対策案
「なるほどな……大体、分かった。大体だがな」
アリアさんはドラくんの話を聞き終え、そううなずいた。
「とにかくヤバイんだよな! そいつ!」
「ポロンの言い方はちょっとざっくりしすぎだけど……そういうことだと思う」
「いいじゃんよフローラ! ざっくりでも!」
「それで、どうするつもりなの? ウタは」
スラちゃんか僕を見上げる。……いくつか、考えがないこともない。ただ、そもそも狙われるかどうかも分からないのに無駄に気を張り続けて、それで本来の目的が果たせないのもどうかと思うのだ。
「……一つだけ、ドラくんに聞いてもいい?」
「なんだ?」
「話を聞いている限り……その、ニエルがドラくんに、何かをやらせたとか、そういう話を全く聞いていないんだけど、それは、話しづらいから暈したの? それとも……?」
ドラくんは金色の目にそっと陰を落としながら、小さく笑った。
「……いや、暈して言わなかった訳じゃない。本当に、何もやらされていなかった。それが我にとっては幸運なことであり、同時に、とんでもなく不運なことだった」
「……話したくないなら、いいですよ?」
「そうだよ! おいらたちは」
「いや……」
ドラくんは視線の上、木々が揺れ、木漏れ日が形を変えていくそこを見つめながら、静かに語る。
「……目の前で何人も死んだんだ。まず逃げようとする足をやり、次に抵抗しようとする腕をやり、最期に頭を、そして息の根を止める。それを、ずっと目の前で見ていた。
あいつが我に出す指示は、『なにもするな』だけだった」
なにもするな……。それは、加勢は不要と言う意味。そしてそれと同時に……余計なことはするんじゃないと、釘を刺しているのだ。
「手出しされたくないのなら、呼ばなければいい。だがあいつは我を呼んだ。わざわざ我を呼び、目の前で人を殺していくのだ。なにもするなと指示してな……」
「…………」
「何も出来ないというのは……悔しいものだ。助けを呼ぶ声に答えることも出来なかった。伸ばされた手を、今まさに伸ばされた手が切り落とされる前に、掴んでいれば。駆け寄ってやれれば……お互い、どれだけ楽だったか」
ドラくんは悪くない。……でも、この優しいドラゴンのことだ。きっと、自分を責め続けているのだろう。……今でも。
「だが我には、あいつに勝てるだけの力がなかった。もしもまた、同じようなことになったら……」
「…………ニエルより、ウタの方が強い」
不意に、はっきりと、アリアさんが言った。まっすぐにドラくんを見るその赤い瞳には、一切の迷いや疑念はなかった。
「今のウタは、『勇気』を発動させなくても、十分強い。ドラくんが関われば、きっと『勇気』だって発動させる」
……僕には、そんな確信はなかった。自分の力に……そんな自信はなかった。だけど、仲間を守りたいって気持ちは、あったから。
「……もう、そんなことにはならない。同じようなことになりそうになったら、今度は伸ばされた手を掴めばいい。次は一人じゃない。私たちがいる。ニエルの方は、私たちがどうにかするさ、きっと」
「……そう、か」
「……それはそうと、なにか、対策案ありませんか? もしもニエルと対峙したときに、情報が一つでもある方がいいと思うんです」
フローラが、話の話題を変えるように、そう提案する。……確かに、なにか対策出来るものがあった方がいいかもしれない。
そんな僕らに、ドラくんがいう。
「あいつの殺り方は、いつも決まっている。必ず同じだ。
一に右足、二に左足、三四が腕で、五に頭。……この順で必ず殺す。だから、両腕を攻撃されるまでは、息の根を止められることはない。まず出来るのは、それまでに逃げることだ」
それから、と、ドラくんはポロンくんたちの方を見る。その目には、明らかな心配が含まれているのが分かった。
「あいつは、子供を狙う傾向がある。必ず……というわけではないが、少々、おかしな嗜好がある。出会い頭に殺すことはないが、顔を見られたら要注意だ。
特に……ポロン、フローラ、スラちゃんは、危ないかもしれない」
「ドラくんは……ほら、今は人の姿になっているわけだけど、ニエルから見て、気づくと思う?」
「さぁな……まぁ、あいつなら気づいてもおかしくはないな。その程度には、強い相手だ」
そんなことを話しながら歩いていたら、だんだんと日が陰ってきた。経験上、夕暮れ時から夜に変わるのは、思っている以上に早い。今日はこの辺りで野宿だ。休めそうな場所を探そう。
「……6人が眠れるくらい広い場所って、そんなにないんだな」
「そうだね……あ、ウタさん! アリアさん! あそこ、ちょっと川に近いですけど、広い場所ありますよ。空を見る限り、大雨とか無さそうですから、どうですか?」
「いいな。ついでに魚でも採って食べるか」
「……焼き魚ですか?」
「……煮魚にしようか」
「ありがとうございます」
「お主にとって焼き魚はなんなんだ……。悪魔やらなんやらの方がよっぽど怖いだろう」
今さらのように突っ込むドラくんに笑いかけながら、僕は、その奥にある心を、何となく読み取っている。
『失いたくない』
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