第5部 VS 雛森高校

Act.5-1 戦争の幕開け

「さて、今日の相手は雛森だ」

 桔梗苑の805号室、男子部屋。女子3人も交えて柿の種を食べながら人生ゲームをしていると、調さんが話し始めた。


「おお、もうこんな時間か!」

 自動車事故の支払をしながら、緋色さんが髪をふわっと揺らして時計を見る。時計は既に、日曜になる40分前、23時20分を指していた。


「よし、じゃあここまでの金額で俺の勝ち! 片付けて準備するぞ!」

「あ、くもっちズルい! 今からくもっちが5出したら、大火事に遭って財産半分なくなるぞよ!」


 はいはい2人とも、と言いながら、ボードを端に寄せる雪葉さん。

 ちなみにボードの隣にあるジェンガは、1回もブロックを抜けないまま5連敗した調さんを憐れんで早々に辞めた。



「勝った方が決勝トーナメントですね、調先輩」

 左手をグッグッと握る玲司さんに、茶托をくるくる回しながら調さんが頷いた。


「ああ。ただ、そう簡単には勝たせてくれないぞ。4月の練習試合では1年生が3人入っていたが、今回はガラッとメンバーを変えてくるはずだ。当然、五帝のミーコも入ってくる。気合い入れていかないとな」

 


 五帝、「鉄壁」の駒栗美湖さん。その実力を、僕はまだ知らない。



「お、来たな」

 ドアをノックする音に、玄関まで走る調さん。

「こんばんは、今日はよろしくお願いします」


 美湖さんが先頭で入ってきた。4月にあったときはショートに近かったけど、あれから髪が伸びて肩までかかるくらいになっている。内巻きのカールもかけたらしい。

 細くて長い脚に薄水色の浴衣。なんだなんだ、読モの撮影会場かここは!


「皆さん、入ってきて下さい」

 彼女の掛け声で、他のメンバー4人がぞろぞろと入ってきた。確かに4月とはまったく違う4人。


「灰島君は初めてですね。まずは私と同じ3年生、南条さんと井鳥いどり君です」


 黒髪ポニーテールの女子、南条さんが無言でペコリと挨拶する。その横の井鳥さんは烏丸の隆司さんのように大柄。バスケ漫画のセンターみたいな威圧感だ。


「後は2年生ですね。刈谷かりや君、深貝ふかがいさんです」


 刈谷さんは体格は普通だけど、座布団をギュッと抱き抱えてるから目立つ。

 深貝さんは緋色さんと同じくらい小柄だけど、残念ながら胸も相応の小柄感。ここは緋色さんの勝ち。

 緋色さんの胸といったらそりゃあもう、「球技で使うとしたら何ボールだよ!」的なアレだもの!



