Act.3-6 百合色コンビネーション

 僕達の前にやってきたのは、女子2人。赤いツインテールの風舞さん、青いツインテールの泡花さん。2人とも同じくらいの背丈で、風舞さんは右手に白のブレスレットを、泡花さんは白のシュシュを右手首につけていた。


「私は2年の風舞かざまい礼美れみよ、よろしくね」

 腕の部分が白っぽい光を帯び、フロアに薄く光る。


「私は1年の泡花あわはな空愛そら、レミちゃんの彼女」

 言いながら、レミさんの隣にピッタリとくっついた。


 なるほど、彼女かあ…………彼女?


「か、彼女だとーーーっ! お、お、お前ら、つ、つつつ、付き合って、て、ててるのか! お、おおお女の子同士で!」

 バグったボーカロイドのようにスクラッチしながら話す緋色さん。明るい場所で見たら、ティッシュで拭くと色が移りそうなくらい真っ赤になってるんだろう。


「そうよ、別にいいじゃない、男だって女だって。染色体と体のつくり以外、何が違うわけでもないし。ね、ソラりん?」

「うん、その通り。あの子は男の子としか恋愛できないカワイソウな子なんだよ、レミちゃん」

 早口で緋色さんを煽る2人。


「なにをーっ! 黙って聞いてりゃ偉そうに、このドレミコンビが! さっさと枕構えるぞよ! 首から下無くしてやるぞよ!」

 ソラとレミ、確かにドレミコンビだな、ウマい。

 って緋色さん、最後の言葉怖すぎます。


「さて、戦おっか、ソラりん」

 ブレスレットを軽く撫でて、枕を構えるレミさん。

「うん、やっちゃおう、レミちゃん」

 ソラさんはシュシュにサッと触れて、枕を置く。微笑んでいるのか、不敵に笑っているのか、口を弓張月のように曲げながら、レミさんの後ろについた。


「あかりん、そーちょん。向こうの攻撃かわしたら、3人で叩きこむぞよ」

 後ろにいる僕らに振り返らずに、緋色さんが低い声を出した。


「私達の『一対一双ツインツイスター』、簡単にかわせると思わないでね」

 前にいるレミさんが枕を上に振りかぶって、投枕のモーションに入る。


「ひぃを倒すなら全力でくるぞよ!」

 緋色さんもバク転の体勢に入ろうとしていた。


「いくよっ!」

 ………………え?


 レミさんが声を出した瞬間、上に持っていた枕が突然消えた。

 …………な、何だ? もう投げた? いや、飛んできてないぞ?

 脳内CPUをフル稼働させて瞬間的に考える。


 ヒュウッ!


 次の瞬間、後ろにいたソラさんの青髪が揺れ、彼女の手から高速で何かが飛び出してきた。

 それはおそらく、いや間違いなく、相方の手から奪った枕。


「緋色さん!」

「おわっ!」

 叫ぶと同時に緋色さんを押し、軌道上から外す。


「イテテ……そーちょん、ありがと」

「すみません、急に」

「いや、大丈夫ぞよ」


 レミさんの持っていた枕が消えてからソラさんが投げるまで、1秒もかかってない。完璧な連携プレイだ。


「ふふ、ビックリしたでしょ?」

 無邪気に笑うソラさんに向かって口を開く。


「今の技が『一対一双ツインツイスター』ですか」

「ちょっと違うわね。えっと……灰島君、だっけ?」

 左腕で抱えた枕を右手でトントンと叩きながら、レミさんが続けた。


「技っていうより能力かな。時雲君の『脳内俯瞰トイガーデン』に近いわね。私とソラりんのコンビネーション攻撃は、2人の息がこれ以上ないくらい合ってるから可能なの」

「なるほど。じゃあ片方を崩しちゃえば、もう片方はあっさり狩れるってことね」

「そういうことぞよ」

 掛戸の2年生女子コンビがフフッと笑う。


「あらあら、怖いこと。まあ、もう一発受けてみてよ!」

 そう言ってブレスレットを触ってから、レミさんはもう一度枕を振りかぶった。

 すぐに立ち上がる緋色さん。僕と雪葉さんも、手品を見破ろうとするかの如く枕を凝視する。


 くそっ、またソラさんが投げるのか? それとも、裏をかいてレミさんが普通に投げるのか? 


