閑話 クリスマスイブ

 試着室の前でボーッと待っていると、侍さんが声をかけてきた。



「やっぱりさ? アリアさん美人だからミニスカサンタ似合うと思うんだよねー! ね、どう思う?!」


「……正直似合うと思いますけど」


「だろ?! だろ?! やっぱり私の目に狂いはなかった!」



 ……そういえば、この人、十中八九個性の塊'sなわけだけど、クリスマスどうするんだろう。



「あの」


「私らはジュノンのところでクリパだ! 個性の塊's大集合するよ!」



 心読まれた。



「そうなんですか? あっ、でも、テラーさんとアイリーンさんがいるなら料理とか美味しそう」


「それと、ラーメンは外せないね」


「はい……はい?」



 と、そこまで話したとき、アリアさんが試着室の中から顔だけ出して侍さんに訴える。



「な、なぁ……やっぱり、脱いでいいかな、これ。人前ではちょっと……」


「えー?! 見たいー! 見ーたーいー!」


「嫌だ! 絶対嫌だ!」


「ほら、ちらっとだけ! ちらっと! ウタくんも見たいよね!?」


「え、あ、はい」


「ウタ……?!」



 とたんにアリアさんの顔が真っ赤に染まる。そして、少しあたふたしながら必死に訴える。



「で、でもお前分かってるのか!? わ、私だぞ? 可愛い女の子とかじゃなくて、私だぞ?」


「いやいや、アリアさんは可愛い女の子だよ! ねぇ?」


「そうですね」



 これには激しく同意である。アリアさんは可愛いし美人だ。否定する材料は皆無である。



「アリアさんは可愛いし美人ですよ」


「お前はどっちの味方なんだ!」


「正直にいうと、アリアさんのミニスカサンタ、すっごく見たいです」


「……っ! あー! もう、好きにしろ……」



 そういうとアリアさんは、カーテンを押さえていた手を離す。すかさず侍さんがカーテンをシャッと開く。



「…………」


「…………」


「な、なんか言えって!」


「「かわいい……」」



 実際にサンタ衣装を着たアリアさんは、とっっっっってもかわいかった! いや本当にかわいかった。

 赤と白を基調とした服に、アリアさんの金髪はよく似合った。ふわふわと揺れるスカートもかわいらしい。



「なんなんだよお前はもう……。い、言っとくけど! 私はこれ買わないからな!?」


「アリアさーん、あのさー? もうちょっとえっちいのあるんだけど着てみないー?」


「着ないっ! なんだよえっちいのって……。一応聞くけど、どんなのだ?」


「こんなのー!」



 侍さんがどこからか出したそれは、今アリアさんが着ているのよりも、もっと……なんか…………えっと、うん。肌色が多いですねって感じだ。



「誰が着るかそんなもん!」


「大丈夫だよ! 某ユウナレ○カ様の服の表面積は、全部合わせても手袋くらいにしかならないから!」


「大丈夫な要素が何一つ見つからない!」


「そしてほぼ名前いってるし!」


「FFⅩはよいぞ! クリスマスプレゼントにぜひ!

 と、言うわけで、サンタコスチューム二着で銀貨6枚だよ!」


「そしてやっぱり金とられる!」



 ……まぁ、東京の都心部でハロウィン仮装してる人に比べたら……安い、の、かな?



「……アリアさん、結局どれにするんですか?」


「こいつが出してきたヤバイのは絶対に嫌だ。今着ているやつにする。百万倍ましだ」


「あ、はい」



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



「それじゃあみんな――」


「「「「メリークリスマス!」」」」


「ぷるるー!」



 色々あったが、こうしてクリスマスパーティーは始まった。机を出して、椅子を並べ、食べ物を囲む。かなり寒いが、それもまたいい。



「おい」



 ケーキやチキン、それにポテトサラダにローストビーフまで買ってきた! 今日は色んなものが食べられるなぁ。



「……おい、お主」



 そうそう、シャンメリーと言うのも買ってきた。シャンパンを模した炭酸のジュースなんだけど



「ウタ殿!」


「ん? どうしたの、ドラくん」


「お主ら……どうしてわざわざ外でパーティーをしている? それも、宿の外などではなく、森だぞ? 凍えるほど寒いというのに」


「だって……ねぇ?」


「ドラくんも、おいらたちの仲間だろ? 一緒にパーティーしたかったんだよ!」



 ……そう、せっかくのクリスマス。パーティーのみんなで楽しみたかったのだ。だから、外に出て、ドラゴン召喚を使った。



「そうなのか……。わざわざ気を使わんでもよかったのに」


「でもまぁ……その体じゃ一緒に食べられませんもんね。ちょっとの間でも人の姿とかになれたらいいのに」



 フローラがそう呟くと、僕のアイテムボックスがなにかを主張する。……単語帳だ。まさかと思って取り出してみると、あの単語が光っている。



「……プレ、天丼のふりをする」


「ん? ウタ殿――」



 言葉の途中でドラくんの体が光に包まれ、そして、僕と同じくらいの大きさになり、光が消える。



「――一体何をいって……ん? な、なんだ!?」



 あわてふためく彼は、なんというか……隣にいて申し訳なくなるくらいイケメンだった。

 あくまで単語は『~のふりをする』だからなのか、肌の一部には鱗が、口のなかには牙が、背中には羽が残ったままだった。黒髪には赤いメッシュが入り、とってもかっこいいです。



「……もう、なんか、やだ」


「なっ?! な、なぜウタ殿が落ち込んでいるのだ!? して、この体……一体どういうことなのだ……?」


「多分、単語帳の力だよ」



 僕らの想いに反応して、こたえてくれたのだろうか? ちょっと嬉しくなった。



「イケメンだろうとそうじゃなかろうと、今はいい。この姿なら、一緒に食べられるな」



 アリアさんがそう言いながらチキンの乗ったお皿を差し出す。

 ドラくんは戸惑いつつもそのお皿を受け取り、にっこりと笑った。



「あぁ……では、いただこう」



 ……幸せだなぁ。

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