閑話 秋の味覚
「うーーーたぁーーー!!!」
「わわわっ?! あ、アリアさん!?」
僕が例の単語帳をペラペラと捲りながらのんびりしていると、突然アリアさんが叫びながらダッシュしてくるもんだから驚いた。
「え、え……お、怒ってるんですか!?」
「あぁ怒ってる。めっちゃくちゃに怒ってるぞ私は!」
「なななな、なんですか!?」
「ウタ? どうかしたのー?」
「ウタさん……なにしたんですか。アリアさんをこんなに起こらせるなんて」
「知らない知らない知らない!」
「ウタ! お前!」
「はいぃっ!」
あまりの重圧に僕が立ち上がると、アリアさんはそのまま詰めより僕に壁ドン。どうせなら、もうちょっと胸キュンなシチュエーションで、僕からしたかった……とは言えず。
「お前……!」
「っ……!」
「私の! 期間限定モンブラン風、生クリームと国産卵黄をたっぷり使った和栗プリン食べただろ!」
「なんですかその美味しそうなのは!?」
「れ、冷蔵庫に入れておいたんだぞ……? アイテムボックスより、そっちの方がよく冷えて美味しいからっておばちゃんに教えてもらって……。
でも! さっきと食べようとして見たら! なかったんだ!」
「い、いやあの! 確かにその……モンブラン、生クリーム……」
「期間限定モンブラン風、生クリームと国産卵黄をたっぷり使った和栗プリン」
「……という美味しそうなものを食べられてしまった気持ちはわかります。でも、落ち着いてください! 僕は! 食べて! ないです!」
……という僕らの論争を聞いていたスラちゃんが、あっと声をあげる。
「ごめんアリア! それ食べたの、ぼくだよ」
「えっ、スラちゃんが食べたのか?!」
「うん、おいしそうだったから。ごめんなさい」
「そっかスラちゃんか。ならしょうがないか」
「態度変わりすぎてません?」
「ウタさん、仕方ないですよ。スラちゃんですよ?」
「うっ……た、しかに。それは否定できない……」
いや確かに分かるけれど、僕は完全に冤罪でガッツリ怒られたことになる。と、それに気づいたアリアさんがちょっと困ったように笑いかけた。
「いやー、ごめんな。やたらめったら聞いて傷つけてもーって思ったからさ。とりあえずウタからにした」
「僕ならいいんですか」
「多少は大丈夫かと思った」
「いいですけど……」
にしても、と、僕はふと思った。
アリアさんは大の甘い物好きだ。それは前からそうだった。が、最近ゆっくりする時間もほとんどなく、最後に甘いものを食べたのは……あの誕生会のときだろうか?
「……いきますか?」
「どこにだ?」
「お茶しに」
「…………」
「……二人は?」
僕はアリアさんの答えを待たず、二人に訊ねた。というのも……表情からして、YESに間違いないのは分かっていたからだ。
「行きたいです!」
「わーい! 行く行くー!」
「ポロンくんとドラくん、買い物から帰ってくるの待とうか」
「そうだな」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「…………!」
「……アリアさん、本当に甘いもの好きですよね」
「そうだね。でも、可愛くていいんじゃないかな?」
「あ、アリア姉! おいらあれ食べたい!」
「あれか? いいぞー。ほら」
「わーい!」
と、いうことで僕らはお茶をしに来ていた。……が、久しぶりだったし、色々とあったあとだ。街の人に聞いたらビュッフェスタイルのお店があるときいて、お金は僕が持ち、みんなでここに来ることにした。各々好きなものをとり、席につく。
「って、アリア殿……そんなに食べきれるのか?」
「ん? 食べきれるぞ! なんと言っても秋だからな! 食欲の秋! 美味しいものがたっくさんだ!」
「リンゴ、ぶどう、栗、かき……少し考えただけでもこんなに思い付きますもんね」
「にしたって……取りすぎじゃないですか?」
アリアさんがとったのはタルトやショートケーキ、チョコレートなど、お皿計三つ分。……僕の三倍である。
僕だってそんなに少食ではないわけだし……この量は結構だ。
「だーから、食べきれるっていってるだろ! バカにするな!」
「バカにしてる訳じゃないですけど……」
「ふっふっふー、いいねアリアさーん、その心意気!」
「……待て、そう何度も驚かないぞ? ……おさくだな!?」
「そうそう! 来てたんだよね、アイリーンと」
「やっほー」
アイリーンさんとおさくさんは……アリアさんよりたくさんのお菓子を持っていた。
「……そんなに食べるんですか?」
「そうだよー?」
「ウタくん……これは戦争だから!」
「戦争……え?」
「テラーもジュノンもそんなに食べないしー、ドロウはドラゴンと戯れるってさー。
甘いものを食べてこその秋なのに! スイーツこそ! 秋の味覚なのに!」
「珍しくおさくに全面的に共感できる! そうだぞウタ! これは戦争だ! 食べて食べて食べまくるんだー!」
「……なんというか、思ってたより、甘いもの足りてなかったみたいですね、アリアさん」
「……そうだね」
その後、アリアさんはお皿をもう2枚分おかわりし、見事に完食した……。
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