ep.10 戦闘、決意。

部屋を包む魔力に気付いた瞬間、エクスは腰に付けていた袋を少女へと投げ渡す。


「中にマナポーションがある!飲んだらすぐ逃げて下さい!ここは僕が────」


剣を正眼へと構え、見据える。


「────時間を、稼ぎます!」



エクスの様子を見て、男は心底不思議そうな表情を向けた。


「おや?戦うのですか?この私と?」


そう言いながらふわりと浮かぶと、男は笑う。



「いい、実にいい!自分からその能力を見せてくれるとは!本来なら魔物を使って実力を測るつもりでしたがまぁいいでしょう。彼等には上で足止めして貰わないと行けませんからねェ!!」


まぁそれは置いておきましょうか、と続ける。


「戦う相手には名乗らなければ行けませんね。それが例え実験体だとしても」


空中でおどけたようにお辞儀をすると、名乗る。



「私は【フレメス】、魔族であり研究者です。それで、貴方のお名前は?」


剣を構えながら、エクスは茶番に付き合う。


「………人族のエクスだ。そして────」


足元に、密かに構築していた魔法陣を展開させる。


色は緑。求めた効果は【加速】。



「────魔王を討つものだ!!」


声と同時に男の魔族、フレメスへと跳ぶ。


魔法陣の加速により、爆発的な速度を持って斬り掛かるエクスに、フレメスはたった一言。



「─────素晴らしい」



甲高い音を立てて一撃を止められると、そのまま鍔迫り合う。


「速度の乗った攻撃に加え、迷いなく首を狙う思い切り。私の爪に響いてきますねェ……!」


エクスは止められたと同時に足に魔力を込めると、そのまま空を蹴飛ばして方向転換。


後ろへ回り込み、斬り掛かる。


「器用な事をしますね、火属性魔力を使った小規模な爆発を利用して方向転換ですか。面白い」


焦ること無く難なく受け止める。


「くそっ……ならこれで!」


エクスは後ろへ飛ぶと『火弾』を複数放ち、時間差での攻撃を仕掛ける。


「小細工をする程度の知能もある、と」


飛んでくる火弾を爪で斬りながら分析をしていく。


「はあっ!」


火弾とは反対側から斬り掛かる。


「まぁ甘いんですけどね」


そう言うと左腕で火弾を散らし、右腕の爪で剣を受け止めるとそのまま力を込め、エクスを吹き飛ばす。




吹き飛ばされながらフレメスの方を見ると、後を追うように飛んでくる火弾。



「くっ!」


姿勢を整え、壁際に脚を向ける。


壁に足が着くと同時に、そのまま壁を走りだす。


それに合わせて追い縋る火弾を一瞥すると、壁を蹴り再びフレメスの元へ跳ぶ。


「おおっ!まるで曲芸ですね!素晴らしい!」


火弾を撃つのを止めると、そのまま爪で迎撃する。



再び、甲高い音と共に鍔迫り合う。







少女は目の前に繰り広げられている戦いを見ていた。


(凄い……)


器用に壁を走り、魔力を使いながら魔族と互角に戦うその姿に見惚れていた。



魔族は余力を残している様に見えた。

それでも諦めずに何度も斬り掛かり、魔法を使い、吹き飛ばされるその姿に。


何処か師の面影を感じて。


いつの間にか、少女の胸の中にあった絶望は消え去っているのに気が付く。


(………私も、戦わなきゃ…………!)


少女の中に芽生えたのは一つの決意だった。


(これ以上、私は傷付く姿を見たくない!!!)


強く思う。


(これ以上、私を守って消えていく姿を見たくない!!!!!)



マナポーションを飲み干し、目を閉じる。


脳裏に浮かべるは少女を可愛がってくれた、師匠の戦っている姿。


優しい笑顔で癒し、傷付く仲間に悲しそうな表情を浮かべていた師匠の。


あなたの後を、引き継ごう。



それが、私の出来る貴方への唯一の恩返しだから。



だから。




──────貴方の役目、魔王討伐を引き継ごう。

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