01-06 夢の中のプレゼント
12月22日。
まもなく、恋人同士にとってはいろんなイベントが待つクリスマスイブだ。
なのに、何を思ったか、俺は男と二人、カップルがいちゃつく街中を歩いている。
「なあ、神夜」
「なんだ凪」
「……俺らもいちゃつく?」
「いちゃついちゃう?」
と思わず周りの空気に流されて手なんか繋ごうかとか。
そんなこと絶対するわけもなく。
神夜が恋人である巫女にクリスマスのデートで渡すはずだったプレゼントを見事に買い忘れたがために巻き込まれただけだ。
「巫女のプレゼントはどんなのにするんだ?」
地域でもっとも大きいショッピングモールで手ごろな店に入って目の前に並んだジュエリー品を手に取りながら聞いてみる。
値段を見ると買えないほどの値段ではないが、貯めていた小遣いがなくなりそうなレベルの値段だった。
自分が買うのなら少し考えるが、神夜に勧める分にはいくらでも勧められるだろう。自分の懐は痛まないわけだからいくらでも勧められる。
とはいえ、「これなんてどうだ?」と渡すのにも勇気がいる。
こういうところはカップルが多い。学生が多い分比率は高いかもしれない。
学生はお金もそんなないからな。
「ん? あ~・・・・・・まあ、イヤリングとかネックレスとか」
「無難なところといえば無難なところか」
「むしろ、凪が巫女に何かあげるとしたら何をあげたいと思う?」
「俺が?」
「いや、実はな。巫女から凪にプレゼント買わせろってうるさくてな」
言ってる意味がさっぱりだ。何でクリスマスに自分の恋人でもない女性にプレゼントをあげるのか。
巫女だからいつもお世話になっているお礼といってあげる感じを所望してきているのだろうか。
「まあ、つまり、とっくにあいつに内緒で渡すプレゼントは俺は購入してるわけで、買い忘れたとかは嘘なわけだ」
「いや、だからなんで俺が巫女にプレゼントを?」
「巫女にじゃなく、碧ちゃんに、だな」
「げ」
そこで神夜がにやぁっと笑い出す。
「まあ、いつもお世話になってるわけだし? プレゼントくらいは、な~?」
「ぐっ……お前、どこまで聞いた」
「え~? なにも~? ただ、つい最近抱き着かれてお互いにあたふたしてたくらいかね~?」
「なんかすげぇ重要なところが抜けて変な感じに伝わってねぇか!?」
神夜に先日の出来事を巫女経由で知られた。
これは、これからかなり弄られることは間違いないだろう。
「まあ……それだけじゃなくて、碧ちゃん、最近ちょっと変なのにまとわりつかれて疲れてるみたいだしな」
「? 変なの?」
まるで伏線のようにぼそっと言ってきた神夜の言葉に聞き返す。
碧、疲れてるのか。
だったら、少しは考えてもいいか、と思わず思ってしまったのがこいつの罠だったわけで。
「疲れてるところに大好きなお兄ちゃんからプレゼントでももらったら嬉しいだろうな~」
「お前……」
そう、どちらにしても、俺がプレゼントを購入することは免れないってことだ。
・・
・・・
・・・・
「神夜」
学校での休み時間。俺は、ものすごく難しい顔で四角形の紙を見つめている神夜に話しかける。
「……ああ、凪か」
「相変わらずのモテっぷりお疲れ」
神夜は今、下駄箱に入っていた、明らかに女子が置いていったであろう手紙を読んでいる。
この時期になると、下級生からの手紙が入ることがあるが、神夜は律儀に必ず目を通すようにしている。
「お前は机の中にいくつ入ってた?」
読み終わった手紙をこれまたピンク色の便箋に入れながら疲れた顔で聞いてくる。
「んあ?……まあ、な」
「数が多いと辛いな」
いや、その一言はもらえない男子から恨まれるから止めておけ、リア充が。
「ほとんどが下級生からだったけど……ま、一応一つずつ読んでるんだけどな……」
「入ってるんだから一つ一つ読んでやらないとなぁ……凪も大変だな」
少なからず俺は結構流し読みだ。
全部しっかりと読むとかそういうマメな所がモテる秘訣なんだろう。
とは言え、俺と神夜では大きな違いがある。
恋人がいるか、いないかだ。
「まー、大変だな」
神夜の疲れた声に無言で頷き、二人揃ってため息をつく。
この時期の神夜のなにが大変かというと、巫女の存在だ。
当たり前ではあるが、恋人がいるにも関わらず告白されるわ、手紙は入るわ、おまけに律儀に返答するわで、巫女は常に怒りのオーラを放っている。
そんな巫女は碧と一緒に軽いやけ食い中だったりもする。
なぜ碧もやけ食いしてるのかはいまいちわからないが、巫女の怒りのオーラに当てられているのだろう。
――いや、違うな。ただ食堂の甘いものを食べたいだけだな。
