ep.24.5 [僕は]

ティエラがエクスの手を取り、魔王討伐に参加する事になったその日の夜。


皆は旅の準備をする為に宿へと帰り、又は旅の荷物を購入する為に各々個別に行動していた。


エクスは早めに行動を終え、少しだけ魔物を狩ろうと街を出た。少しでも魔物を減らし、門兵の負担が軽くなれば良いなという思いもある。


辺りをふらつき、スライムや蝙蝠型の魔物────フォレンドバット、フォレンドビーと言われる蜂の魔物を狩っていた。


(寝ていた分を早く取り戻さないと………強くならないと………!)


魔物を狩り続け、気が付くと太陽が落ちていた。

それ程迄に焦っていたと言える。



何故なら、僕は勇者だから。負けられないから。



剣を振るい続ける中、エクスは迷宮で戦った魔族との戦闘を思い出す。


死んだと思った。慢心はしていなかった。

それでも膝を付き、フレメスと名乗った魔族の目はエクスを見ていなかった。



否、正確にはエクスという個人を見ていなかった。

ただの弱い人間。その一人だと、目が語っていたのだ。


それが何より悔しかった。



命懸けで戦った相手は、同格どころか戦闘とすら見なしていなかったのだと。そう思ったから。


事実、ティエラの貼ったバリアと爆風による目眩しが無ければ意表を突き倒す事すら出来なかった。


王都での戦いもそうだ。


不思議な魔力が無ければ、あの場にルシエラが居なければそのまま殺されていたのだろう。



それが何よりも悔しかった。




(僕は………僕に、出来るのか?)


飛び出すフォレンドバットを剣の腹でいなし、流れるように切り裂くと、そのまま切り上げスライムの核を切断する。


『キィィィィィ!』


死角からこちらを刺そうと針を向けながら飛んでくる蜂を躱し様に切り落とす。

暫く狩り続けていると、草原の奥からフォレンドボアがこちらを見ている事に気付いた。


その大きさはトーフェが先日首を落としたそれよりも小さかったものの、それでも尚エクスよりも大きく。


エクスは脳裏に、トーフェが首を切り落とした瞬間を思い出す。


────あれが出来なくても、せめて二撃で決める………!





睨み合い、少しずつ力を込めながら、それでいて無駄な力を落とすように。


『ブギァァァァァァァァァ!!』


「………っ!」

瞬間、走り出すフォレンドボアと同時に動き出す。


ぶつかる直前で横に身をかわし、すれ違いざまに首を狙い一撃。


が、厚い毛皮と脂肪により中程で止まる。


『ギィィィィィ!!』


剣を抜き、続け様にもう一撃加えようとし───


「っ!筋肉で剣を抑えてるのかっ!」


剣が強い力により押さえ付けられ、蹴り飛ばされる。



「ぐぅっ!!!」


その衝撃を利用し剣を無理矢理引き抜くが、ダメージを負う。


吹き飛ばされた先で正面を見ると、血走った目でこちらへ再び走り出す姿。



「く、そぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


吹き飛ばされた衝撃で立てないのを悟ると、剣に角度付け突進を流し、そのまま首へともう一撃加えた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


力の限り叫び、己を鼓舞するとそのまま首を落とす。


荒い息を吐き、地面に手を付く。


「────くそっ!!」


蹴られた脇腹から響く鈍痛ですら、今はただ無力感を感じる材料の一つだった。








────僕は、弱い。

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