突然の同行者

 馬車の座席部分はかなり広い。そして、なんと二列になっている! やったぜ!

 アリアさんに魔属性球体を貸してもらって生活魔法をかけ、身体をきれいにする。そして、そのまま寝る。僕とポロンくんが後ろで、アリアさんが前の席だ。


 そして朝になり、御者体験をさせてもらう。といってもさすがに手綱は握らせてもらえず、隣で見るだけだったがそれでもかなり楽しい。



「へぇ、こんな感じにやってるんだな」


「アリアさんは馬車、乗ったことありますよね?」


「確かにあるが、御者の姿を見ることはなかったな。お前は姫なんだからそんなこと知らなくていいんだー! って言われてな。へそ曲げて拗ねてたな」


「あっはは、アリア様が拗ねてるなんてあまり想像できませんが、やはりあなたも普通の人間なんですね。ちょっと安心しましたよ」


「おいコルトン、私はいつでもいたって普通だぞ!」


「これは、失礼しました」



 そう言いつつもアリアさんと御者のコルトンさんの表情は明るかった。

 朝日は森の中を優しく照らし、木漏れ日が暖かく心地いい。ポカポカして眠くなってくる。



「ポロンはまだ寝てるのか?」


「えっと……まだ寝てますね。スラちゃんも一緒に寝てます」


「こういうところ見てると、ちゃんと子供なんだなって安心するな」


「そうですね」



 ずっとキルナンスに所属していて、辛い環境にいただろうから、塔に行ったときも僕らの前でほとんど弱みを見せなかった。

 そんなポロンくんが完全に無防備ですやすや寝てるのが、なんだか安心するし、嬉しかったのだ。



「……あれ? 誰かいますね」



 コルトンさんが呟きそちらを見ると、確かに一人の女性がいて、こちらに向かって手を振っている。眼鏡をかけて長い黒髪を一つにまとめたその人は、何か訴えているようだ。



「珍しいですね、こんなところに人がいるなんて」


「そうなのか?」


「はい、サワナルの人はほとんど街から出ませんし、他の人はここに来ませんから」


「そうなのか……止めてくれ」


「承知しました」



 コルトンさんが馬車を止めると、その女性が駆けてきて僕らに声をかけた。



「よかったぁ、たまたま人がいて。あの! この馬車ってサワナルに向かってます?」


「あぁ、そうだが……お前は?」


「あっ、すみません。私、テラーって言うんですけど、ちょっと道に迷っちゃって……。お金は払いますんで、サワナルまで乗せてってくれませんか?」



 アリアさんがちらりと僕を見る。いいかなぁ、ということらしい。僕は特に不振な感じもなかったし、いいんじゃないかと言う意思表示で小さくうなずく。



「……分かった。サワナルまででいいんだな?」


「はい! ありがとうございます!」


「アリアだ。で、こっちがウタ」


「アリアさんとウタくんっと、よろしくお願いします!」


「見た感じお前の方が年上だろう? 敬語はいいよ」


「あ、そうですか? ではお言葉に甘えて……」



 そして、テラーさんが馬車に乗り込むと、後ろで寝ていたポロンくんが目を覚ました。



「んー、おはよ……って……うわぁぁぁぁぁ?! な! なんか知らないやつがいるぞ!?」


「あー、大丈夫大丈夫、その人は――」



 そうやって僕が説明に入ったのだが、



「ふっふっふ……知っていたかい? キルナンス四天王には五人目がいたことに……」


「テラーさん!?」



 なんかとんでもないこと言い始めたよこの人!? てゆうか四天王なのに五人目って!



「ま、まさか……!?」


「そう、この私がキルナンス五人目の四天王。我が頭領の仇、打ってみせる」


「う、ウタ兄! ヤバイって! ど、どうすんだよぉ!」


「いやいやいや! そうと決まった訳じゃないって言うか多分違うっていうか……」



 そ、そうだ、鑑定! それで分かったことならポロンくんにも信じてもらえる! ……成功するか分からないけど。




名前 テラー


種族 人じゃね? 多分きっともしかして


年齢 見た目相応?


職業 さぁねー?


レベル どう思う?


HP あはは


MP いひひ


スキル うふふ


ユニークスキル えへへ


称号 おほほ




 まともに分かったの、名前だけやないかい。このパターンなんかデジャブ……。ど、どうする? もうポロンくん半べそかいてるし……。

 と、僕が困り果てたところで、テラーさんが笑い始めた。



「あっはは、ごめんごめん! つい反応がおもしろかったからさ!」


「……え、え、え」


「ごめんねポロンくん、私、キルナンスでもなければ敵討ちなんてしないからさ」


「ほ、本当なのか?」


「本当本当、敵討ちする相手なんていないし……。

 私はただの通行人Aです!」



 そうしてにこにこ笑うテラーさんに、ポロンくんはようやく安心したようだった。


 と、みんなで椅子に座り、森で迷うに至った原因を探ってみることにした。



「テラーは……どうして迷ってたんだ? お前も冒険者か?」



 アリアさんがそう聞くと、テラーさんは懐かしむように呟く。



「冒険者じゃ、ないんだよなぁ。前にやってたときもあったけどやめちゃって」


「じゃあなんで森に? サワナルに用でもあるのか?」


「用っていうか……住んでるからね、サワナルに」



 ……ん?



「すんでるのに迷ったんですか!?」


「そうなんだよねぇ」



 こうして、僕らが出会った通行人Aは、めでたくサワナル一人目の住民へと格上げされたのだった。

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