成長

 クラーミルへ向かう道中、僕は船に揺られながら自分のステータスを確認していた。




名前 ウタ


種族 人間


年齢 17


職業 冒険者


レベル 23


HP 34500


MP 18400


スキル 言語理解・アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(中級)・体術(中級)・初級魔法(熟練度5)・光魔法(熟練度3.5)・炎魔法(熟練度3)・氷魔法(熟練度2)・水魔法(熟練度1.5)・風魔法(熟練度1)・土魔法(熟練度1)・回復魔法(熟練度2)・使役(中級)・ドラゴン召喚


ユニークスキル 女神の加護・勇気・陰陽進退


称号 転生者・ヘタレ・敵前逃亡・B級冒険者・Unfinished




 ……うん、やっぱりそうだよね。見間違いじゃないよね。



「増えてる……」


「ん? どうした、ウタ?」



 アリアさんは舵を握りながら僕に訊ねる。僕はその後ろで柱に体を預け、ぼんやりとステータスを眺めていた。



「知らない間に、属性魔法が増えてます」



 マルティネスに帰ったとき、水魔法が増えていた。そして今回、人身売買グループとのもろもろが終わって、気がついたら風魔法と土魔法が増えているのだ。



「良かったじゃないか。リヴィーとかは使い勝手あるし、風魔法も使いようによっては便利だろ?」


「でも、普通こんなに習得できるんですかね? 個性の塊'sならともかく、僕はただの転生者ですし……」


「ま、広い分野に対して相性がよければ、そりゃ属性魔法も多く習得出来るだろう。普通は偏るが、全部使える人もいないわけじゃない」


「んー……」


「そんなに気になるのか?」


「気になるっていうか……はぁ! この世界に来てから覚えることが多すぎて、頭がパンクしてきました……」


「まぁ……魔法は半分フィーリングだ。初級魔法と、得意な属性魔法を上手く扱えるようになればいい。

 それに、今度また、テラーに会うことがあれば、教えてもらえばいいだろう? 元職業魔法使いだ。魔法に関してはスペシャリストだからな」



 テラーさんの名前が出てきて、僕はこれから会いに行く、もう一人について考えた。


 個性の塊's最強のリーダーであり、仲間ですら魔王だと言い切るその人……ジュノン。

 今まで会った塊'sのメンバーだって、十分すぎるくらいに強かった。それでも、それを上回るほどの強さ。それも、話だけ聞くに、圧倒的な強さ。



「気になるなぁ。どんな人なんだろう、ジュノンさん」


「さぁな。でもまぁ、塊'sのリーダーだ。今さら、どんなやつでも驚かない」



 すると、後ろからドタドタと足音がして、操縦室の扉が開き、フローラとポロンくんが入ってきた。



「見てくれよアリア姉! ウタ兄!」


「お魚、こんなに大きいの釣れましたー! しかもたくさん!」


「わぁ! ほんとだ、すご…………。

 これ、今日の夜ご飯?」


「……刺身で食えるらしいから、目は気にしなくてもいいと思うぞ」


「そっか!」


「あからさまに態度変わるな! 全くもう……スラちゃんも大変だなー、ウタ兄のこと助けるの」


「ぷる(そりゃもう)」


「うっ……ごめんって」



 するとフローラが、あっと小さく声をあげた。



「そういえば、ドラくんって、どうしてウタさんに遣えてるんですか? スラちゃんとはまだしも、ドラゴンなんて……普通に考えたら、あり得ないことですよね?」


「まぁ、僕の場合は偶然に偶然が重なって……あはは。ご飯の時にでものんびり話すよ」


「話してくれるんですね!」


「隠すようなことじゃないし」



 ……そういえば、ミーレスとの一件があってから召喚を控えていたせいか、しばらくドラくんに会ってないことを思い出した。



「アリアさん、ちょっと甲板出てきますね」


「あぁ。どうした、急に」


「ドラくんに会いたくなって! この辺、迷惑になるような場所無いですよね?」


「あぁ、暴れたりしなけりゃ一番近い島からも見えないし、問題ないと思う」


「じゃ、おいらたちは魚さばいとくか!」


「そうだね! いっぱい取れたから煮付けもつくろっか!」



 僕はちょっとウキウキしながら甲板に出て、手を前に出した。



「ドラゴン召喚っ!」



 現れるのは漆黒の翼を持った、ドラゴン。西の王、ダークドラゴン。



「……久しいな。今回はどうした?」


「んー、どうもしてないかな」


「どうもしてない?」


「しばらく会ってなかったからさ、元気かなーって。会いたくなっちゃった。ダメだった、かな?」



 ドラくんはちょっと驚いた感じで目を丸くしたけど、そのあとすぐ、柔らかく微笑んだような気がした。



「なんだ……そんなことか。お主は我の主なのだぞ? 良くないわけがないだろう」


「怪我は、もう大丈夫?」


「あぁ、もうすっかりだ。お主はどうだ? あのあと大事ないか?」


「うん! 平気だよ!」



 するとドラくんは僕のことをじっと見て、やがて小さく笑みをこぼした。



「え……なに? なんか顔についてる?」


「いや……人間は成長する生き物だなぁと思ってな」


「成長……?」


「あのときのお主はレベルも低く、戦闘の経験もなく、今よりもっと臆病でビクビクして、我の顔をまともに見ることも出来なかった。

 しかし今は、こうして、目を見て、話すことが出来る。根本は変わっていないかもしれない。


 しかしウタ殿……お主は、我から見て、確実に成長している」


「――――」



 僕が……成長、か。


 それが本当なら、嬉しいな。

 でも……僕は、僕の根元はまだ全然変わっていない。



「…………そうかな。ありがとう」


「少し、背に乗るか?」


「うん、乗りたい!」



 僕がヘタレになった原因……。

 僕が一番恐れているものは、焼き魚の白い目でも、ドラくんのちょっと鋭い金色の瞳でも、ましてや自分の死ですらない。


 大切な人の命が『また』失われることなのだから。

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