侍再び

 アイリーンさんへの頼み事は明日にお願いすることにした。というのも、今日は色々あって疲れてるし、街の様子も見ておきたい。

 それに、アイリーンさんが気絶させ、ギルドの方々に捕らえられたキルナンスから話も聞きたい。


 聞きたい内容は三つ。

 一つ目、キルナンスの上層部について。

 説明したかもしれないが、キルナンスは世界的にも迷惑している犯罪集団だ。

 人身売買を行うグループはわりと地位が高いという。実際、捕らえられたのは今回がはじめてだ。幹部や頭領について、何か知っているかもしれない。


 二つ目、最近起こっているドラゴンの異常行動。それの原因になっているもう一つの『勇気』について、なにか情報はないかということだ。

 あとでギルドでも聞き込みをしてみるつもりだが、闇の世界で生きる彼らの方が知っていることもあるかもしれない。どちらにせよ、聞くことが出来るのなら聞いておきたい。


 そして三つ目ディラン・キャンベルについてのことだ。

 これに至っては、こちらにある情報はゼロに等しい。少しでもなにか掴めればこちらのものだ。

 そう、例えば、東の方に向かったとか、どこどこで見たとか、隣国にいるらしいとか……なんでもいい。些細なことで構わないから、情報がほしいのだ。


 以上の理由から、僕らはギルドに向かっている。というのも、この街には留置場のような場所はなく、現在一時的に、ギルドの奥に簡易的な牢をつくり、そこにキルナンスの人をいれているらしいからだ。

 ちなみに、簡易的といっても、作ったのは錬金術師と呼ばれる人で、脳内に想像できるものならばとても精密に作ることが出来る。よって、とっても丈夫である。属性魔法の熟練度8までなら耐えられるとか。(捕まったキルナンスの人たちの中に、熟練度8以上の魔法を使う人はいなかった)



 ……それと、キルナンスとは直接関係はないのだが、僕らには気がかりなことが一つあった。

 例のあの人のことだ。ヴォルデモートじゃない。



「…………謎ですね」


「謎だな」



 そう、あの、反復横跳びしてて、時計を売りつけてきたあの人だ。いや、それだけでも十分謎なのだが、謎なのはその少し前だ。


 「4時47分東から」


 ……なぜ知っていたのだろう。だって、さすがにキルナンスだって外部にやすやすと情報を流すほどバカじゃないだろう。しかし知っていた。……キルナンス、だったのか?

 しかし、それならそれで謎だ。わざわざ僕らに伝える必要だってない。第一、アイリーンさんがジャッジメントするときに指定した標的は『キルナンスの人々』だ。例外はない。

 となると、キルナンスじゃないけど情報を知ってて、僕らに伝えたと思ったら時計を売りつけると……。



「……意味不明だ」


「あいつを見つけたら、また声をかけてみるか。……ぼったくり覚悟で」


「ぼったくり覚悟で」



 そう、まさにそのときだった。



「ユンユンユンユンユンユンユンユンユンユンユンユン――」


「…………」


「…………」



 僕らの目の前を、当の本人が両手を頭の横でくるくるさせながら通りすぎ、小道に入っていった。



「…………あ!」


「……ちょ! 待って!」



 慌てて追いかけて小道に入ると、そこはすぐに行き止まりになっていて、あの人の姿はなかった。



「……見間違えた、か?」


「いやでも、そんなことな」


「なーんの話ーーー?」


「「うわっ?!?!」」



 急に後ろからした大声に驚き振り向くと、あの人がにこにこしながら立っていた。



「あ、あの! あなたって一体何者なんですか?」



 するとその人は、またとんちんかんなことを言う。



「氷、雷、光、風、炎。この順番がいいんじゃないかなぁ? と、侍は思うぜベイベー」


「べ、ベイベー……?」


「ベイベーのベイは、米って書くんだぞー」


「べ、米ベー?」


「いやどういうことだよ」



 とりあえず、この人が何者なのか知りたい。教えてくれないのなら……多分無理だけど、鑑定!




名前 名乗るほどの名はないのさ!


種族 人間にさせて種族くらい


年齢 いくつに見えるかなー?


職業 侍でござるよ( ・`д・´)


レベル うぇっ、へっ、へっ


HP テレッテッテレッテー


MP ふぁーーーーーー!!!


スキル やっぱさー、侍が使うと言ったら剣術だよねー! いやっほう!


ユニークスキル 君のハートを撃ち抜くこと、さっ!


称号 えー? こんなのも見ちゃうのー? ダメだってばぁー!




 ……遊ばれてるのかな、僕は。顔文字まで使ってる。こんなのありか? ありなのか!? いやダメだろ!



「ところでお二人さーん! 腕時計、使ってくれてるねー、気に入ってくれたようで嬉しいよー!」


「いや、これはなんとなくつけてるだけで」


「まったまたぁ! ツンデレなんだから!

 と! いうわけで、今回は新しい商品を持ってきたよー!」



 …………おっと、この流れは嫌な予感。



「取り出しますのはー、こちら! 睡眠学習用スピーカーつき枕!」


「いらなっ!」



 前回以上にひどい! 腕時計はまだ使えたからよしとしよう。百歩も二百歩も譲ってね!?

 しかし! 睡眠学習用枕はどう考えても使わない! 本当にいらない!


「アリアさん……」


「……覚悟の上だった。覚悟の……」


「全力で断りましょう」


「あぁ、そうだな。断ればいいんだ、断れば」


「今ならこちらの、スピードラーニングCDもつけて、お値段なんと! 金貨一枚! 安いでしょお?」



 高い。



「さ! お二人さん、買ってくかい!?」


「いや! 私たちは……」


「ぼ、僕らは買いませ」


「リピートアフターミー!

 イエス! マイプレジャー!」


「「い、イエス! マイプレジャー!」」



 …………はぁ。うぅ、頭が痛い。

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