Act.7-2 アブない奴ら

「そろそろ作戦会議の時間だ」

 1週間ぶりの桔梗庵。5人が集まった部屋で、調さんが時計を見た。


 夜の23時を回り、テレビでは土曜日らしくこの1週間のニュースがまとめられている。といっても、誰も画面を見ていない。静かな空間を紛らわせるためにつけられた、生放送のBGM。


 温泉には入ったものの、玲司さんとふざけ合うこともなかった。部屋に集まっても、ボードゲームもカードゲームもジンジャーエールでの宴会もなく、思い思いに柔軟運動をしたり、本を読んだり。

 ピリピリはしていないけど、全員の緊張が肌を刺し合い、喉が渇く空間だった。



「作戦会議、の前にだ」


 中央の長机に集まった僕達に向かって、調さんがわざとらしく「オホン」と咳込んだ。


「ワタシはこのチームのマスコットキャラクターを考えてみたぞ」

 …………はい?


「灰島が入ってくれたきっかけがキリンのキーホルダーだったからな。あれはワタシが初めて行った動物園で買った大事なものだし、『初心忘るべからず』ってことでキリンをモチーフにしてみた」

 急で突飛な話に動揺する4人を気にせず、彼女は紙を広げた。


「……ぶっ! ぶははははは! 調先輩! これ、これ何ですか!」

「キリンじゃないぞよ! なんか別の生き物ぞよ! だははっ!」

「湯之枝さん、ちゃんと見て描きました? ふふっ」

「あははははっ! この足! どうやって走るんですかこれ!」

 爆笑に包まれた部屋で調さんが口を尖らせる。


「そんなに笑わなくてもいいじゃないか、まったく。不器用なりに描いたんだぞ。まあいい、これは後で誰かに描いてもらうとして、と」


 紙をしまう前に、緋色さんが「もう一度見せてください!」と言ってまた大笑いする。

 みんななんとなく分かっていた。こういう空気を打破するために準備したんだろうな。さすが部長だ。



「では改めて、作戦会議を始める!」

「はい!」

 緊張が解けた僕達は、いつも通り大声で返事した。


「館内マップは前回と一緒です。シーバーの中継器ですが、前回少し低層階の電波が弱かったので、少しフロアを下げます。2階の観葉植物鉢の裏、それと5階の客室通路、柱の窪みに設置してます」

「時雲、メディック戦では味方の位置把握も重要だ。いつも通り『脳内俯瞰トイガーデン』頼むぞ」

「分かりました」

 一呼吸おいてから、調さんが真っ直ぐに緋色さんを見る。


「うちのメディックは古桑にする。アクロバティックに攻撃躱しながら、他の3人を復活させてやれ」

「承知しました! メディック古桑、精一杯頑張らせて頂きます!」


 敬礼する緋色さん。メディック古桑って響き、なんか面白いな。マンション名とかクリニックみたいだ。クリニック……ちんまり巨乳の女医さん、悪くない……。


「爽斗、メディック古桑って響きがクリニックっぽいからって、女医になった桑の白衣にトマトを絞って『メチャクチャにしてやるよ』って囁く妄想はいただけないな」

「既に白衣がメチャクチャになってますけど」

 あと女医までは合ってるんですけど! 僕の妄想に肉薄しないでください!



