べていた碧に嫉妬しているのだろうか。
「早く帰ろう?」
「ああ、ちょっと待ってな」
そういえば、甘いものが食べたくてしょうがない。帰りにどこかに碧と寄っていくかと考え、そそくさと手紙をしまおうと――
「……何読んでるの?」
「お、おい……」
――したところで、碧に俺が読んでいた手紙を取り上げる。
「……お兄ちゃん。モテるんだぁ……」
「……何怒ってるんだよ」
「怒ってないもん」
ぷくっと頬を膨らませて怒り、教室からいこうとする。
え、結局言わなくても怒ってるのはなぜだ。
「碧、待てよ!」
「あっ、凪。帰るのか?」
碧を追いかけようと教室から出ようとしたところで神夜に声をかけられた。
俺と同じく手紙を読んでいたらしく、自分の席で眠たそうに座っている。
毎日のように授業中は眠りについているような奴だ。世界で俺の次に眠たい度の高い奴だろう。俺も毎日寝てるような奴の一人なので正直眠い。
「ああ、またな!」
「おう! 結果楽しみにしてる!」
その言葉に足が止まる。
「お前は……何を期待してるんだ……」
「いや、そろそろお前もなんだかんだで。な」
「なにが……「な」なんだよ……」
呆れながらひらひらと手を振る神夜に挨拶をして教室を出るとすぐに碧に追いつくことができた。
待ってくれていたのだろう。
「お兄ちゃん、結果ってなに?」
「なんだ、聞いていたのか」
そっけなく答えてみるが内心かなり焦った。
「結果を楽しみにしてろって意味だ。ほら、その……」
「?」
「クリスマス、だろ? 神夜と巫女が、その、な」
「っ! え、ちょっと……わぁ……」
神夜、すまん。
階段を降りながらなにを想像してるのか、碧はぼんっと赤くなってぼーっとしたり考え込んだと思ったらまた顔を赤くしたりと百面相をしている。
そんな碧を見て、俺は手紙の返信に対してとんでもない解決方法を思い付いた。
そうだ。なんでこんなことにすぐに気づかなかったんだ。
手紙を読んだ相手からその時に結果が欲しいと思う生徒もいるであろう。
であれば、それを目の前で結果を見せればいいわけだ。
いつも帰っている碧のことを義妹とは思っていない下級生もいるはずだ。
幸い、同級生からそういうのはない。
特に碧は今年転入している。おそらく仲のいい女友達と帰っていると思われていてもおかしくない。
碧に、恋人の振りをしてもらえばいいんだ。
ただ、これは、神夜や巫女の筋書き通りになりそうで、極力やりたくはないという想いもあるのだが、校門を出るまででもかなり効果的だろう。
そんなこんなで3Fにあった教室から階段を降りて昇降口までたどり着いた。
「てなわけで、な。碧にちょっと頼みがあって……」
と、いって、碧にお願いしようと考え、流れで伝えようと碧に伝えようとしたところで言葉に詰まってしまった。
「お兄ちゃん?」
「えっとな……」
さて、いざお願いしようとするものの、言葉がでない。
立ち止まってしまい、少し前を歩いていた碧が振り返る。
じっと見つめると碧は少し不安そうに同じように見つめ返してくる。
勇気がいる。そのことに気づくべきだった。
不安そうに揺れながらもじっと見つめるその瞳。先ほどの神夜と巫女の話のせいかその瞳は潤んでいるようにも見える。つついてみたらふにっとした柔らかい弾力であろう頬も少し赤く火照っているように見える。
恋人。
そのキーワードに、あの時感じてしまった碧の感触を、あの柔らかさをもう一度味わいたいとも思ってしまう自分がいる。
恋人ならあの感触を何度でも味わうことができるのだろうか。
癖なのか、胸の前で手をぎゅっと握りしめるその姿に、可愛いと感じてしまうが、それよりも今すぐ抱きしめたい衝動に駆られた。
いっそのこと、本当にできればどれだけ歓喜なことか。
じっとしていると、普段元気にはしゃぐ可愛さより、綺麗さが際立つ。
ああ、やっぱり、俺は碧のことが好きなんだなと再確認してしまう。
こういうのが、告白するときに感じるドキドキ感なんだろうか、と思わず考えてしまった。
「なぁに? お兄ちゃん」
「ごめん。ちょっと言いづらい」
「? 変なお兄ちゃん」
身構えていたのか、碧もほっとしたような表情を浮かべた。
時期が時期だから、そういう意識は少なからずあるのだろうか。
俺に対してもそういう意識が少なからず碧にあるのであれば嬉しい。
「お兄ちゃん、今日はクリスマスイブです」
「うん?」
少し呆れたようなため息をつき、碧はそう切り出してくる。
「お兄ちゃんは手紙をたくさんもらってました」
おそらく手紙を表現しているのか、宙に両手の指を一本ずつ立て、四角をなぞる動作を繰り返すことで「たくさん」を表現しているようだ。
「ああ、もらってた」
「出待ちが多そうです」
出待ちという部分で隠れている表現なのか両方の手のひらで顔を隠した後、ひょこっと顔を出す。
「お、おぅ……」
なんだろう。さっきまで綺麗だと思っていたのにそんな動きをされると小動物? いや、なんか、残念な子に見えてきた。
「さて、お兄ちゃんは、それを切り抜けることができるのかなぁ?」
なんだろう。あれかな? よくデキるお姉さんを気取っているのか? それにしては少しずれた動きのような気がする。
「……できません」
その言葉を聞いた碧がずいっと前に出てくる。
勢いよく近づいてきたので顔が近い近い。
「じゃあ、ボクがお兄ちゃんの恋人になってあげます」
少し照れながらそんな爆弾発言をした後、やっと至近距離にお互いの顔があったことに気づいたのか、慌てて少し離れる碧。
「……え?」
「お兄ちゃん! 手、つなごっ!」
声としては勢いがあるのだが、言葉とは違って、遠慮気味に握手をするように手が俺の前に差し出される。
碧が必死に俺のために何かしてくれようとしてくれている。
ただ、やっぱり勇気を出して俺からいうべきだったなとも思う。
そんな碧の顔を見ると、やっぱり恥ずかしかったのか、俯いていた。
碧が今どんな表情をしているのか、無性に見たかったが、さすがにこの状態で待たせるのも悪い。
碧の手に触れると少し冷たかった。その手を温めてやりたくなって優しく握りしめる。
「ありがとな、碧」
「……うんっ 無事お兄ちゃんが校門を抜けれますよーに」
会った時とおなじように嬉しそうな笑顔を見せてくれる碧がとても愛おしい。
碧のことをちゃんと恋人としてみてくれますように。
むしろ、俺は恋人のままでいいんだけど。
そう思いながら、碧の笑顔に笑顔で返しながら岐路に着く。
そんな考えを少しでも浮かべたのが悪かったのだろうか。
それとも、本当に願ってしまったのがダメだったのだろうか。
とすっ
歩き始めて数歩のところで、そんな音を俺の耳が拾った。
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