ep.15 また
ルシエラはエクスの事を考えていた。
優しい青年が、魔王を討つ為に世界中の人の想いを背負って旅をする。
人々の希望として立ち上がり、闇を払う。
聞こえは良いが、やっている事は唯の人柱のような事ではないか?
ルシエラはそう考えていた。
魔物や魔族と戦い、死の恐怖と戦う一方で人族やエルフ、獣人族からも期待され崇められる。
勇者だからと。神託の通りだと。
故に負けられない。逃げられない。
恐怖を、弱さを吐露する事が出来ない。
そんな孤独の中でただ平和の為に戦わなければならない。
そんな事をあの青年は成そうとしているのか。
ルシエラは先程のエクスの様子を思い出す。
弱々しい口調で、まるで怒られた子供の様に顔を俯かせながら「期待に応えられない事が怖い」と言ったエクスの姿が、何故か酷く心に刺さる。
ふと部屋のソファの方を見ると、エクスは静かに眠っていて。
少しからかえば恥ずかしがる、年相応の振る舞
いを見せるエクスに、ティエラは不思議と心地よさを感じていた。
眠っているエクスに近付き、頭を撫でる。
「……勇者として選ばれたんじゃない。君が勇者として産まれたんだ。だから、君のしたい事をすれば良いんだよ」
優しく声を掛け、撫で続ける。
眠っているエクスが一筋の涙を零した事に、ルシエラが気が付くことは無かった。
「今は、今だけは休むといいよ。おやすみ……エクスくん」
エクスは、夢を見ていた。
村に騎士の鎧を来て帰ると、家族が祝ってくれた。
妹が飛び付き、父からは背中を叩かれる。
暫くすると、キッチンから母が自分の好物を持ってきて。
そんな夢の中で、幸せな時間を過ごす。
次に瞬きした時は、辺りは幻想的な空間だった。
花が咲き乱れ、不思議な青い空に包まれた空間にエクスは立っていた。
その空間をエクスは覚えている。
塔から帰る際に気を失い、目が覚めるまでの間に見ていた夢と同じ空間だった。
振り返ると、少し朽ちた神殿が目の前に建っている。
(この奥は……確か……)
神殿に歩みを進め、中へと入っていく。
少し開けた場所に、その女性は居た。
両手を組み、祈る様に目を閉じている。
エクスが近付くと、やがて目を開き
「また、お会い出来ましたね……」
初めて、声を掛けられる。
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