この中学校はなぜ食堂があんなにも充実しているのかと思うほど、食堂に力が入っている。
給食がない学校のため、昼食は食堂で食べる学生も多い。食堂に併設している売店にも様々な甘味も売っている。それらを碧が食堂で友達と一緒によく食べているところをみる。
ちょうど巫女という暴食者がいるからこそ気兼ねなく食べれるのだろう。
考えがそれていったが、そう言うしっかりと相手のことを考えて行動する神夜だからこそ巫女は好きなのであり、なんだかんだでモテてる神夜を見るのも嬉しそうでもある。
もっとも、それは俺が昔から見た客観的な話なだけで、内心はかなりぐちゃぐちゃなんだろうとは思うが。
というか、神夜が自分から離れないだろうと核心してるからそういう態度で終われるのだろう。
だって、神夜、巫女が知らないこと以上にベタ惚れだし。
どんだけ仲もったか、どんだけ巫女のことで喧嘩しあったかなんか数えきれないわけで。
「あ、そいや、碧ちゃん、大丈夫なのか?」
「? 何が?」
まさか、プレゼントするとかそういう話をぶり返す気か。
「いや、なんか、聞いた話によると、ちょーっと変なやつらに絡まれてるとか聞いたから」
「? 初耳だな」
先日の含みに関連しているのだろうか。
こういう時期だからそういう声がかかるのも仕方ないとは思う。
俺も少なからずは告白されたりしてるし。
神夜とは違って恋人いないから返事とか困るんだよな。
いきなり下級生から告白されても知らないから回答に困るし、恋人いるからとか言って返せないし。
嬉しくはあるが。
「いや、告白っていうか、脅迫みたいな。ストーカーみたいな?」
「……どういうことだ?」
「帰りは凪と帰ってるから安全みたいだけど、いない時はちょっかいかけられてるみたいだぜ。巫女がよく一緒にいるからさほど強くは来ないみたいだけど、いない時に何度か手掴まれてどこか連れてかれそうになってたところを数人で助けたこともあるみたいだし」
「それは……本当に初耳だな」
碧とよく行動はともにしているがそんな素振りは見たことがない。
何度か悲しそうな顔をしていることはあったが、聞いても答えてくれなかった。
もし、今の話が本当なのであれば、俺を頼ってくれればよかったのに。
いや、家に心配かけないよう伝えてなかったのか……?
「本当に聞いてなかったんだな。だから最近、無月が結構そばにいたんだけど」
「あー……確かに最近よく一緒にいるところみるな」
巫女と神夜と同じく、俺のもう一人の幼馴染だ。
両目の下に均等に泣きぼくろがあるのが特徴的で、いつも髪の手入れをしていないのか、ぼさっとした髪型をした、つかみどころのない男だ。
あいつを語るとしたら、飄々とした忍者という言葉がよく似合う。
神夜といい、無月といい、特殊な能力がある妙なやつがなんで俺の周りにいるのかと昔はよく思ったものだ。
この二人の能力のおかげで、俺は小さい頃はよく喧嘩しても負けたもんだ。
こいつらに勝つために色々考えてたら、もう負けることはなくなったけど。
ただ、最近よく碧と仲良く話しているところを目撃されて、周りから付き合っているんじゃないかと噂されてた。
碧から無月の話が全然出てこないので、付き合ってることはないだろうし、無月は碧と付き合うことは絶対にない。
無月といい、神夜といい、なぜか俺には自分の恋愛事情を報告してくる癖がある。聞きたくもないのに必ず現状を報告してくる。
だから、無月は碧と付き合っていないということは絶対だ。もし付き合ってるとしたら無月が絶対に俺に報告してくる。そういう報告がないってことはつまりそういうことなんだろう。
「その情報も無月情報か」
「そゆこと」
昔から気づいたらそこにいるみたいな感じで、忍者のような動きをよくしていたためか、気づいたら本当に忍者のように――にんにん言うこともあるが――情報を集めることも上手い。
「初めて聞いたのならしょうがないけど、お前もできるだけ近くにいてやれよ? 碧ちゃんにプレゼントするんだろ?」
「お前……ここでその話をぶち込んでくるのか……」
本当にどれだけ危険な状態なのかはわからないが、どこかに連れていこうする暴挙をする奴がこの学校にいたということが危なすぎる。
ただ、碧が俺を頼ってくれなかったのは少し寂しかった。
今日はできるだけ早めに一緒に家に帰ってやろう。
そう思いながら、変なフラグを立ててきた意地の悪い笑顔を浮かべる神夜の顔に知らない後輩のラブレターを叩きつけてやった。
そんなリア充野郎は手紙を読むという苦行に苦しむといいさっ。
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