「シーラ、前回の借りは返させてもらいますね」

「ふっ、ミーコと対決できるなら、楽しいバトルになりそうだ」


 あれ、なんかいい匂いがする。

「灰島君、どうしました?」

「いえ、なんか美湖さん、柑橘系の匂いがするなあと思って」

 少しキョトンとした後、両手で小さく拍手する美湖さん。


「よく分かりましたね。家から持ってきたシャンプーだと思います。オレンジの香りですね。少し前にお風呂に入ったので」

「さすがだな、爽斗。シャンプーの香りまで嗅ぎわけるとは。俺はさっぱり分からなかったよ」

 玲司さん、そういう言い方されると変態度が増した気になるのでやめて下さい。


「さて、ミーコ」

 押入れから出して積んでいた枕を1つ拾って、調さんが続ける。


「予定通り、0時から開戦でいいな」

「ええ、よろしくお願いします。みんな相当練習してきましたよ」

「ふははっ、練習したのはワタシ達も一緒だ」

 笑顔で握手する2人。美湖さん達が出ていき、全員で机の周りに集まった。



「よし、じゃあ作戦会議といこうか」

 館内見取り図のコピーを広げて、戦略を確認する。本館は9階、別館は6階まである広大なフィールド。


 中継器は前回の烏丸戦同様、本館2階トイレ付近の鉢植え裏と、別館6階の露天風呂入口付近の机下に設置。


「灯、主戦場は決めたか?」

「はい。前回と一緒で、別館の2~4階にします」

「よし、今日もよろしくな、灯。古桑、お前はいつも通り、敵を攪乱かくらんしながら戦ってくれ」

「了解でありますっ! ゆーのさんはどこにいるんですか?」


「ワタシは今回は、本館の2階あたりで待機していようと思う。今まで序盤は上の階にいたことが多いから、向こうもそれを狙っているかもしれない。ここでフェイクを挟んでおこう」

「なるほど! じゃあ、ひぃは上の階にいて、ゆーのさん狙いでノコノコ来たヤツをぶった切ろうかな!」

 枕を持ったまま、バック転をする緋色さん。


 うおおおお、ついに、ついに下着が見え…………な……い…………。


 ちょっと緋色さん! バック転が早すぎて浴衣が捲れてないですよ! 意味分かんない! なんでそんな早くバックしてるの? パンツ見えるかどうか気にしてるの? 何をそんなに急いでバック転する必要があるの?


「爽斗、残念だったな。見えそうで見えなかった」

「あ、くもっち、またしょうもないこと言ってるぞよ!」


「なあ爽斗。俺も今、桑を見ながら、女子高生の下着は茹でるのと蒸すのどっちがいいだろうと思ってたところだ。濡らしたら価値が下がるってことで普通は蒸すんだろうけど、茹でるのもそれはそれで興奮するな」

「玲司さん、『俺も』ってさりげなく僕を仲間にしないで下さい」

 なんですかその一生実現しない2択は。


「家庭に仕事は持ち込まず、キッチンに下着は持ち込む、ってのはカッコいい」

「で、玲司さんは試合始めはどこにいるんですか!」

 話戻しますよ!


「調先輩、俺は始め本館の中層階あたりにいて、指示出しします」

 トランシーバーを緋色さんに渡しながら話す玲司さん。


「分かった。時雲、相手の中継器を探せるようなら、電源切ってやれ」

「もちろんです! 結構広いんで、そうそう見つからないでしょうけど」

 左頬を親指で掻きながら、軽く笑った。


「灰島、お前は始め、古桑と一緒にいてくれ。古桑が言ってた通り、ワタシを消すために上層階に来る敵もいるだろうから、そいつから逝かせてやれ」

「そーちょん、一緒にヤツらを刈り取ってやろう!」

「……分かりました」

 相変わらず試合となるとR18発言ばっかりですね。怖いんですけど。


「灰島」

「は、はい」

「1軍中心になった雛森は相当な強敵だ。ミーコの強さはもちろんだが、あの南条とかいう女子の能力もワタシ達は知らない。苦戦は必至だ。探すのに、お前の目と耳が重要になってくるぞ」


 調さんが僕の肩に手を置いて力を込める。他の3人が、それに続いて声をかけてくれる。

「爽斗、期待してるからな!」

「灰島君、よろしくね」

「そーちょん、ひぃの目と耳になってほしいぞよ!」


 こんなに期待されて、ちょっと緊張するけど、やっぱり嬉しい。


「任せて下さい!」

「よし、円陣組むぞ!」

 調さんの掛け声で、全員が丸くなる。


「これまでの練習を思い出せ。いつも通りいくぞ、勝って決勝だ!」

「はい!」

「枕に風を! 枕に牙を! 掛戸、ファイトーッ!」

「オーッ!」


 廊下にスタッフがいたら怒られそうなボリュームで、5人の声が響き渡る。


「よし、シーバーはチャンネル6、グループ20だったな。各自合わせて、持ち場につけ! 時雲、指示よろしく頼む」

「大丈夫ですよ、調先輩。2階に着いたら連絡下さいね」


「じゃあそーちょん、行くぞよ!」

「はい!」



 浴衣、内ポケットにトランシーバー、両手に枕。

 これが僕らの正装。


 さあ、試合、もとい、戦争の始まりだ。

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