買い物

 その後、僕らは店を出て、街を歩いていった。食事代は全て僕らが持った。払うとは言われたけれど、誕生日だ。それに……あんな話をしたあとだ。



「お揃いの物っていっても……色々あるからなぁ。どういうのがいいとかあるか?」



 アリアさんがレイナさんに訊ねる。少し悩んだような素振りを見せたあと、レイナさんは手話を返した。



『出来れば、ずっと身につけていられるようなものがいいかな』


「身につけるものか……」


「服とか、アクセサリーとかですか?」


「いやでも、それだと僕ら男組はお揃い無理だよね。アクセサリーはともかく、服は……」


「我らは買わなくてもいいんじゃないか? アリア殿とレイナ殿だけでも」



 ドラくんの言葉に、レイナさんは慌てたように強くかぶりを振った。



『みんな一緒のものが欲しい。お金は私が出してもいいから、Unfinishedのみんのと、お揃いのものがほしい』


「…………」


「……そうか。じゃあなんか良さそうなの探すか!」



 街中を歩きながらお揃いにできそうなものを探す。うーん。お揃いっていっても難しい。キーホルダー的なのだって悪くはないのだけど、やはり女性向けの物が多いし、なにより、同じもの、または色違いのものが7個もないのだ。

 お揃いにするには、7個必ず必要だ。数が足りないんじゃ話にならない。



「へいへーい! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! いいものたくさん揃えてるよー!」


「ちょっとした小物から焼き物まで! いろんな物揃えてるよー!」



 不意に、そんな明るい声が響いた。見ると……なぜか髭つきの鼻眼鏡をかけた二人組が、屋台のようなものを人力車のように引きながら、小物を売り歩いていた。



「……なんだ、あれ」


「さぁ……小物売ってるみたいですけど」


「行ってみますか?」


『ちょっと楽しそう。あれ、変な眼鏡だけど、おしゃれかな?』


「レイナさん……」


「行くか」


「お、兄ちゃん姉ちゃんいらっしゃーい! お探しはどんなものかな?」



 一人がニコニコしながら僕らを屋台の方に誘導する。キョロキョロと辺りを見渡すと、屋台の上にはどっさりと小物がおかれている。

 ジャンル……と言っていいのか分からないけど、毛色も様々で、パステルカラーの、いかにも女の子って感じのものから、モノクロでかっこいい感じのもの、エスニックな民族っぽいもの、原色中心でポップなもの。


 ……小さな店に、よくこれほど詰め込んだなーって感じだ。



『最近始めたんですかね……こんなお店、あったかなぁ』


「あぁ、最近ですよ! 三日前くらいにクラーミルに来たばっかりで! 色んな国を回って物を売っているんですよー!」


「そうなんですね……ん?」



 この人、さらっと手話で返したぞ? クラーミルの人ならともかく、色んな国を渡り歩きながら商売をする人が、みんな手話を分かってるとは思わない。



「あの……手話? 出来るんですね?」


「あ……えっと」


「前にハンレルのおじいさんに教えてもらったんだよねー!」


「う、うんうん! そう! そうだった! そう!」



 ……んー? なんかおかしいぞ?



「あっ、見てくださいこれ!」



 そこで僕の思考は一旦途切れる。近づいてみてみると、フローラが手に持っていたのは、俗にいうミサンガというやつだった。



「ミサンガ……か?」


「こっちにもあったんですね」


「このミサンガ、色んなデザインありますし、男性でも女性でも大丈夫なので、お揃い、いいんじゃないですか?」


『うん、いいと思う。かわいい』


「じゃあ、これ買うか!」


「良かったら、オリジナルのもの作りますか?」


「作れるんですか?!」


「値段は市販のものを買うのと同じですよ。鉄貨8枚!」



 800円か……。うん、自分で作るのも、いいかな。



「お揃いにしたいなら、こういう……天然石とか、同じものをつけたりしたらいいんじゃないですか?」


「いいなー! これ!」


「皆さんお作りしますか?」


「はい! お願いします!」



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 一時間後、僕らのミサンガは出来上がった。みんな好みによってデザインは異なるが、共通で、透明の天然石をつけた。天然石は、色んな光を反射して、虹色に光る。……すごくきれいだ。



「ぼく、手首につけとく!」


「あ、おいらもそうしよ!」


「みんなで手首につけましょうか!」


「そうだね」


『ずっとお揃いなの嬉しい』



 ちらっと横を見ると……なんか、ドラくんが苦戦していた。



「どうかした、ドラくん」


「いや……何もない。大丈夫だ」



 その手にはミサンガ。……なんとか手首に着けようとしてるが、うまくいかないのか、ちゃんとつけられてない。



「……つけようか?」


「いいのか!? あっ……いや……自分でやる」


「はは……つけるよ。貸して」


「面目ない……」



 僕らがみんなミサンガをつけると、不意に、鼻眼鏡の店員さんが口を開いた。



「いやー、いいじゃん! 結構いいのできたじゃん!」


「ねー! 私の案も悪くなかったでしょ?」


「そうだなぁ、グッドオーシャンフィールドの新商品にでも加えて」


「……グッドオーシャンフィールド?」


「…………あ」



 ……まさか、この二人……。

 よく見たら、なんか、どっかで見たことあるような……。どっかの魔法使いと侍に似ているような……?



「……あれ、僕らのこと、放っておくって言ってませんでしたっけ?」


「なんてそんな……変装? をして」


「…………」


「…………」


「あの」


「短期間ゴリラ!」


「あっ!」



 ……二人はものすごい勢いで走りだし、視界から消えてしまった。……おさくさんと、テラーさんだよな、今の。なんで鼻眼鏡……。


 呆れた気持ち半分。……嬉しかった気持ち半分で、僕は、左腕のミサンガを見つめた。

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