「ふははっ、男子2人は相変わらずだな! 敵のメディックだが、正直予想がつかない。1人1人潰していって、メディックだったらラッキーというところだ」


 そして最初の陣形を確認しておく。いつもと同じように、雪葉さんは1階、調さんは6階から7階の高層階付近で、他の3人は状況を見ながら中層階を動く。


梓沢あずさわと公式戦で戦うのは初めてだ。どんな技があるか分からない、気を引き締めていくぞ」

「あの、調さん」

「どうした、灰島」

 ずっと気になってたことを口にする。


「その、烏丸は準決勝で戦ったんですよね? 隆司さんとかに聞けば、敵の技とか教えてもらえて戦いやすくなるんじゃないですか?」

 僕のその質問に、彼女は純粋に「何を言ってるんだ?」という表情で首を傾げる。


「それをやったら面白くないだろう?」

 2年生の3人も、笑いながら深く頷く。

 ああ、そっか。そうだよな。


「ですね、面白くないですね! すみませんでした!」

 そうそう、楽しくやりたいもんな。


「おっと、敵のお出ましだ」

 呼び鈴が鳴り、雪葉さんが鍵を開けに行く。この前会った桐ヶ谷きりがや橙利とうりさんを先頭に、梓沢高校の5人が入ってきた。


「やあ、トーリ。待ってたぞ」

「こんばんは、シーラ。今日はよろしくね」


 綺麗にウェーブした黒髪の橙利さんが、ケホケホと軽く咳をしながら挨拶する。予選は体調不良で休んだって話だし、体がそんなに強くないのかな。


「こっちのメンバーを紹介するよ」

 後ろの4人が一列に並んだ。



 3年生は2人。大将の橙利さんと、かなり小柄な女子の吉野さん。吉野さんは真っ赤なショートヘアで、勝ち気な性格が髪にも顔にも出ていた。


 あとの3人は全員2年生。

 男子の唐実さんは長身のうえに黒髪で両目が隠れている。無表情なので、ある意味扉さんよりも不気味だ。


 もう1人の男子、大山さんは、一見細身に見えるものの腕も足も筋肉質。髪も黒髪のスポーツ刈りで、しっかりとした体育会系。


 なぜか箒を持っている女子の八重さんは女子にしては大分身長が高い。でもそれ以上に目立つのは髪で、ビックリするほど真っ白なロングは、人間らしからぬ印象すらある。



「では、掛戸自慢のメンバーを紹介させてもらおう」

 そして僕達の紹介が終わり、試合ルールの確認。


「大将とメディック以外の3人が1回目にやられた場合、その場に伏せる。メディックに助けを求めることができるけど、今回は復活できるのは1回だけで、2回目にやられたらアウト。助けを呼ばなくてもいいけど、アウト扱いになって部屋に戻ることはできないから、ずっと床に伏せたままでいること。これでいいね?」

「ああ、構わない」


 メディック本人がやられたら、伏せて待ってた人も一斉にアウトになるんだったな。


「よし、じゃあ0時から開戦で」

「トーリ」

 頷きながら、彼女はまっすぐに敵将を指した。


「勝たせてもらうぞ」

 少し咳込んだ後、橙利さんは小さく首を振る。


「シーラは強いけど、負けてあげるわけにはいかないよ」

「ワタシだけじゃない」

 上半身に衝撃が走る。部長が、1人1人の肩を順番にパァンと叩いた。


「このチームで勝つ」

「……楽しみにしてる」

 固い握手を交わし、敵の5人は部屋を出て行った。


「ゆーのさん、今のカッコよかったぞよ!」

「俺もシビれました! 調先輩、チームで勝ちましょう!」

「はい、枕配るわよ。2つずつ取って行って」

「トランシーバー、グループは8、チャンネルは16でいきます!」

「ようしっ、いこういこう!」


 戦闘準備しながら、ワイワイ騒ぐ。ああ、温泉旅行って楽しいなあ。



「よし、円陣組むぞ!」

 調さんの掛け声で、全員が丸くなる。


「悔いは残すな。いつも通り、楽しんでいこう! 枕に風を! 枕に牙を! 掛戸、ファイトーッ!」

「オーッ!」


 5人、高らかに手を掲げる。遠くから見たら、きっと花が咲いたよう。


 

 花、花……ああ、そうか。梓沢のメンバーの名前、どこかで聞いたことあると思ったんだ。

 大山桜、カラミザクラ、八重桜、ソメイヨシノ、桐ヶ谷桜……敵の5人、みんな桜の名前だ。

 梓沢の桜を散らして、掛戸がサクラサク。ふふ、出来過ぎだな。



 勝利を誓ったその手で、床に置いた枕を掴む。


「よし、開戦までもう少しだ! 持ち場に行くぞ!」

「待機完了したら各自シーバーで連絡!」

「緋色ちゃん、やられちゃったら呼ぶけど、敵倒すの優先してね」

「おういえ! ひぃに任せておいて! 1人も逃さないぞよ!」



 温泉浴衣に裸足、内側のポケットにはトランシーバー、片耳にイヤホン、両手に枕。


 いつも通りアブない格好のアブない5人が、いつも通り弾丸のように部屋を飛び出した。

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