行くか

 個性の塊'sの姿が消えたのは、僕らがダンジョンに入る、ちょうどそれくらいのときだったらしい。パレル内の人に話を聞いてみたり、ギルドにいったりしてみたけど、やはり僕らがダンジョンに入ってから、あの五人を見たという人は一人もいなかった。



「……まぁ、どこかに行ったとしたらきっと……」


「『漆黒』……だな。あそこなら、声が聞こえなくても不思議じゃないし。なにより、この意味深な紙にも漆黒って書いてあるし……」


「我らがダンジョンから出てくるタイミングを伺って紙を落とすなんて、彼らでないと無理だろうな」


「にしたって……」



 個性の塊's……というより、ジュノンさんは、僕らにかなり嘘をついていた。ダンジョンを通過して、確かにA級になれたけど、貰えたのは加護ではなく、鑑定不能の謎スキル。それにギルドで確認したところ、海をわたるのに加護もA級という称号も、なにも必要ないらしい。



「……まず、クラーミルの、ジュノンさんの研究所に戻るのが一番いいですかね」


「おいら賛成。個性の塊'sが手がかりとか残してるならそこだし、アクションを起こすのも多分そこ」


「じゃあ、クラーミルに戻るか」


「そうですね……」



 ……これ、本当に大丈夫なんだろうか? 個性の塊'sが、なんの理由もなく急にいなくなるなんて考えられない。そしてメッセージは『漆黒にて』だった。すぐに漆黒に向かった方がいいのだろうか? しかし……それも、危険な気がする。

 まずは個性の塊'sの足取りを追う。そういうことにした。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 研究所へ戻る道中、一泊だけすることにした。なんといっても、遠いのだ。僕らの体力ことを考えると、一泊した方がいい。なにせ、ダンジョンを抜けてきたばかりなのだ。消耗が激しい。

 ……その証拠なのか、宿につき支度を終えると、ポロンくんとフローラ、そしてスラちゃんは、すぐに眠り込んでしまった。それを確認したアリアさんはふわりと髪をほどき、蝶を左手に宿した。



「さてと……ドラくん。ドラくんも、私と同じ考えだろう?」



 にこりと微笑んだその笑みに、言葉を読み取った。……それは、僕だけじゃない。ドラくんも、アリアさんの言いたいことが、よくわかっていた。



「そうだな。……そろそろ、いいのではないかと思ってな」


「口裏でも合わせてたんですか?」


「まさか。でも……あっちの三人よりかは、私たちが先に聞いた方がいいだろう? お前としても」


「…………」



 二人が言いたいのは、間違いなく、『僕の過去』のことだ。僕がずっと隠し通してきた過去……。それを、そろそろ話してもいいのではないかと、ついには、あちらから切り出させてしまった。



「……本当は、言いたくないですよ。怖いですもん」


「…………」


「でも、話します」



 ずっと逃げているわけにはいかない。だって……ダンジョンで、わかったのだ。このままで僕は、ディランさんに勝てるわけない。即座に殺されておしまいだって。僕はそれでいいかもしれない。でも…………。



「……嫌いになったら、殴ってくれて、構いませんから…………」


「……我らは嫌いになど」


「なるかもしれない。……なっても、いいから…………聞いてほしいんだ。最後まで」



 それは……僕にとって、何よりもの勇気。ドラゴンに向かっていくことよりも、ジュノンさんと戦うよりも、ずっとずっと……。



「…………分かっている。だから、あまり気負うな。そんなに必死にならなくても、私たちは最後まで聞く。それでまぁ……殴られたいなら殴ってやるさ。力一杯な」


「アリアさん……」


「だから、安心して話せ?」



 僕は、小さくうなずくと、ポツリと呟いた。



「……僕は、」


「…………」


「僕は……死ぬ、半年前に、たった一人の親友を――殺しました」



 ……沈黙が、訪れた。しかししばらくして、思っていたよりも明るい声で反応が帰ってきた。



「……そんなことだろうと思ったよ、

な? ドラくん」


「あぁ。お主のことだからな。誰かの命に関わるようなことだろうと思っていた。殺したと言われるとは思わなかったがな」


「……なにも、言わないんですか……?」


「まだ、結果しか聞いていない」



 アリアさんは真剣な顔で、僕を見た。真っ直ぐすぎる赤い瞳に……吸い込まれるようだった。



「そうなるに至る、過程があるだろう? ちゃんとそれを聞かせてくれよ、ウタ」


「アリアさん……」


「お前に非があるかどうか、それがどの程度のものなのか、仲間として許せないほどのものなのか……それは全部聞いた上で、私たちが決める」



 ……そんなに優しくされたら、逆に困ってしまう。僕はその優しさを受けるに相応しい人間ではないのだ。



「ウタ殿……我にも罪はある。それも、つい最近まで隠していた罪がな。しかしお主は許してくれた。ならば、我もきっと、その罪を許そう。少なくとも、仲間としてでは」


「だから、大丈夫だっ!」



 アリアさんが、僕の手を握る。優しく優しく微笑んで。……答えないわけには、いかないだろう。



「…………じゃあ、話しますね。僕の、過去……」

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