Act.3-2 初陣、開戦

 部屋に戻り、コンビニご飯をみんなで食べて、緋色さんの持ってきたボードゲームで遊ぶ。全員で協力しあって、世界中に蔓延はびこるウィルスの爆発的流行パンデミックを食い止めるゲーム。


「おわっ! そーちょん、ヤバイぞよ! アジアが全滅の危機!」

「僕ヨーロッパを守るので手一杯ですよ! 玲司さん、ワクチン作ってもらっていいですか?」

「いや、俺はアジアを捨ててオーストラリアあたりにコマを進めようと思う。ここならウィルスいないし気が楽だ」

「アンタは鬼か!」

「アジアだけが、犠牲になればいいんだ……」

 自己犠牲っぽく言ってもダメです!


「爽斗、鬼は言い過ぎだろ。ちょっとだけS成分が強いだけだ。あ、ちなみに、『ちょっとだけ』を『ちょびっとだけ』って言う女の子はかわいいと思う」

「玲司君、相変わらずね」

「なるほど、ステキな嗜好だな。いや、ちょびっとだけステキだ」

「調先輩、サイコーッす!」




 騒いでる時間は本当にあっという間に過ぎて、転げまわって笑っているうちに試合開始30分前になった。


「お、烏丸が来たぞよ! ひぃが迎えにいくぞよ!」


 緋色さんが玄関のノックに反応して開けに行く。引き連れてきたのは、玲司さんと同じくらい、180センチはある角刈り男子を先頭にした5人の敵チーム。


「シーラ、久しぶりだな」

「リュージも久しぶりだ! みんな、紹介するぞ。烏丸高校枕投げ部の部長で今回の大将で五帝の1人、『剛腕』の汐崎隆司しおさきりゅうじだ。ワタシと同じ五帝だぞ」


 調さんの後ろで他の4人と一緒にお辞儀する隆司さんは、角刈りにギラギラした目つきで凄まじい威圧感。隆司さんもチームメンバーの方を見ながら、調さんを指す。


「お前ら、掛戸の大将、『奮迅』の湯之枝調だ。言っとくが、相当強いぞ」

「ふははっ! お世辞はやめてくれ。リュージと闘ったらいい勝負だ」

「うは、負けるって言わないあたりがお前らしいな、シーラ。半年経ってどんだけ強くなったか、楽しみにしてるよ」


 そう言いながら、お互いのメンバー紹介。烏丸高校の残りのメンバーは、男子2人、女子2人。


 男子は、アップバングが爽やかな砂元さんと、150センチくらいしかない小柄な波待なみまちさん。

 女子は、赤ツインテールの風舞かざまいさんと、青ツインテールの泡花あわはなさん。

 隆司さんが3年生、泡花さんが1年生、残りの3人は2年生と、掛戸と同じ学年構成だ。


「面白いわね、みんな海に関係する苗字なんて」

 雪葉さんがクスッと笑いながら言った。波、砂、海風……確かにみんな海に関係する名前だ、スゴいな。


「汐崎、波待……ホントぞよ! さてはお前ら、海の回し者だな!」

 緋色さんがハイテンションに叫ぶ。なんですか海の回し者って。


「なあ爽斗、海のサラサラした砂が太ももについた女性はなんであんなに男の欲望を煽るんだろう。小さいカニを3匹くらい太ももに這わせて『やっ、くすぐったい』とか言わせたくなるよな」

「もっと雪葉さんの発見に驚きましょうよ!」

 雪葉さん溜息ついてますけど!


「ふははっ、うちのメンバーも相変わらずだ。じゃあ海の戦士リュージ、予定通り0時に開戦といこう」

「よろしくな」

 大将同士が握手して、5人が出て行った。


「よし、これより作戦会議だ!」

 調さんが机をドンと叩く。


 緋色さん、玲司さん、雪葉さん、そして調さん、全員が口元をぐにゃりと歪める。

 調さんと緋色さんは使命に燃える戦隊レッドを怖くしたような目、玲司さんと雪葉さんは冷静に任務を遂行する戦隊ブラックを怖くしたような目。どっちも怖え。



 中央には館内見取り図。

「時雲、中継器はどこに設置した?」

「迷ったんですが、広範囲をカバーできるような位置に設置しました。本館2階、トイレ付近の鉢植え裏と、別館6階、露天風呂入口付近の小さい机の下です」


「ありがとう。灯、主戦場は決めたか?」

「別館の2~4階あたりですね。ビリヤード台みたいな障害物が多いから、トリックが使いやすいです」


「なるほど、分かった。時雲、指示頼むぞ。灰島、お前の『知りすぎた男セカンドサイト』が必要になったら呼ぶからな」

「はい!」

 調さんは湯呑を撫でながら目を細めた。


「リュージをどうやって仕留めるかが問題だ。灯や古桑が早い段階で、他のメンバーを殺してくれると助かるな」

「そうですね。緋色ちゃんと協力して、うまくれればと思います」

「おう! ひぃも全力で潰しにかかるぞよ!」

「俺もできる限り雪のトラップに誘導するよ。まとめて複数狩れれば最高だけどな」


 キャッキャウフフなテンションで笑えない言葉を連呼する。この会話に関してだけは、僕が思い描いていた青春とちっとも合致しない。


「よし、じゃあ戦の準備だ。この旅館の浴衣は上前に内ポケットがついてるから、シーバーはここに入れよう。最近の浴衣は工夫を凝らしてあるな」

 各自トランシーバーを入れる。枕に慣れたこともあって、今回僕は帯枕しないでいいらしい。


「シーバーのチャンネルは15、グループも15でお願いします」

 腕を回しつつ軽くジャンプをしながら指示を出す玲司さんと、それを真似して跳ぶ緋色さんと雪葉さん。普通癒し目的で来る旅館で、こんなことやってる団体客はまずいないだろう。


「みんな、今回の枕はそばがらだ。長期戦には注意しろよ」

「大丈夫ですよ、湯之枝さん。私達もちゃんと練習しましたから」

「確かに。灯も大分慣れたものな」


 この1週間、部活ではずっと、そばがら素材の枕で練習してきた。小さくて持ち運びやすいその枕は、反面ずっしり重く、時間が経つと腕の疲労もかなりのもの。長期戦は避けたい。


「よし、行こうか。みんな、手を出せ」

 調さんの号令で、5人の手が円陣の真ん中で重なり合う。


「初戦だ、気合い入れていけよ!」

「おうっ!」

「枕に風を! 枕に牙を! 掛戸、ファイトーッ!」

「オーッ!」

 そのまま、両手に荷物を抱え、スススッと部屋を出ていく5人。


 一般の宿泊者はこれから就寝という時間、これからが僕らの活動の本番。


 桔梗杯予選、烏丸戦がスタートした。




 ***




 お風呂もバーも閉まってるから、出歩いている人はいない。もちろん起きてる人はいるだろうけど、部屋でまったり話したり、お酒片手に騒いだりしてるんだろう。



 試合が始まって十数分。飲み込まれそうなほど大きな静寂に包まれて、現在僕は別館の最上階、6階にある休憩用ソファーの横にしゃがんで隠れている。


 歩いて探さないと攻められないのは分かってるけど、このままここにいて発見されたら反撃できないことも分かってるけど、1人だとやっぱり何ともいえない恐怖心が攻めてきて足を動かせずにいた。


 さて、ここからなら近くの様子は見える。とりあえず誰か来るのを待って――


「……おい」


「ふあっ!」


 ふいに呼ばれ、枕をスローインのように両手で掲げながらガバッと振り向いた。

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