わかんない

「ねね、フローラって、どこ生まれなの?」


「わ、私は……マルティネスのサワナルっていうところで」


「マルティネス!? すっごいや。そんな遠くから来たの!? 俺らの住んでるパレルは東の端っこの方にあるけど、マルティネスは真反対だよな!」


「う、うん……」


「リード……たまには休む時間をくれてやれ。フローラは、そこまで話が得意な方じゃないんだ」


「えー、でも俺、もっと話したい」


「でもってなぁ……」



 リードくんがそう、ほぼ一方的にフローラに話しかけるのを、ポロンくんは終始むすーっとした顔で見つめる。リードくんを睨み付けるようにじーっと。



「…………んだよ、おいらの方が、もっと前から……」


「ポロンくん……?」


「あっ、いや、なんでもないやい!」



 ぷいっと顔を背けたポロンくんだったが、



「で、なんでフローラはこの人たちと一緒に旅をしてるの? 家族は?」



 そんなリードくんの言葉を聞いて、はっとして振り向いた。……さすがに、その質問は止めようかと思った。フローラにとって『家族』は、いい思い出が一つもない、ただの地獄だったのだ。思い出したくない記憶の一つのはずだ。



「そ、それは…………えっと」


「あ、もしかして家出? 俺と一緒? マジかー! それスッゴク嬉しいなー。好きになった人が、自分と同じ行動をとってたーなんて!」


「いや、そうじゃなくて」


「あれ、違うの?」


「…………」


「……リードくん、その話はもうやめよう」



 見ていられなくて僕が声をかけると、なんの悪気も無いような目でリードくんは告げる。



「なんで? 好きな人のこと知ろうとするのの、何がいけないんだよ」


「なんでって……」


「……いいかお主、人には話したくないことの一つや二つ」


「俺無いもん。隠し事してる方がしんどいからさ。フローラもしんどいんじゃないの?」


「いや! ……私は、隠してる訳じゃ」



 不意にフローラが目を伏せる。と同時に、前髪を留めていた髪飾りがキラリと光った。



「ん? なにそれ!」


「え……」


「え、ねぇこれ見せて! すっごく綺麗!」


「あ、待って!」



 フローラの制止も聞かずに、リードくんはフローラの髪飾りをその髪から外し、手に取る。……アリアさんが、フローラにあげた髪飾りだ。留められていた前髪がパラリと落ちて、その瞳を隠した。



「ねぇやめて。それは返して!」


「返すよ。ちょっと見てるだけ」


「お願いだからそれは持っていかないで! ねぇ、家族のことも話すから、それは」


「だから盗らないってば。心配性だなぁ」



 そういう問題じゃない。僕がそう言おうと思った瞬間、



「――リヴィー」


「え、な、なに!?」



 リードくんの体に、植物の蔦が巻き付く。それはその体をゆっくりと持ち上げ、キリキリと締め付ける。操っているのは、ポロンくんだ。



「ポロン……?!」


「さっきから聞いてたらよ……お前、フローラの気持ち全っ全考えてねーな!」


「いたっ……な、なんのこと……?」


「とりあえずそれ、返せよ。ただの髪留めじゃねーんだよ!」


「っう……」



 思わず、といった感じでリードくんが髪止めを手放す。それをポロンくんは下でキャッチすると、リードくんを睨み付けた。



「相当幸せな環境で育ったんだろうな、お前みたいなやつ。人の心がわからない、人を考えて行動しない、お前みたいなやつはな!」


「ポロンくん、もう下ろしてあげて!」


「そうだ、こんなことしたって解決にはならない。分かってるだろ? リードだって、悪気があった訳じゃ」


「ウタ兄もアリア姉も、どうしてそんな冷静でいられるんだよ! おいらは我慢なんないやい! 人の心に土足で踏み込んで、そのまま踏み散らかして!」



 ポロンくんはさらに強くリードくんの体を締め付ける。……さすがに、よくないな。



「アリアさん、あっちを」


「分かった」


「ドラくんはこっちね」


「あぁ」



 僕はアイテムボックスから剣を取り出すと、リードくんを締め付けていた蔦を斬る。上空で支えを失ったリードくんの体はアリアさんが受け止め、また魔法を唱えそうになったポロンくんは、ドラくんが押さえた。



「ポロン……」


「…………フローラ、おいら分かんないよ。どうしてそこまでされて平気なのか、分かんないよ……。フローラの方が辛いはずなのにさ、どうしておいらの方がこんなに……」


「…………」


「なぁ、俺、何が悪かったんだよ。盗ったわけじゃないしさ? 酷いこと言ったわけでもないよ?」



 アリアさんは、ここまで来ても変わらないリードくんの態度にうんざりしたようにため息をつき、半ば無理矢理、僕らから少し離れたところにつれて行った。



「……ポロン」


「…………フローラ、へんなことして、ごめん。……これ、傷、ついてない?」



 ポロンくんが白い花の髪止めを差し出すと、フローラはそれを受け取り、少し手の中で見つめ、髪につけ直した。



「大丈夫、ありがとう。

 でも……他の人を傷つけるようなこと、もうしちゃダメだよ?」


「うん……ウタ兄も、ドラくんも、あとスラちゃんも、ごめん」


「我は構わん」


「ぼくも許すよ。……ウタは?」


「僕はそもそも、怒ってないよ」



 僕は、このときのポロンくんの行動を『すごいな』と思ってみていた。



「やり方は間違っていたけど、仲間を助けようとしたんだもんね」



 そう言って、彼の頭を撫でた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る