「それっ!」

 振りかぶったレミさんが、真っ正直に真っ正面に枕を投げてくる。

 さっきのソラさんより早く鋭い枕は、まっすぐ緋色さんを追いかけた。


「ほいっ!」

 事も無げに、バク宙でよける緋色さん。そして、枕の端を持って――

 

 ボフン


「あ……」

 声に気付いて横を見る。

 避けたはずの枕と別の枕が、雪葉さんの足元に落ちていた。

 今の音は、残念だけど間違いない。雪葉さん、当たったんだ。


「あかりん!」

 すぐに状況を把握して、投げるのをやめる緋色さん。


「レミちゃん、やったよ!」

「すごいわ、ソラりん!」

 掛戸のトリックプレイヤーを瞬殺したカップルは、抱き合って喜んでいる。


 そうか、レミさんがわざと大げさなモーションで投げたと同時に、ソラさんもアーチ状に高く投げたのか。


 クソッ、クソッ、全然気が付けなかった。こんなの、目がいくら良くたって意味がないじゃないか!


「くそう、まんまとやられたぞよっ!」

 座り込んで、悔しそうに枕をポカポカ殴る緋色さん。

「緋色ちゃん、気にしないで」

 いつもの、笑っているような憂いているような表情で、雪葉さんが声をかける。


「あかりん、ごめんね。ひぃももっと気をつけてれば死なせずにすんだのに……」

「いいの。私も気付かなかったし、お見事って感じ。殺されても文句言えないわ。灰島君、後は任せたわね。死んだ私の分まで頼むわ」

「…………はい」

 何この「幽霊が一時的に生き返って挨拶に来た」的な1シーン。



「さて、これでこの場は2対2ね」

「どうする? どっちからかかってくる?」

 部屋に戻っていく雪葉さんをチラッと見ながら、ソラさんとレミさんが嬉しそうに話す。

 マズいな、思った以上に手強いぞ、この2人。


「そーちょん、逃げるぞよ」

 小声で僕を呼ぶ緋色さん。その手には枕ではなく、トランシーバーを持っていた。

 トランシーバー? これから逃げるってのに、何に使うんだ?


 緋色さんはトランシーバーに顔を近づけ、視線は2人を捕えたまま口を開いた。

「今だ! ゆーのさん!」

 瞬時に後ろを振り向く相手の2人。


「GO!」

 同時に、緋色さんが枕を持ち、脱兎の勢いで階段の方へ逃げ出す。

 条件反射のような速さで作戦に気付き、同じように猛烈なスピードで追いかけた。


 後ろから「あっ!」という声がする。

「緋色さん……アレって……」

「ブラフぞよ。効果覿面てきめんぞよ」

 僕と違って、全く息切れせずに答えながら階段を上る緋色さん。


 ブラフ……嘘ってことか。トランシーバーにもあんな使い方があるんだな。


「こちら緋色ぞよ。今別館5階の喫煙スペース。くもっち、あかりんがやられた」

「分かった、ってことは、こっちが4人で向こうが3人か」


「向こうの女子2人、コンビネーションプレイで結構強いぞよ」

「ってことは正面から当たらないのが得策か……」


 喫煙スペースでしゃがみこみ、玲司さんと作戦会議。ううん、確かに狙撃とかで倒せれば一番良いな。


「とりあえず、ひぃ達は別れて行動しようと――」


 緋色さんが言葉を遮る。


 下のフロアから音が上ってきた。

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