北海道の美味しいお米です

「で、三人はディランさんを探してサワナルに行くんだよね?」


「な、なんで知ってるんですか!?」


「あー、やっぱりそうなんだ」


「かまかけたのかよ……」



 テラーさんは……なんというか……自由だ。僕らのことはこんな感じに探ってくるくせに、自分のことはぼかして教えてくれない。

 パッと見た感じはごくごく普通の女性だ。黒髪黒目っていうのが日本人っぽい。至って普通なのだが、普通はしない言動をしている。


 むー、こうも意図的に隠されると知りたくなる。



「ところで、テラーはサワナルに住んでるんだよな?」



 そこで、アリアさんが話題を変えた。そうだこの人! あの変だって言われてたサワナルに住んでる人だった! 黒かったり静かだったりする理由を知ってるかもしれない。



「うん、そうだけど」


「なんか、最近のサワナルは変だって聞いたが……?」



 ……だがしかし、今のところ、素性を隠されているような気はするが、おかしな感じはない。至って普通(?)な感じがする。

 同じように思ったのか、ポロンくんがテラーさんに言う。



「テラーは普通、だよな?」


「それは私が住んでるのが南の方だからじゃないかな?」


「そうなのか?」


「他のところでは変な宗教が流行っててね。……メヌマニエって、知ってる?」


「あっ」



 待ってそれ、すっっっごく聞き覚えある。聞くだけでなんか拒絶反応出るんだけど。なんだっけ? えっと……えーっと…………。思い出せない。



「……すいません、メヌマニエって、なんですか?」



 ……なんか、某お米のCMみたいになってしまった。でもまぁ、テラーさんには通じるはずないから大丈夫――



「北海道の、おいしーいお米ですよ」


「通じた!?」


「そうなのか?」


「絶対違うよポロンくん!」


「北海道ってどこだ?」


「アリアさん知らなくていいです」



 な、なぜ『ゆめぴりか』が通じた!? 意味が分からないよこの人! だって異世界で『ゆめぴりか』なんて売ってるわけないよね!?



「まぁ、北海道はほっといて、メヌマニエはなぜか神として崇められてる謎の何かってことかな」


「謎のなにか」


「謎のなにかって」


「そこつっこんじゃう? まぁ正直に言うと、謎のなにかは文字通りなんなのかよく分かんなくてさ。私はさ、ほら、頭が足りないからさ。ね?」


「ね? じゃないですよ! ね? じゃ!」


「まぁまぁ、そんなに怒らないで」


「起こってません! 気になるんです話の続きが!

 …………ん? メヌマニエ?」



 と、思い出した! 睡眠学習用CD! あれで説明されてたのが『メヌマニエの崇め方』だった! えーっと、たしか……。



「メヌマニエってもしかして……黒いもの身に付けて、食べ物とかを備えて、礼をして……みたいなやつであってます?」


「あー、そうそう! 思い出したか!」


「思い出しました!」


「あ、もしかしてあれか? ウタがうなされてたときのあれ?」


「そうですそうです!」



 ……なんでこの人、思い出したって分かったんだ? あ、怪しいよ……。怪しすぎるよぉ。



「まぁとりあえず? メヌマニエっていうのが信仰対象として流行り始めちゃって、ここ一年でかなり蔓延しちゃったかな。街の人はだいたい狂信者だし。私にはちょっと理解不能かな」



 テラーさんが言うには、メヌマニエ教には大きく三つの決まりがあるらしく、一つ目は黒いものを身につけること。メヌマニエ教の間では『黒』が神聖な色らしく、常に身につけていないといけないんだとか。

 二つ目は声を発してはいけないこと。理由は、人の言葉は穢れているから、だそうだ。確かにそうかもしれないけど……。

 そして、どうしても僕が理解できなかったのは三つ目だった。



「三つ目は、信者じゃない女を殺せっていうこと。だから、アリアさんは黒服の人に会ったら逃げなきゃダメだよ、マジで」


「え、ちょ、ちょっと待て! 信者じゃなければ、殺されるのか?」


「殺されるね」


「……お前は?」


「私はほら、信者じゃないから、アリアさんのこと襲ったりはしないよ? 多分きっともしかして」


「不確かだな! って、そうじゃなくて、お前は襲われないのか?」


「……うーん、まぁ、ね?」



 信者じゃないけど襲われなくて、その理由をはぐらかし、素性すら教えてくれない……。うーん、なんとも難しい人だ。


 と、そこで急に馬車が止まる。ガタンと大きく揺れ、驚いてコルトンさんに声をかける。



「大丈夫ですか?」


「す、すみません急に止めてしまって……実は――っ! ちょ、ちょっと中に入れてくださいっ!」


「わわっ!」



 逃げるようにコルトンさんが転がり込んでくると、外で何かの呻き声が聞こえた。……こ、この声って……聞き覚えある! 結構前に聞いたこの声!



「キマイラか!?」


「は、はい! 見た感じ80レベル以上の個体が4体以上います! どうやら、縄張りに入ってしまったようで……」



 テラーさんが僕らの様子をうかがうように小さく微笑む。



「悪いけど、私丸腰だし、ブランク四年あるし、そもそもサポート系だったんで、中かで待ってますねー。

 怪我したら言ってくださいな。ヒーラーじゃないけど、ある程度は治すよ」



 それを聞いた僕らはうなずき、外に視線を向ける。……レベル差があるなんて分かってる。でも、戦えるのが僕らしかいないのであれば――戦うしかない。


 僕らは、馬車から降りた。



「……さてさて、お手並み拝見っと」

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